私はシリーン・アルアクラ氏と知り合いではなかったのだが、仲間として彼女を弔う。25年の間、彼女は何百万もの人を心から思い、パレスチナ問題について取材をしてきたのである。イスラエル総保安庁の考え方のもと、シリーン氏が命を落とすことになったのは、彼女が彼らにとって聞くに堪えない真実の証言をしたからだろう。
イスラエル治安部隊はシリーン氏の早すぎる暴力的な死を、彼らのやり方で「尊厳と尊重」を添えて記録に残したのである。彼らは彼女の葬儀で追悼者を攻撃したのだ。悲しみに暮れるパレスチナ人らが棺を肩に担いで教会まで運ぼうとしていたが、残忍なイスラエル軍は彼らがささやかに敬意を表すことさえも許さなかったのである。棺を落とそうと、イスラエル軍は前触れなく突然棺を担ぐ人たちを襲撃した。これは、決定的な屈辱の無償行為で、占領がいかに卑しく憎しみにあふれているかを世界に示す形となった。
この一件は治安維持とは無関係だった。民間の人々は、ただシリーン氏に対して平穏に敬意を表して追悼したかっただけだった。侮辱のうえに侮辱が積み重なったのである。イスラエルの暴力行為によって近頃頻繁に汚されつつある聖地エルサレムの神聖さはどうなってしまうのか?これが世界に対して、イスラエルが平和を求めていることを示すやり方なのだろうか?
シリーン氏が撃たれた日、彼女は同僚の記者と共にジェニン難民キャンプを取材しており、はっきり「記者」と識別できる格好をしていた。彼女はイスラエル政府公認の記者だった。イスラエルの治安当局は彼女が誰なのかを良く知っていたはずである。彼女が撃たれたのは決して「流れ弾」ではなかった。それでも、事件現場の目撃証言とビデオ映像という圧倒的な証拠があるにもかかわらず、イスラエル軍人が発砲して彼女の命を奪う事件が起きて以来、イスラエルのプロパガンダ機構はシリーン氏の死因について白々しい嘘を次から次へと吐き出している。シリーン氏の殺害とこの一件に続く錯乱は、報道の自由への攻撃であり、それはつまり真実に対する攻撃なのである。
1990年代から2000年代にかけて、パレスチナの惨事を経験してきた世代のアラブ人に向けて、シリーン氏は彼らの正義の戦いを具現化してきた。彼女の死を報じたジャーナリストらは生放送で涙を流した。
キリスト教徒でパレスチナ系アメリカ人だったシリーン氏は、残忍な日々の紛争のさなかでも落ち着いて凛としてふるまい、私たちに占領やアパルトヘイトの恐怖について教えてくれた。彼女は1997年にアルジャジーラに入局して以来、パレスチナ問題を人間化し、若者の無差別逮捕、武装勢力入植者による農村家庭への残忍な行為、そして絶え間なく拡大する違法入植などを明るみにしてきた。
私たちジャーナリストにとって、シリーン氏は手本であり、インスピレーションでもあった。彼女はいつも最も高い職業基準に忠実で、噂に惑わされることなく、事細かに事実を述べてきたが、彼女の殺害は驚くべきことではなかったのである。彼女自身もよく「死がすぐそこまで来ているのを感じることがある」と話していた。それでも、彼女は最高のプロ意識を持って仕事に取り組み続けてきたのである。
イスラエルによる占領は引き続き地域を不安定化させ、ヒズボラやその他のイラン代理勢力の武装化とアラブ諸国の不安定化の口実となっている。
バリア・アラマディン
一般のパレスチナ人を嫌うイスラエル政権は、ジャーナリストに対して、その10倍の嫌悪感を抱いている。占領地域でプレスカードを所有していると、確実に残酷な扱い、検問所での嫌がらせ、そして身体的な攻撃を受けることになる。メディアと真実はイスラエルにとっての敵であり、彼らは文字通り使者を銃撃して問題に対処するのだ。シリーン氏は信頼され、愛され、そして尊敬されるジャーナリストだったが、虚言、プロパガンダ、そして虚偽報道の基に成り立っている政権にとっては大きな脅威とみなされていたのである。
国際ジャーナリスト連盟によると、2000年以来、イスラエル軍は少なくとも46人のパレスチナ人ジャーナリストを殺害しており、それ以上のジャーナリストが拘留あるいは投獄されている。世界中で過去10年の間に約900人のジャーナリストが殺害されており、シリーン氏も殉職したアルジャジーラ職員12人のうちの1人である。
暴力で権力強化を図る政権と同様に、イスラエル人占領者にとって、ジャーナリストを沈黙させるための最も効果的で永久的な手段はジャーナリストの殺害である。以前、とある著名なジャーナリストが、カタールとイスラエルが裏で良好な関係にあるため、アルジャジーラの一員として安心してパレスチナで仕事ができると私に話してくれたが、現在はどの国のテレビ局も格好の的になっているようである。
シリーン氏の死は、全ての大義名分の本源に対して、国際的な注目と同情を呼び起こした。新聞の一面やニュース放送はシリーン氏殺害のニュースで持ちきりだった。彼女はアメリカ国民であり、アメリカ国務省は彼女の死を「報道の自由の侮辱」と述べ、ホワイトハウスやアメリカ議会からも同等に熱のこもった発言があった。
ここで、有言実行をしなくてはならない。ジャーナリストらが人類の利益のために矢面に立ったのである。ジャーナリストの死亡状況を国連が正式に調査したうえで、ジャーナリストの意図的な殺害は人道に対する罪とみなすべきである。シリーン氏殺害の真実をイスラエルの法廷で聞けるはずがないのだ。
イスラエルによる占領は引き続き地域を不安定化させ、ヒズボラやその他のイラン代理勢力の武装化とアラブ諸国の不安定化の口実となっている。したがって、パレスチナ問題は再び最重要事項として世界的議題に上げられるべきで、主要国は正当な解決に向けて誠実に取り組まなくてはならない。アラブの民間人はヘブロン、エルサレム、そしてその他の占領下にあるヨルダン川西岸地区の家から追放され、毎年ますます多くの土地が奪われている。それと同時に、罪のない子供が殺害されたり、不正なマニフェストの風潮の下での生活を強いられたりしているのである。
さらに多くの罪のない民間人、活動家、そしてシリーン氏のようなジャーナリストが命を落とすことになる前に、私たちは不処罰および抑圧の風潮を終わらせ、責任、正義、そして真実を勝利へと導くべきである。
シリーン氏の早すぎる死は凄惨かつ不当なもので、眠っていた世界を目覚めさせたのである。私たちは公正な平和のために、たゆまず努力するだけでなく、虚言、不正、そして残虐性に基づいて成り立っている占領の非人道的制度をきっぱりと終わらせなくてはならないのである。
・バリア・アラマディン氏は中東およびイギリスで活躍し、高い評価を受けているジャーナリスト兼ブロードキャスターである。彼女は『メディア・サービス・シンジケート』の編集者を務めており、数多くの国家首脳をインタビューしてきた。