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偽情報がイスラエル人の殺人罪を免責する

5月にジェニンで殺害されたアルジャジーラのジャーナリスト、シリーン・アブアクラ氏を描いた壁画の前を通り過ぎる女性。(AFP)
5月にジェニンで殺害されたアルジャジーラのジャーナリスト、シリーン・アブアクラ氏を描いた壁画の前を通り過ぎる女性。(AFP)
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10 Jul 2022 08:07:48 GMT9
10 Jul 2022 08:07:48 GMT9

5月11日未明、米国人パレスチナ人ジャーナリスト、シリーン・アブアクラ氏が、ジェニン難民キャンプ付近でイスラエル兵または狙撃手に警告されることなく、銃殺された。目撃者とビデオ映像は、彼女が殺害された時、パレスチナ人と銃撃戦は何もなかったことを明確に裏付けている。

人権団体やワシントンポスト、CNN、ニューヨーク・タイムズなど国際的な有力メディアの調査ジャーナリストたちは、アブアクラ氏がイスラエル人に殺されたことを間違いなく証明しているが、イスラエル人は責任を問われない。なぜだろう?イスラエル当局は、国際的な説明責任を逃れるために何をしたのだろうか?

その答えは複雑だが、基本的には2つの理由に行き着く。迅速かつ効果的な偽情報キャンペーンと、メディア、政治、世界政府からの支援だ。

イスラエル兵が正式認可を受けた一人のプロのジャーナリストを撃って致命傷を負わせてから数分以内に、イスラエルは殺人罪から逃れさせるビデオ映像を公開することができたのである。この唯一の無関係なビデオは、議論をめぐる事実を不明確にし、イスラエルが自国の明らかな犯罪の精査を避けるのに十分な疑惑をもたらした。

イスラエル当局は積極的にこのビデオで放送時間を埋めソーシャルメディアに流すことで、人々が「アブアクラ氏はもしかしたらパレスチナ人の流れ弾で殺されたのかもしれない」と疑うような、捏造された物語としてコントロールすることができたのである。

弾丸のストーリーは、パレスチナ人が何かを隠している可能性があるとイスラエルが主張するための新たな取り組みであった。独立した調査を要求するパレスチナ人の取り組みは、アブアクラ氏を殺した弾丸を調べるようイスラエルが要求したただ一つのストーリーで頓挫した。そして、圧力と中立の約束のもとに、アメリカが弾丸を調べることを許されると、アメリカは裏切り、イスラエルが疑いの炎を燃やし続けることによって、問題を不明確にすることを可能にしたのだ。

イスラエルは、自国を守るために積極的に偽情報を流し、イネイブラーを利用するだけでなく、しばしば抵抗行為を称賛するパレスチナ人とは違い、露骨ではあるが高い道徳的権威と義憤を世界に見事に売り込んでいる。

たとえイスラエル当局がアブアクラ氏を殺害し、イスラエル警察が同氏の葬儀を妨害しても、たとえ同氏が撃たれた瞬間からイスラエル当局がその真実を知っていたとしても、イスラエル当局はメディアで抜かりなく穏やかに語り、同氏の死を悲しみ、何が起きたのか真実を追求しているかのように見せている。

アブアクラ氏殺害事件は、イスラエル当局が全てを打ち明け、兵士の誰が同氏を撃ったかを世界に公表するまで、ずっと付きまとい続けるだろう。

ダオウド・クタブ

イスラルエル兵は非常に統制が取れていることで知られ、無差別な銃撃で致命傷を負わせるケースは稀であるにもかかわらず、イスラエル側は「不幸な出来事」であると主張し続け、真相究明を続けることができたのだ。

イスラエルのベニー・ガンツ国防相はツイートし、ジャーナリスト・アブアクラ氏の死に対する悲しみを表明するとともに、イスラエル軍は「最高水準を守っている」とし同氏殺害について引き続き調査すると主張した。ベニー・ガンツ国防相は「本格的かつ道徳的な真実は、わが国が立ち直る力と不可分であり、国防省は真実を明らかにすることに全力を注いでいる」と発言したとニューヨーク・タイムズ紙に掲載された。

これはとんでもない偽りである。ニューヨーク・タイムズ紙は、アブアクラ氏の死はイスラエルに責任があると結論づけたが、それにもかかわらずガンツ氏の声明を何の修飾語もなく掲載した。

イスラエル軍自身がこの事件を捜査しないことを公式に発表し、その決断の理由も「イスラエル軍事警察犯罪調査部は、イスラエル兵を容疑者として扱う捜査は、イスラエル社会で反発を招くと考える」という全く受け入れがたいものであった。

イスラエルの偽情報や義憤に満ちた虚偽の主張は効果があるかもしれないが、米国議会の議員やアブアクラ氏の家族、世界中の善意の人々など、真実を求める人々の声を完全に打ち消せてはいない。

イスラエル占領軍兵士に殺害されたジャーナリストや民間人は、アブアクラ氏が初めてではない。また、イスラエル当局が真実を隠すために、反論を捏造し、取って代わる「事実」を紡ぎ出したのも、この件が初めてではない。

モハメド・エル・ハラビ氏は、米国のキリスト教慈善団体から5,000万ドルを流用したという濡れ衣を着せられてから6年経った現在も獄中におり、この事件も、嘘と捏造、秘密情報の利用によって、無実のパレスチナ人および人道主義者を政治的理由で有罪にした、驚くべき事例である。

昨年、イスラエルがパレスチナの人権団体6団体を「テロ組織」に指定したことも、そうした嘘と偽りの明らかな事例である。

しかし、イスラエルの情報操作がスムーズで積極的であるにもかかわらず、世界はゆっくりと、しかし確実にそれを見破り始めている。例えば、EUはイスラエルの主張を無視し、パレスチナの人権団体に資金援助を続けることに同意している。メリーランド州のクリス・バン・ホーレン上院議員は、米国とイスラエルの難解さと正当化を受け入れず、アブアクラ氏の殺害について誠実かつ徹底的な独自調査を行うよう主張している。

アブアクラ氏殺害事件は、イスラエル当局が全てを打ち明け、兵士の誰が彼女を撃ったのか、なぜ同氏が撃たれたのか、誰が銃撃を命じたのか、そして最も重要なことは、撃った者と撃ったことを命じた将校の両方が徹底的に調査を受けて責任を負い、罪に見合った罰を受けることを確認するまで、ずっと付きまとうことになるであろう。

  • ダオウド・クタブ氏はエルサレム出身で、受賞歴のあるパレスチナ人ジャーナリスト。
    ツイッター:@daoudkuttab
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