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イラクが暗い新年に直面

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04 Jan 2020 01:01:15 GMT9
04 Jan 2020 01:01:15 GMT9

2019年末の日々はイラクにとって、とりわけ痛手となった。12月29日に米国が、イラク内3カ所とシリア内2カ所の、イラン派武装組織カタイブ・ヒズボラと繋がりのある標的を空爆した。カタイブ・ヒズボラは、シーア派武装組織の複合体である国民動員軍(PMU)の一部である。12月31日には、バグダッドにある米国大使館の外で暴力的な抗議活動が起きた。

これは、10月初旬から幅広い政治改革を主張している若い抗議者たちが、ナシリヤ油田で最初に石油の生産を妨害して扇動し、施設を2日間の閉鎖に追い込んだ後に起きたものだ。

3カ月に及ぶデモ活動は、イラク政治の「利権システム」への拒否を強硬に叫ぶものである。利権システムにより政党は短期的な同盟を結び、民族や党派による定数をベースとした政府を形成しているとの主張だ。大臣の職、金品、受注契約はこれらの同盟のなかで分割され、処罰を受けることもなく、国家資源を国家が切に必要としている安全保障や、サービス、雇用、開発に使わずに消費するという腐敗体制を広めている(とデモ活動者たちは主張しているのだ)。街のこれら活動者たちの要求は、この腐敗体制を終わらせて、選挙区ベースの直接選挙にすることである。

抗議運動ですでに、アデル・アブドゥル・マフディ首相が11月29日に辞任に追い込まれたが、政治家たちは彼の後継者について合意を得られないでいる。これまでに提案された名前はすべて、若者たちが非難している体制の象徴であるような権力者たちばかりだ。

さらに複雑な問題として、バルハム・サリフ大統領は、抗議者たちの主張する「特徴」を反映していない首相候補はすべて却下すると公表した。その「特徴」とはすなわち、既存の政党から独立しており、国民に寄り添い、「クリーンな経歴」をもち、外国の影響を受けておらず、とりわけイランと米国の影響力をもたない者ということだ。

現在のイラク国会議員たちは、自らが既存体制の産物であり受益者であるため、改革にはまったく興味がない。そしてそれゆえ彼らは、抗議運動を終了させようと威嚇や暴力という手段に訴えてきた。治安部隊のみならずプロのイラン派民兵組織による厳しい弾圧により、450名以上のデモ抗議者たちが殺害され、数千名が負傷した。

新年はイラクにとって明るい兆しではない。抗議者たちは怒りと理想主義の持久力と一貫性とを示してきた。

タルミズ・アーマド

アブドゥル・マフディ氏は、議会の2大シーア派政党の合意で首相の座に就いた人物だった。大衆主義の聖職者ムクタダ・アル・サドル氏率いる「サイルーン」と、イランを後ろ盾とする国民動員軍(PMU)の政党である「ファタハ」だ。デモ抗議が進行中である今、アル・サドル氏はファタハから距離を取り、自分たちがそれとなく却下してきた抗議者たちに同調する存在として自身を示そうとしている。ファタハは今、親イラン派の首相を確保することに躍起になっている。

いっぽうイランは、米国こそがイラクのシーア派のデモ活動者たちに反イラン的感情を植え付ける扇動者であり、自らの地位を安泰にするためにイラクでの自分たちの政治的・軍事的な利点を利用していると確信している。イランはプロのイラン派民兵組織を使ってデモ抗議者たちに立ち向かい、米軍基地や施設にロケット砲を打ち込んでいる。米軍情報筋は12月20日に、過去5週間で米軍は9回ミサイル攻撃されたと述べた。

プロのイラン派民兵組織員によるこれらの攻撃は、街の扇動者にとって、イラク内におけるいかなる米国の存在にもイランが断固として反対するという事実を突きつけることで、国内に広がる反米感情を煽るものともなっている。

この米国とイランの代理闘争には、12月27日のキルクーク米軍施設への攻撃も含まれ、この時に米国人の民間業者1名が死亡した。これにより米国は、25名の民兵を殺害した12月29日の攻撃を実施したのだが、多くのイラク人がこれを国家主権の侵害だとみなした。

これが引き金となり、直後にタジ米軍基地が攻撃され、その後の12月31日には大衆が米軍大使館を攻撃した。米国のドナルド・トランプ大統領は、イランがこれらの攻撃を「指揮した」のであり、それによりイラクのみならず広範囲な地域に危険を拡大させかねない舞台を設定したのだと非難した。

つまり、新年はイラクにとって明るい兆しではない。デモ抗議者たちは怒りと理想主義の持久力と一貫性とを示している。彼らはすでに首相を失脚させた。しかし彼らには、責任をもつ幹部や、求心力あるイデオロギー、人々から認められたリーダーというものがない。よって彼らは政府を転覆させることはできるかも知れないが、それに代わる彼ら自身の政府を打ち立てることはできない。

よって短期的には私たちは、イラクの政治家たちが、自分たちが無傷で栄えることのできる腐敗体制を維持しつつ何らかの表層的な変化を起こすのを見ることになるだろう。移行期間に何らかの改革を扇動するための暫定的な首相として、人気のある軍事リーダーを候補者に立ててはどうかという政治家たちの議論がある。もしそれが失敗すれば軍事クーデターになる恐れがあるが、しかし強力な民兵組織が存在し、人々が自由と民主主義に深く傾倒していることを考えれば、その成り行きは余程ないと考えてよいだろう。

しかし、抗議者たちの強い思いはより大きな困難に直面する。競合するシーア派民兵組織の間の内戦だ。そしてそれは米国軍とイラン軍の対立を巻き込む恐れもある。双方ともそれは望まないといいながら、それを回避するための努力は少しもしていないように見える。

イラクはそのとき、それらの戦闘が繰り広げられる戦場になるだろう。2つの湾岸戦争の永続的な破壊があったというのに、この国は再び荒廃することになるのだ。

  • タルミズ・アーマド氏は著述家であり、サウジアラビア、オマーン、アラブ首長国連邦に派遣されたことのある元インド大使でもある。インドのプネーにあるシンビオシス・インターナショナル大学で国際研究のラム・サテ職を保持している。

 

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