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ダボス会議で注目される安全保障と持続可能性

気候変動とウクライナ戦争の複合的な影響により、貧しい国が最も打撃を受け始めていると専門家が警告している。(AP・ファイル)
気候変動とウクライナ戦争の複合的な影響により、貧しい国が最も打撃を受け始めていると専門家が警告している。(AP・ファイル)
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03 Jun 2022 04:06:28 GMT9

中東・北アフリカ地域の多くの外相を含む世界のリーダーが集まり、その時々の世界経済の最重要課題を議論する世界経済フォーラム年次総会(WEF/ダボス会議)が先日閉幕した。今年のフォーラムのテーマは「歴史的転換点」であり、大きく3つのサブテーマがあった。新型コロナウイルス、ロシアのウクライナ侵攻、気候変動による長期的な問題、である。

今年大きくクローズアップされたのは、「安全保障」である。もちろん、現在のウクライナ情勢は大きな影響を及ぼしている。ロシアは制裁を受け、現地からの燃料や穀物の供給は深刻な打撃を受けている。しかしこれらの出来事は、世界各地で起きている他の紛争の重要性を軽視する理由にはならない。

サウジアラビア外相のファイサル・ビン・ファルハーン王子は、ロシアとウクライナの仲介役を務めるという王国のこれまでの申し出を繰り返し、世界的な協力と開かれたコミュニケーションを促進する必要性を強調した。MENA地域は、西側諸国、ウクライナ、ロシア、トルコ、中国と強い共生関係にあり、商品、石油、観光、安全保障はすべてこれらの関係における強い側面である。MENA諸国は、紛争がさらにエスカレートして苦痛を増す前に、調停を助け、和平を仲介するための公平な良きパートナーとなり得るだろう。ここでいう安全保証とは、単に物理的な安全だけでなく、食糧や経済の安全も含まれる。これは全世界に影響を与えるが、途上国にはより大きな影響を与える。

そして、ここには持続可能性と大きく重なる部分がある。前述のように、ウクライナ情勢はMENA諸国、特に北アフリカやイエメンへの穀物の持続的・継続的な供給に影響を及ぼしている。すでに高い貧困率に悩まされている国々は、食料サプライチェーンの途絶という現実的なリスクにさらされているのである。同様に、環境災害は通常、最も貧しい地域社会を最初に襲うことになる。

2017年に遡れば、世界銀行は、気温の上昇によって農業に適した土地が減少し、人間の消費と、作物や家畜の両方に利用できる水の量が減少することについて言及している。彼らは、必要不可欠な資源への圧力が高まれば、紛争のリスクが高まる可能性があることを強調した。イエメン紛争が貧しい人々に最も大きな影響を及ぼし、大きな人道的危機を経験していることは、すでに述べたとおりである。

世界銀行は、必要不可欠な資源への圧力が高まれば、紛争のリスクが高まる可能性があることを強調した。

バシャイア・アル・マジェド博士

同様に、気候変動に関連した鉄砲水の増加も、貧しいコミュニティに不均衡な影響を及ぼしている。WEFは2020年、低所得国の経済がしばしば土地からの収入に依存していることを指摘した。これらの国々はインフラが貧弱で、資源も少ない。道路が荒れているため移動が遅くなり、人々は徒歩で移動する。建物は基礎が弱いため、鉄砲水が発生した場合町は完全に破壊され、流され、コミュニティはゼロから再建されなければならない。病院が少なく、設備も不十分なため、病気の蔓延が早く、壊滅的な影響を与える。

しかしながら、コンサルティング会社マッキンゼーは、調査した105カ国のうちすべての国が「気候変動による社会経済的影響の増大を経験するだろう」とも報告している。洪水や干ばつで作物が育たなくなれば、食料は不足する。持続可能性と安全保障は相互に関連している。自然災害や苦難の中で、各国が力を合わせて支え合うことができる一方で、資源の安全性が低い貧しい国から必要なものを奪う機会として、そのような出来事を利用する国もまた存在する。

