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EU離脱に臨むイギリス——その凋落はどこまで続くのか

キャプション:ボリス・ジョンソン氏は2019年7月にテリーザ・メイ氏に代わり、保守党党 首と首相の座に就く最有力候補と目されている。(ファイル/AFP)
キャプション:ボリス・ジョンソン氏は2019年7月にテリーザ・メイ氏に代わり、保守党党 首と首相の座に就く最有力候補と目されている。(ファイル/AFP)

イギリス人にとって、退陣が決まったテリーザ・メイ首相について明るい言葉で語るのは難しい。全ての勢力を同時に満足させられなかったのが、あるいはメイ氏の最も優れた特質だったかもしれない。2016年の国民投票に至るまで、メイ氏は常に「EU残留」に投票してきた。それ以降の3年間は、うるさく専横的な離脱強硬派とEU残留に投票した残り半分の国民との間で、話し合いの筋道を付けようと孤独な試みを続けてきた。メイ氏が失敗した原因は、EUの経済的枠組み・法的枠組みを離脱する案も含め、おおよそブレグジット派に譲歩しすぎたことに求められる。また当初は「合意なき離脱」を容認する姿勢を見せていたことも、原因のひとつに挙げられるだろう。

メイ氏の協定案は下院の採決で記録的な大敗を喫した。その後何度も、実質的にはその否決されたブレグジット法案と変わらないもので議会を強行突破しようとした。しかし最終的にメイ氏が首相を辞任することになったのは、2回目の国民投票の可能性を鼻先にぶら下げることで、労働党の支持を得ようと試みたことが原因だった。その策に打って出てからは、閣内で最も協力的だった味方でさえもメイ氏を見限った。

保守党の重鎮(ジェレミー・ハント外相を含む)数人がメイ氏辞任後の首相候補に名乗りを上げたが、最有力候補はなんと言ってもボリス・ジョンソン氏だろう。イギリス版ドナルド・トランプと呼ばれる人物だ。ジョンソン氏を見る議員の視線は軽蔑、不安、歓迎とさまざまだが、首相の最終的な選任はイギリス全土に散らばる保守党員という比較的少数の人々の投票により行われることになる。保守党員の多くは、ジョンソン氏を登場が待たれる救国の志士か何かのように見ている。

極度の欧州懐疑派であるこれら草の根党員の支持を取り付けるために、首相の座争いの議論は自ずと右寄りにならざるを得ない。他の候補は公約にも慎重な部分を残しているが、(わが世の春が来たと信じて止まない)ジョンソン氏は既に抑えの効かない大言壮語を繰り返している。頭のおかしいバス運転手が乗客もろとも崖から転落しようとエンジンを吹かしているかのように、ジョンソン氏は、10月までに何らかの合意に達しない限りイギリスをEUから強硬離脱させると息巻いている。10月の期限までにもう一度EUと協議する時間が残されていることなど眼中にないようだ。

首相という高職に就けば、ジョンソン氏にも多少の責任感が生まれるだろうか。外相の地位にその効果がなかったことは確かだ。記者会見で文言を正しく読めず、テレビカメラの前でぶざまな失態を繰り返し、外遊では風変わりな礼儀作法で相手を困惑させた。首相になったからといって、ただちに立派な政治家に生まれ変わることはなさそうだ。

イギリスは緊縮財政を余儀なくされ、社会は慢性的な苦境に陥っているが、そうした姿に私は常々衝撃を受けてきた。しかも状況は悪化しつつある。ロンドンの街はホームレスで溢れている。約140万人の国民が相対的貧困に苦しんでいる。国連の予測では、2021年までに貧困生活を送る児童が桁外れの40%という数字に達することが見込まれている。アメリカやEUの経済は好調であるのに、イギリスの生活水準は向上しない。政治家がEU離脱を巡り派手な論争を繰り広げる間、 社会政策は二の次の地位に押し込まれてしまった。

