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変動する世界におけるイランの未来

イランはもはや世界の注目の的ではなくなった。(イラン大統領府/AFP)
イランはもはや世界の注目の的ではなくなった。(イラン大統領府/AFP)
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08 May 2022 01:05:43 GMT9

先月、トルコのエルドアン大統領がサウジアラビアを訪問し、両国の協力関係の新時代が始まった。かつてトルコと敵対していたUAEは、今やトルコの友人でもある。一方、米国はウクライナ戦争に集中しており、数週間前まで差し迫っていると思われたイランとの核合意の復活の行方は、今や捉えどころのないものとなっている。こうした変化は、イランにとって何を意味するのだろうか。

この地域では、今や地殻変動が起こっている。中でも大きな動きは、2010年のいわゆる「アラブの春」の初期に形成された、トルコがイスラーム主義運動を支持、サウジアラビアとUAEがこれに猛烈に反対、という構図が崩れることである。2017年に始まったカタールとの湾岸外交論争は、そのトルコとの溝を深めてきた。その緊張はリビア紛争にも現れ、2つの軸が、対立する側を支援した。

しかし最近になって、その状況が変わってきたのだ。主なきっかけは、トルコが、雲行きがあやしくなってきたムスリム同胞団に味方することのむなしさに気づいたことだ。イスラム主義の波が大衆にアピールしなくなると、もはや彼らは湾岸諸国にとっての脅威ではなくなっていた。エルドアン政権は、サウジアラビアやUAEに対する反感は逆効果であり、通貨が暴落しているトルコ経済に悪影響を及ぼすことを悟ったのだ。トルコが和解の手を差し伸べると、UAEは即座にそれを受け入れ、昨年11月にはトルコへの投資を目的とした100億ドルのファンドを立ち上げた。さらにラマダン期間中のエルドアン氏のサウジアラビア訪問も加わり、2つの対立する軸の構図が解消されつつあることは明らかである。トルコはサウジアラビアやUAEと和解し、それが地域紛争の緩和に反映されつつある。リビアでは、国連主導の和平プロセスが難航しているものの、進展の兆しが見られる。

このことは、紛争を好むイランにとっては悪い知らせである。トルコとアラブの対立はイランに余裕を与えていたが、対立が解消されつつある今、イランの体制は酸欠状態である。さらに、イランはもはや世界の注目の的ではない。米国はウクライナで忙しく、イラン政権の気まぐれに付き合うのはもうこりごりだということだろう。バイデン政権は核合意を復活させる構えだったが、土壇場でイラン側がイスラム革命防衛隊(IRGC)を米国の外国テロ組織リストから削除するよう要求してきた。しかし、イランはもはや世界地政学の主役ではなく、国際社会を恐喝する力を失いつつあるようだ。イランの核武装に対する世界の懸念は、NATOの東側国境における、ロシアのエスカレーションに対するそれに取って代わられている。それでも、イランは地域のトラブルメーカーとしての役割を放棄する気はない。イランは、国家ではなく革命体制であるという自らの概念を実現するために、好戦性を維持する必要があるのだ。これは、ヘンリー・キッシンジャー元米国国務長官がかつて述べたとおりである。「イランは国家となるのか、大義となるのか、決断しなければならない」。イランが前者を選ぶ気配はない。

イランは、現在進行している和解の動きが自国の利益にならないことを知っている。なぜなら、和解は、シリア、イラク、レバノンにおけるイランの影響力を大きく弱める協調的な政策につながるからである。

ダニア・コレイラト・ハティブ博士

イランは、トルコ、カタール、サウジアラビア、UAEとの融和クラブに参加する可能性は低い。イラクにおけるサウジアラビアとイランの協議では、ハッジ(大巡礼)とウムラ(小巡礼)のためのイラン人巡礼者の数や大使館の修復といった細かな問題のみが扱われた。両国の目標が異なるため、大局を踏まえたレベルでの進展はない。しかし、イラン側は、アラブ・トルコの和解が自らの地域的・国際的な孤立を深めることを不快に思っている。トルコはイランにとって欧州への玄関口であり、一般のイラン人は近隣諸国が和解する一方で、イランは国外から疎外され、身動きが取れない状態であることを目の当たりにしている。

イランはこの地域に影響力を広めたいと考えている。そして、米国が中東から完全に撤退することを求めている。湾岸諸国は米国の存在がイランの支配に対する緩衝材になると考えているからだ。イランは圧力をかけ続け、脅威を維持するために、重要な存在であり続けたいと考えている。イラクでは、その影響力が脅かされており、イラン政権はイラクの政府をコントロールすることができないようだ。イエメンではフーシ派が戦争に疲弊し、休戦に合意している。レバノンではヒズボラに対する強い反発がある。今月の議会選挙では、レバノンの有権者の最大の関心事はヒズボラを投票によって排除することである。

政治的影響力を失ったイランは、より強力な力でそれを補うだろう。彼らは、レバノンにハマスの拠点を作ろうとしている。イランは、現在進行している和解の動きが自国の利益にならないことを知っている。なぜなら、和解は、シリア、イラク、レバノンにおけるイランの影響力を大きく弱める協調的な政策につながるからである。

とはいえ、イランにとって悪いニュースばかりではない。ウクライナ戦争で国際的孤立に直面しているロシアは、これまで以上にイランを必要としている。イスラエルがシリア国内に存在するイラン代理勢力を攻撃することを認める、ロシア・イスラエル間の合意は、まだ続くのだろうか。現時点ではわからないが、ロシアの孤立が進むことは、イランに有利に働くことは間違いない。一言で言えば、地域的、世界的な同盟関係の変化がどのように展開されるかは、まだわからないということである。

・ダニア・コレイラト・ハティブ博士は米国アラブ関係の専門家で、ロビー活動の研究に注力している。彼女はトラックIIに焦点を当てたレバノンの非営利団体である協力と平和の構築のためのリサーチセンター(Research Center for Cooperation and Peace Building)の共同創設者である。

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