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イラン政権の解決不可能な危機

イランの首都テヘランで、道路を封鎖する抗議デモ参加者の一団。(File/AFP)
イランの首都テヘランで、道路を封鎖する抗議デモ参加者の一団。(File/AFP)
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21 Nov 2022 08:11:56 GMT9
21 Nov 2022 08:11:56 GMT9

イランの政権は、権力を誇示するとともに、畏敬の念を抱かせ、維持可能で正統性を有する上に人々の支持を集める政府を通して支配しているという自画像を描くために、国内で直面する危機を過小評価しようと試みている。

例えば、アリー・ハメネイ最高指導者は全土で進行中の騒乱を「敵によって」企図された「散発的な暴動」と呼び、デモ参加者を「悪党、強盗、恐喝者」と形容している。ハメネイ氏は最近の演説で次のように述べた。「これらの散発的な暴動は、敵がイラン国民の偉大かつ革新的発展と運動に対して仕掛けた、受け身で下手な試みである」。ハメネイ氏はまた、全土に広がる抗議デモを「取るに足らない出来事」だと片づけている。「建設、偉大な行政職務、効率的立法、重大な司法警察活動、外交政策上の重要な問題がこれら取るに足らない出来事によって脇に追いやられることがあってはならない」

さらに、政権の指揮下にある警察と治安部隊はハメネイ最高指導者の支持に力を得て、抗議デモの弾圧のために全面的な暴力行為を続けている。

にもかかわらず、ここで指摘すべき重要な点は、抗議デモが単一の指導者の指揮下で組織されているわけではないにせよ、大規模デモの集団的性質と、それが政権に対して持つ危険性を過小評価すべきでないということである。このような集団的抗議が為政者の権力保持を危険にさらす力を持つことは、歴史が示す通りである。

一連のデモはハメネイ氏が主張するような「取るに足らない出来事」でもなければ「散発的な暴動」でもない。政権の主要機関の一つさえ、人口の圧倒的多数(75%近く)が抗議に参加する用意があることを認めているのだ。国家の安全保障を専門とするイランの最高国家防衛大学は、政府関係者に対し最近出版された研究の中でこのような危険に関して警告している。

研究は次のように結論づけている。「過去10年間の社会的・政治的発展の中で、あらゆる種類の運動が創始され、社会・文化的コミュニケーションと…政治権力創出の中心となっている。これらすべての要素がイラン社会の諸側面を完全に変容させ、2018年1月および2019年11月の二つの抗議活動の波とともに、イラン社会が政治的崩壊の瀬戸際にあるという疑いを強めている」

大規模デモの集団的性質と、それが政権に対して持つ危険性を過小評価すべきではない。

マジド・ラフィザデ博士

実際、イラン全土で2018年、2019年、そして今年2022年に起きた一連の騒乱は、人々の激しい怒りと体制転換への支持の浸透を指し示している。民衆による抗議の第一波は4年近く前にイランの経済状況をめぐって発生し、国中に拡大して次第に政治的様相を呈した。反政権運動は膨大な数の都市や町に広がり、それぞれの場所できわめて刺激的なスローガンが叫ばれた。

スローガンの中には、「独裁者に死を」「強硬派も改革派も終わりだ」「我々の敵はここイランにいる」などがあった。

これらの反乱は取るに足らないものだというハメネイ氏の主張とは裏腹に、最近数年で抗議デモの数が増え続けているだけでなく、その規模や期間も上昇している。人々は以前より、権力に立ち向かう自信を持つようになったのだ。

当初は経済問題に焦点を当てていたスローガンが「自由、自由、自由」「クルディスタンからテヘランまで、私は生命をイランに捧げる」「私たちは皆、マフサ(・アミニ)だ、闘い、そして反撃する」「投獄された教師たちを解放せよ」などの政治的なものに変わって久しい。もう一つの主要な警告は、イラン神権政治の中心人物であるハメネイ氏が常時スローガンの攻撃対象となったことで、人々は「今年は犠牲の年だ、セイエド・アリー(・ハメネイ最高指導者)は倒されるだろう」「ハメネイに死を」と叫んでいる。

イラン当局者や政府組織の一部は、抗議デモの原因は経済にあるとするだけである。例えば、最高国家防衛大学による研究は67.2%のイラン国民が「高度」な「貧困状態」を経験しており、82.2%が「自分の必要は満たされていないと主張」し、「59.4%が自国の状況を異例で異常だと捉えている」

切迫した経済状況は、実際に進行中の抗議デモを推進する重要な要素である。だが、人々の怒りが神権体制に向かう理由はそれ以外にもあり、それらは無視されるべきではない。それらの不平には、体制が行っている政治的抑圧、制限の多いイスラム法、人権侵害、国の資源がフーシ派、ヒズボラ、イラクのシーア派武装勢力など、中東全域でイランを代理する武装グループに流れていること、そして政府が自国民の生活水準の向上に取り組もうとしないことへの不満が含まれる。

一言で言えば、イランの体制は解決不可能な危機に直面しているように思われる。当局は抗議デモを過小評価しようとしているが、もっとも最近の騒乱と大規模なデモは、イランの指導者たちとその権力保持への重大な警告だと受け止めるべきなのだ。

  • マジド・ラフィザデ博士はハーバード大学出身のイラン系アメリカ人政治学者。Twitter@Dr_Rafizadeh
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