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エルビル攻撃後の今、イランのような侵略国家への宥和はもうやめるべきだ

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15 Mar 2022 09:03:57 GMT9
15 Mar 2022 09:03:57 GMT9

ロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、イラン政府は突如として、米国とイラク国内のイランに敵対する存在、そしておそらくはイスラエルを標的とした攻撃を加速させ始める自由を得たと感じているらしい。日曜、エルビルの米国領事館付近に12発もの弾道ミサイルが撃ち込まれた。

通常、イラン政府はこのような挑発行為を行う際には代理組織を使い、わずかなもっともらしい否認の可能性を確保しようとする。これほど大規模の攻撃が直接実行されたこと自体が、イランがこれまでになく大胆になっていることを示している。

イラクのムスタファ・アル・カディミ首相は、今回のエルビルへの攻撃はイラクの国家安全保障に対する攻撃であるとし、バルハム・サーレハ大統領は、最近の政治的和解を間接的に弱めようとする「テロ犯罪」であると糾弾した。「この国を混乱に陥れようとする試みには断固として立ち向かわなければならない」と、サーレハ大統領は語った。

米国の駐イラク大使はイランに「責任をとらせるべき」と要求したが、国家安全保障顧問のジェイク・サリバン氏などの政府関係者は、この攻撃の重要性を軽く扱おうとしている様子で、同盟国との協議について曖昧に言及するのみだった。まさにこうした西側諸国の妥協と行動の欠如が、イラン、ロシア、北朝鮮による挑発行為が世界の存亡の危機にまで変貌することを許してしまったのだ。

ロシアとイランは、国際社会は、両国が国際法の原則を足元から踏みにじり、弱小国の主権を奪おうとすることを阻止するだけの決意に欠けると考えている。国際社会全体がそのような戦略的脅威の芽を摘むことに失敗してきた結果として、現在、世界各国の指導者たちはウラジミール・プーチン大統領が実際に核兵器や化学兵器を使用するかもしれない状況について緊張感に満ちた議論する羽目になっている。

ウクライナで起きている悲劇の結果として、西側諸国は、国家の主権や領土保全、市民的自由などの自分たちが大切にする価値観は、国家にそれらを積極的に守る準備と意志がなければ存在し続けることができないと再認識している。

バリア・アラマディン

ここ数日、情報に通じた外交官たちは、新たなイラン核合意は事実上調印の準備が整ったというヒントを発信していた。しかし、ロシアが西側諸国への圧力を強めるために新たな要求を追加したことで、計画は水泡に帰すことになった。イランは、合意再締結を切望している。実現すれば、何十億ドルもの凍結資金を地域全体で繰り広げている戦争行為に振り向けることができるからだ。エルビルへのロケット弾攻撃は、無視されるつもりはないというイランからのメッセージを、アヤトラが本当に理解できるただ一つの言語で伝えているのだ。

ペルシャ語の大手新聞社は、ハメネイ派の強硬派メディアの報道が過度にロシア寄りであることを批判し、ロシア政府は決してイランの利益を考えておらず、イスラエルによるイランに対するミサイル攻撃に共謀したこともあると指摘した。イランはしばしば、同盟国であるロシアからの軍事的挑発行為へのゴーサインを待ってきた。エルビルへの攻撃という協調性に欠けるやり方は大きな賭けであり、現在、明らかに機嫌が悪そうなロシアの指導者の怒りを買うかもしれない。

今回の攻撃がイラクで実行されたことは重要だ。イラクではイランの代理組織が10月の選挙で大敗し、現在、厳しいプレッシャーにさらされている。親イラン派はこの6ヶ月間、新しいイラク政府樹立の実現を妨害し続けてきたが、参加する権利のない内閣に議席を要求するというイランの行為は最終的には失敗するしかないようだ。

10月の選挙で最も多く票を獲得した元民兵司令官のモクタダ・アル・サドル氏率いる党派は、親イラン強硬派を脇に追いやり、統一政府に向けて歩み寄ろうとする姿勢を崩さずにきたことは評価に値する。もっとも、コドス部隊のエスマイル・カーニ司令官の努力は滑稽なほどに非効果的だったのだが。だが、イルビルへの攻撃はこの進展を妨害し、イラン代理組織はおとなしく引っ込んでいるつもりはないと示唆している。

イラン革命防衛隊は、攻撃はエルビルにあるイスラエルの標的を狙ったものであると述べ、ダマスカスの空爆でIRGC幹部2名が殺害されたことへの報復だとした。これは、軍隊を厳重警戒態勢に置いているイスラエルにとってはデリケートなタイミングだ。ロシアはこれまで、イスラエルのシリア国内のイラン派の標的に対する膨大な数のロケット弾攻撃に見て見ぬふりをしてきた。だがイスラエルは、この状況がこの先も許されるかどうか神経をとがらせている。特に現在、イスラエル政府は、その多くがウクライナやロシア出身の国民から、プーチン大統領に対してより強硬な姿勢をとるべきだという激しい圧力を受けているためだ。結果として、イランはよりイスラエルを挑発する余地が大きくなったと感じているかもしれない。特に今、イスラエルとイランの間で武力衝突が勃発すれば、恐ろしいことになりかねない。

イランのテロリスト神政主義者たちはまだ気づいていないが、彼らの信条はすべてこの新しい世界のコンセンサスの対極にある。

バリア・アラマディン

この状況は、私たちはどんな世界に住みたいのかという疑問の核心を突いている。主権国家同士が互いに存在する権利を尊重し合っている惑星か、強者が弱者を食い尽くすジャングルか。 エルビルへの攻撃への返答として、イランを懐柔するためにすべての当事国に核合意への調印を迫ることを急ぐ代わりに、私たちはこの核合意のそもそもの前提に疑問を投げかけるべきだ。この合意は、イランの大規模な弾道ミサイル計画を無視し、地域全体にイランと連携した準軍事組織が拡散している事実にもふれず、比較的短期間でイランがウラン濃縮やその他の二重目的の核活動に復帰することを許しているのだ。

ウクライナで起きている悲劇の結果として、西側諸国は、国家の主権や領土保全、市民的自由などの自分たちが大切にする価値観は、国家にそれらを積極的に守る準備と意志がなければ存在し続けることができないと再認識している。さらに、ウクライナ危機はエネルギー安全保障への脅威に対し、世界の経済はいかに脆弱であるかを明らかにした。これらの問題は産油国イラクと湾岸地域においても同じように重要だ。

イランのテロリスト神政主義者たちはまだ気づいていないが、彼らの信条はすべてこの新しい世界のコンセンサスの対極にある。ジョー・バイデン米国大統領の対応からも、ゲームのルールが根本的に変わったこと、そしてイラン政府の行為はほんの数週間前までは見逃されたかもしれないが、今ではもはや許されないことは明らかだ。

西側諸国は現在、東欧で激しく燃え盛る炎に気をとられているのは事実だ。だが、西側の指導者たちがプーチン大統領に対して主張する原則を本当に信じているのであれば、近いうちにアヤトラ政権という悪質な存在にも目を向けざるを得ないだろう。その「癌」はすでに中東の多くの地域に広がり過ぎているのだ。

  • バリア・アラマディン氏は受賞歴のあるジャーナリストで、中東および英国のニュースキャスター。『メディア・サービス・シンジケート』の編集者であり、国家元首のインタビュー多数経験あり。
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