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気候変動対策に求められる、さらなる野心、規模、そしてスピード

2022年9月18日撮影のこの写真に写っているのは、バングラデシュのムンシゴンジにあるパドマ川岸辺の侵食された部分。(AFP通信)
2022年9月18日撮影のこの写真に写っているのは、バングラデシュのムンシゴンジにあるパドマ川岸辺の侵食された部分。(AFP通信)
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13 Oct 2022 11:10:59 GMT9
13 Oct 2022 11:10:59 GMT9

11月6日から18日にかけて、今年の国連気候変動会議(COP27)がシャルム・エル・シェイクで開催される。これについて、世界が直面している地政学的緊張と経済的課題の意図しない犠牲となるのでは、と危惧する向きがある。私が考えているのはその逆だ。COP27は、世界がひとつになり、共通の利益を認識し、多国間協力を回復するためのユニークかつタイムリーな機会なのだ。

気候変動がもたらす人々への被害は、毎日のように大きく報道されている。地球温暖化は、もはや遠くの、あるいは理論上の脅威ではない。身近な物質的脅威であり、私たち一人ひとり、私たちの家族、そして隣人に影響を与える現象なのだ。より頻繁で激しい干ばつ、山火事、嵐、洪水に、無傷で逃れている社会はない。何百万もの人々が、すでに生き残りをかけて戦っている。

しかも現在、産業革命前に比べて気温はわずか1.1度しか上昇していない。気候変動に関する政府間パネルが明らかにしたように、気温が0.1度上昇するごとに事態は悪化する。しかし、大災害を回避するために必要な変化は、少なくとも十分な速さで起こっていない。そして開発途上国は、圧倒的な責任を負っている危機に対して公正な負担をしようとしない豊かな国々に、苛立ちを募らせている。

しかし、希望が持てる理由もある。世界中の代表団と議論する中で、私は、COP27を成功させるという彼らの決意を目の当たりにしているのだ。すでに、社会は行動を起こし始めた。気候変動への適応と新しい形の協力が支持を集めており、気候テクノロジー(新しい炭素除去テクノロジー、電気輸送ソリューション、そして再生可能エネルギーが含まれる)への投資は活況を呈している。その結果、クリーンエネルギーの価格は下がり続けている。2021年にG20諸国で追加された再生可能エネルギーのほぼ3分の2は、最も安価な石炭火力発電よりも安い費用で供給された。私の母国エジプトは、2035年までにエネルギーの42%を再生可能資源から生産することを目指している。

同時に、市民社会は企業や政府の説明責任を追求し、グリーンウォッシュを防止し、公正な移行を確かにするための仕組みを考案している。自然の回復に、新たな焦点が当てられている。

さらなる野心、規模、スピードが必要とされている。ルールは依然として不明確なままか、紛争が続いている。だがプロセスは進行中であり、後戻りはできない。化石燃料のインフラに投資するなどしてコミットメントが揺らいでいるように見える国々でさえ、当局者らは、当面の課題によって必要とされるその場しのぎの対策を長期戦略と取り違えてはならないと主張している。この先に、より環境にやさしい道が求められていることを疑う者はいないのだ。

先進国は、緩和と適応の両方を支援することで、彼らの約束を守らなければならない。

サーミフ・シュクリー

COP27へ参加する私たちには、単純な問いが投げかけられている。共通の努力意識を生み出し、後退を防ぎ、そして科学、信頼、正義、公平に基づくアプローチを奮い立たせる好機として、この会議をどう活かすことができるだろうか、というものだ。

気候変動対策の根底にあるのは、取引だ。開発途上国は、彼らが引き起こしたものではない危機への取り組み支援に、誠意をもって同意した。それは、乏しい資源と競合する開発ニーズのために制限されることが多い彼ら自身の努力に対しての援助、特に資金的援助が提供されるという理解に基づいている。先進国は、緩和と適応の両方を支援し、パリ協定の構想通りの責任を果たすことで、その取引における約束を守らなければならない。

緩和の面では、温室効果ガスの排出を削減して大気中の二酸化炭素を除去するために、言論から行動へ移行しなければならない。すべての国は、より野心的な「国が決定する貢献(NDC: Nationally Determined Contribution)」を受け入れ、その誓約をプログラムへと反映させなければならない。私たちは、開発途上国が彼ら自身の可能性を引き出すために適切な資源を利用できるよう、今すぐ行動しなければならない。

同時に、特に気候変動の影響を受けやすい地域のコミュニティが、すでに避けられなくなっている影響から彼ら自身を守ることができるように、変革的な適応アジェンダを作り上げる必要がある。このアジェンダの負担は公平に分配されなければならない。

これまで、不釣り合いな割合の気候変動対策資金が緩和に充てられてきた。その結果、途上国は適応投資のための資金調達の大半を、自助努力でやりくりするしかなかった。しかし緩和のための資金でさえ十分には程遠く、適切な手段で提供されていないのが現状である。

2009年、先進国は2020年までに途上国の気候変動対策に年間1,000億ドルを拠出することを約束した。これは、求められる費用のごく一部に過ぎない。国連気候変動枠組条約の財務常設委員会によれば、5兆8000億ドル以上が(2030年までに)必要とされている。それなのに、この資金提供はまだ実現していない。COP27では、グラスゴーで開催されたCOP26での誓約と比較して、特に適応に関する資金拠出誓約の規模を拡大する必要がある。

先進国はまた、2025年までに適応資金を倍増させるという昨年の約束を守らなければならず、緑の気候基金の新たな増資に必要な保証を提供する必要がある。

そして、気候危機を引き起こさなかった国々が被った損失や損害に、対処する時が来ている。これには、依然として議論の余地がある。だが私は、すべての人々の利益のために、開発途上国の優先順位に基づいて建設的なアプローチができると信じている。

公正な移行を実施するにあたっては、さまざまな地域のニーズを考慮しなければならない。たとえばアフリカ諸国は、再生可能エネルギーの導入と、自国内にある化石燃料資源の利用自粛を原則として誓っている。しかしアフリカでは現在、人口の43%に当たる6億人が電力を持たず、約9億人が清潔な調理用燃料を利用できないでいる。気候変動対策の取引は、この問題に対処し、大陸のより広範な開発ニーズを持続可能な方法で満たすよう求めている。

これらすべての責務は、断片的な措置ではなく、慎重に設計された一連の行動によって連携して追求されなければならない。それが、公正な移行を実現するための柱となる。ひとつでも欠ければ、建物全体が崩壊してしまう。

2015年のパリでのCOPを前に、合意が実現すると信じていた人はほとんどいなかった。しかし、世界中から集まった代表者たちは、技術と粘り強さによって画期的な合意に至ることができた。2022年、私たちはさらに高いハードルに直面している。それを乗り越えるために、一層の努力をしなければならないのだ。そうすれば、クリーンエネルギー、イノベーションの交流、食料と水の安全保障、そして気候変動に対する偉大なる正義の、新時代を切り開くことができるだろう。

この挑戦がいかに困難なものであろうと、立ち向かうしかない。気候との交渉は不可能である。ならば、私たちが互いに交渉するほかないのだ。

・サーミフ・シュクリー氏はCOP27の予定議長でありエジプト外務大臣。

著作権:プロジェクト・シンジケート

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