化石燃料の代替として、例えば、グリーン水素、風力、水力エネルギー、電気自動車などの、公衆衛生を損なっている公害を都市から取り除くための開発と投資について協力し、より努力することが不可欠である。私たちは、気候変動の影響を減らすために何ができるのか、それが個人にできる直接的な変化なのか、あるいは私たちがお金を使う場所や支援する企業を慎重に選ぶことによって推し進める変化なのか、自分自身を教育し、判断する必要があるのだ。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス(LSE)の最近の報告書では、クウェートの気候変動に関する進展のなさを記録している。クウェートだけでなく、湾岸協力会議(GCC)全体で同じようなことが起こっているのだ。多くのグローバル企業が、パートナー企業に対して厳しい環境目標の遵守を求め、ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス(DJSI)などの、非の打ちどころのない持続可能性基準を示している。湾岸諸国は経済の多様化に努めており、石油産業以外の分野で強力な経済を構築するためには成功しなければならない。しかし、環境基準がいかに重要であるかをすぐに理解しなければ、重要なビジネス取引や観光の機会を失うことになる。

WEFの会長であるクラウス・シュワブ教授は、国際社会は協力する必要があり、世界の問題――政治、経済、社会、生態系――はすべて連動しており、したがってすべてが重要であるというメッセージを繰り返した。また、代表者達に対し、より広い範囲、そして地元のコミュニティに貢献することが重要であり、ステークホルダーとして行動することが可能であると強調した。

シュワブ財団の共同設立者であるヒルデ・シュワブ氏は、持続可能なソリューションを生み出す起業家や社会起業家を支援することが、その方法の一つであると考えている。

子供の識字教育のための「We Love Reading」プログラムの創設者であるラナ・ダジャニ氏は、「I can」というマインドセットと「地域で解決する責任」というスローガンが、人々を変革に向けて動機づけるためにいかに重要であるかを述べた。彼女は、私たちは皆、「普遍的な価値観」を共有しているが、「地域ごとに行動し……人と人の交流に焦点を当てることで、多様性を祝福することができる」と強調した。

先に述べたように、私たちは個人として、代替手段を検討することが可能であり、何かがどこから来るのかを検討することができる。私たちは、どのように旅をし、どこで買い物をし、どこで食事をし、買った製品がどこから来たのか、どのように輸送され、どこでどのように保管され、それが倫理的に持続可能なのかどうかに責任を持つ必要がある。持続可能性は、国際的な産業界や政府、エネルギー供給者だけの問題ではない。私たちは皆、変化を起こす力を持つことができる。そのためには、私たちの周りに目を向け、創造的になることが必要だ。

どうすれば地域の人々と協力して変化を起こせるか。社会的な事業を展開するにはどうすればいいのか。より柔軟な勤務時間を望む人、家庭や学校に幼い子どもを持つ人、介護の責任を負う人、障害により、特定の条件下での勤務や長時間労働ができない人などにとって、社会的企業は非常に有効であり、同時に地域経済やコミュニティのスキルを向上させることができる。若者はビジネスの仕組みを知ることで、変化を起こしたり、自分で企業を立ち上げたりする力を身につけることが可能になる。これらのことは、地域経済を支え、財政的・環境的な持続可能性を構築することにも繋がるのだ。

つまり、私たちは協力し合い、コミュニティ内のスキルを活用し、強く、多様で、持続可能なビジネスを構築する必要があるのだ。私たちは、二酸化炭素の排出を減らし、地球温暖化を抑制し、土地や海をきれいにしなければ、気候変動が私たちにどのような影響を及ぼすかを、もっと明確に伝える必要がある。

私たちの健康、地域社会、経済(国と世界の両方)への影響を理解することによってのみ、個人と産業界は変化を起こす必要性を感じることが可能になる。代替案や代替燃料にも強く注目する必要がある。私たちは、イノベーターや起業家が新しいアイデアを開発し、市場に送り出すことを支援しなければならない。今後10〜15年のMENA諸国の戦略には、建築、エネルギー、観光、コミュニティにおける持続可能性が含まれている。そして私たち市民は彼らの行動を支援し、自分たちのコミュニティの中で協力して地域の変化を起こす必要があるのだ。

  • バシャイア・アル・マジェド博士はクウェート大学法学部教授であり、オックスフォード大学客員研究員。ツイッター: @BashayerAlMajed
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