ブレグジット問題が長く暗い影を引く中、大手産業の多くが国外に脱出したり、破綻したりしている。自動車産業や金融機関が国外移転し、直近の例では鉄鋼会社ブリティッシュ・スティールが破綻した。EU離脱の効果を盲信する議員たちも、もはやトランプがイギリスにとって特別に有利な貿易協定を結んでくれるとは主張しなくなった。実際、トランプの訪英はイギリスの政治的傷口にさらなる塩を塗ることになりかねない。そうなると、イギリスが世界との繋がりを断ったあとで、将来的な繁栄を保障してくれるものは何があるのだろうか。

スコットランド、北アイルランド、ウェールズ、グレーター・ロンドンといった地域は投票でEU残留を強く支持したにもかかわらず、離脱の苦しみを味わわされることになる。スコットランドでは議員が独立をつぶやき、アイルランドでは国境の扱いで混乱が生じている。ここで合意なき離脱が強行されれば、イギリスの分裂が促進されかねない。

ブレグジットで合意に達することができなかったイギリスは、仕方なく欧州議会議員選挙に参加することになった。二大政党が有権者の支持を取り付けられない中、新しく登場したブレグジット党が国民の不満の受け皿となり第一党となるものと思われる。ブレグジット党の党首はナイジェル・ファラージ氏で、以前はイギリス独立党を率いていた。EU離脱騒動の引き金を引いた人物のひとりだ。

欧州の極右政党は欧州議会議員選挙で躍進できる見込みを前に、EUの理念をねじ曲げ自分たちの用に供しようとよだれを垂らしている。合法化され活力を得た極右政党がもたらす結果を我々は既に目にしている。人種差別に起因する暴力沙汰が増え、社会の緊張が高まっている。右翼ポピュリズム政党が牛耳る欧州の国を増やしていくのに、ジョンソン氏は理想的な相棒と見なされるだろう。

ジョンソン氏とファラージ氏は、EU離脱は痛みなど伴わず容易に達成できると主張して国民を欺いた。その結果、グレートブリテンは夢見心地のままユートピア的孤立主義に向かって進むことになった。警告を発する声はすべて「恐怖心を煽る陰謀」だとして非難された。保守党党首選挙に立候補しているマイケル・ゴーヴ氏は、2016年の国民投票でも遊説活動を行ったが、集まった資料が気に入らず、イギリス人は「もう専門家の意見には飽き飽きしている」と発言した。

合意なき離脱は経済面で大損害をもたらす可能性があるにもかかわらず、市民が大挙してブレグジットに投票した地域では、EUへの別れの告げ方として無理やり離脱した方が立派で潔いとの見方が浸透しつつある。こうした地域の人々は、大衆迎合主義の右派タブロイド新聞からヒステリックな反EU的言説を絶えず吹き込まれている。

メイ氏の後継者は、もう一度国民投票を行おうとする試みにはほぼ間違いなく反対するだろうが、国民投票をやり直すことが多分イギリスにとっては最良の結果を生むだろう。2016年の国民投票は、不安定な政治情勢下でほんの僅差でEU離脱派が勝ちを収めたが、3年が経過し、残留への支持が次第に高まっていることが調査結果から明らかとなっている。EU離脱派の間でも、現在の状況は自分たちが意図したものとは違うと危惧の念を抱く者が出てきている。離脱という当初の結果の再考を促す者を、大衆迎合のタブロイド紙は「裏切り者」「市民の敵」などと非難しているが、イギリス人は民主主義の原則に立ち返りもう一度国民投票を行うことを恐れてはならない。その場合、負けた側は、結果を受け入れて従わなければならない。

今後数か月間の避けられない政治的混乱の中で、イギリスの政治指導者が「合意なし」と書かれた自爆ボタンを押す決定を下したら、経済は急降下し失業率が急上昇するだろう。そうなると最もつらい目に遭うのは一般の有権者だということが、なんとも悲しい現実だ。

このような瀬戸際に追い込まれるに至り、イギリスや欧米諸国の人々は、賢明で洞察力のあるリーダーの出現をかつてないほど待ち望んでいる。今こそ登場が待たれる冷静で知性に満ちた声は、しかし、どこからも聞こえてこない。

バリア・アラムディンは中東とイギリスを拠点に活動するジャーナリスト兼ブロードキャスターで、賞を受けた実績があります。メディアサービシズシンジケート社の編集長を務め、複数の国家元首をインタビューした経験があります。

https://www.arabnews.com/node/1502321

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