ロシア・ウクライナ危機の調停役として、イスラエルは最も可能性の低い国の一つであった。ロシアのウクライナ侵攻を非難する国連安保理決議案に、イスラエルは共同提案国として加わらず、米国と欧州の同盟国を大いに落胆させた。しかし、その後はワシントンからの圧力もあり、ロシアによる国連加盟国への侵攻を非難する総会決議を共同提案し、賛成票を投じた。しかしイスラエルは、クレムリンとキエフ両方の政府と連絡を取り続けることに大きな関心を持っている。
トルコと中国も仲介を申し出ている中で、イスラエルはここ数日、潜在的な仲介者として登場した。イスラエルの外交官は、自身もユダヤ人であるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領からの致死的兵器の提供の嘆願を断った。また、在イスラエル・ウクライナ大使は、イスラエルがキエフを支援するためにヘルメットすら送る勇気がないことを嘆いた。しかし、それでもイスラエルのナフタリ・ベネット首相は、要するに「ヨーロッパの危機」において、自国が地政学的に有利な役割を果たすチャンスと考えたのである。
土曜日、彼は予告なしにモスクワに飛び、ウラジーミル・プーチン大統領と会談し、3時間話した。その後ベルリンに向かい、ドイツの首相とブリーフィングを行った。日曜日の夜にはプーチン氏から電話を受け、翌日にはイスラエルのヤイル・ラピド外相がラトビアでア米国のアントニー・ブリンケン国務長官と会談している。ベネット氏自身、イスラエルの調停が行き詰まる可能性があることを認めているが、イスラエルは政治的ポイントを獲得することになるのである。ベネット氏は、アメリカとヨーロッパの同盟国と同じく、モスクワ訪問をクリアしたと語っている。
しかし、なぜイスラエルはモスクワとキエフの仲介にそれほど関心を持つのだろうか。一つ目に、ロシアが自国の国境に位置するようになったとイスラエルが言う、シリアの問題がある。プーチン氏がベネット氏に電話をかけてから12時間足らずで、イスラエルはシリアのダマスカス空港をその範囲内とする目標に空爆を開始した。テルアビブにとって、国家安全保障上の優先事項がある。そえは、シリア国内の、ヒズボラやイランの支援を受けた民兵の拠点と思われるエリアをイスラエルのジェット機が爆撃するのをロシアに見逃してもらうことだ。今のところ、プーチン氏はほぼ毎日行われているイスラエルの空爆に関して、シリアでの交戦規定を変えていないように見える。しかし、それは変わる可能性がある。
イスラエルがモスクワとのコンタクトを維持したい二つ目の理由は、ウィーンでの核協議が妥協点に近づいているように見えることと関連する。イランは、ウィーンでの核協議が合意に達しようとしているときに、モスクワが新たな条件を提示したことに苛立ちを示している。ベネット氏は、ロシアが最終合意の前にギリギリのハードルを置くことを望んでいる。モスクワの計算とイスラエルの計算は今のところ異なるかもしれないが、核合意の遅れは両者に利益をもたらすのだ。
最後に、ベネット氏は、危機の結果としてウクライナのユダヤ人が国内に流入することで、イスラエルが利益を得ることができると考えている。イスラエルの情報筋によれば、戦争の結果、20万人を下らないウクライナ系ユダヤ人がイスラエルに流入する可能性があるという。ウクライナは世界でも有数のユダヤ人人口を抱える国である。すでに少数のウクライナ系ユダヤ人がイスラエルに到着している。
しかし、ベネット氏は綱渡りをしている。この戦争は地域的な危機ではなく、世界的な危機である。米国は同盟国に明確な立場をとるよう迫っている。イスラエルも西側諸国と同様、ある時点でどちらかの側につくことになる。特に、キエフがロシアによって陥落した場合だ。さらに、イスラエルはロシアのウクライナ侵攻と、自国のパレスチナ植民地化、国際法違反との類似性を指摘されることは避けられない。
ベネット氏自身、イスラエルの調停が行き詰まる可能性があることを認めているが、イスラエルは政治的ポイントを獲得することになるのである。
オサマ・アル・シャリフ
ウクライナ当局はすでに、イスラエルがロシアに宥和的であると批判している。イスラエルの仲介役も、ここまでが限界だろう。危機が深まれば、いつかはロシアとイスラエルの仲に亀裂が入る。ベネット氏の役割は、今後数日間のウクライナでの出来事によって損なわれるかもしれない。
ロシアはイスラエルを利用して、西側連合をさらに分裂させようとしているのかもしれない。また、木曜日にはトルコのアンタルヤでロシアとウクライナの外相が会談する予定になっており、ロシアはトルコが仲介役を務めることも認めている。
今のところ、イスラエルの仲介でウクライナ危機が終結することはなさそうだ。ベネット氏はプーチン氏と対話することで、当面の利益を得ることを期待するかもしれない。しかし、プーチン氏が「通信手段」を切り替え、トルコや中国が西側との仲立ちをするようになれば、こうした利益は帳消しになるかもしれない。
イスラエルは、ロシアと西側諸国との間の最悪の仲介者である。イスラエル自身の歴史が、パレスチナ問題に関わる重大なダブルスタンダードを示している。ベネット氏の役割は、より信頼できる仲介者の登場によって、すぐに後回しにされる可能性があるだろう。