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代理民兵組織の旗がイラン政権の混乱を露呈

国営テレビ番組にて、公式のイラン国旗と並んで掲げられるさまざまな代理組織の旗の前に立つアミール・アリ・ハジザデ司令官(画像)
国営テレビ番組にて、公式のイラン国旗と並んで掲げられるさまざまな代理組織の旗の前に立つアミール・アリ・ハジザデ司令官(画像)
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22 Jan 2020 03:01:43 GMT9

イラクにおける米国とイランの重大な確執が激化している最中、2020年初頭に起こったある重要な出来事に、多くのアナリストは注意を払っていなかった。もっと劇的な出来事と、その後に起こり得るさまざまなシナリオやその結末に気を取られていたためだ。1月9日、イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)空軍司令官アミール・アリ・ハジザデ氏は、イラクの米軍基地2つにミサイル攻撃を行った件について、国営テレビでコメントを発表した。異様だったのは、背景に9本の旗が映っていたことだ。過去のIRGC司令官が公共の場で声明を発表する際には、IRGCとイラン国旗しか登場していなかった。
問題の旗の多くは、イランの代理民兵組織のものだ。そのような民兵組織は、イラン政権が米国と米国を支援する中東の国々に対抗するための「抵抗の軸」と見なされている。掲げられた旗は、アラブとその他近隣諸国に反するイラン政権を支援する、セクト主義のシーア派民兵組織を象徴していた。名を連ねているのは、シリアを拠点にしたパキスタンのザイナブ旅団、同じくシリアにいるアフガンのファテミュン、パレスチナのハマース運動(非シーア派)、イラクの国民動員軍(PMU)、イエメンのアンサール・アッラー(フーシ)の民兵組織、そしてレバノンのヒズボラである。残り3つの旗はそれぞれ、イラン空軍と航空宇宙軍の旗とイラン国旗だ。
これらの旗を掲げることの意義は、イラン政権が発する言葉なき象徴的なメッセージにある。つまり、イラン政権と特定の民兵組織との関係は新たな段階に移行し、上記の民兵組織がイランの傘下に入ったことを「公的に」認知したということだ。このような関係性はこれまでも公然の秘密ではあったが、この地域の代理民兵組織を承認することは避けていた。しかし今や建前の時代は終わり、これらの民兵組織は正式にアラブ世界におけるイランの代理勢力となった。
旗が掲げられた後、PMU、フーシ、ヒズボラ、シリアのシーア派民兵組織、そしてハマースはもはや、それぞれが活動する国に所属していると表明できなくなり、また彼らのアイデンティティが本質的に祖国の土地と人民につながっているとも言えなくなってしまった。彼らは皆アラブ圏におけるイラン政権の代理勢力で、イランの拡大政策を実現するための駒として、勢力範囲の拡大・保持作戦に参加している。また、今回の行動でイラン政権は、他国の統治権を尊重し国内問題には不干渉であるべきという原則に基づいた国連の国際法を、公然と軽視する姿勢を見せている。
さらに、イラン政権は大胆な行動を取ることで、多くのメッセージを発信するとともに一定の目的を達成している。第一に、イランが活動領域の代理組織を掌握していることを誇示した。こうしてイランは、地理的な境界を越えた軍事行動の拡大を可能とし、近隣アラブ諸国への足掛かりを獲得している。
第二に、アラブ諸国の武装民兵組織に対して財政的、政治的な支援を行うだけの時代は終わりを告げ、さらなる段階へ移行した。イランは現在、イラク、シリア、レバノンにおいて大きな決定権を持つ段階に入っている。各国の代理民兵組織は合法的な国民運動ではないにもかかわらずだ。
第三に、上記の民兵組織が、祖国の理念のためではなく真にイラン政権のために働いていることを証明した。イランこそが第一の祖国で、イラク、イエメン、シリア、パレスチナ、レバノンは第二の祖国ですらなく、実質的にイランの地理的拡張地域に過ぎないと表明したのだ。これらの代理組織は、イラン政権の領域支配を保持・拡大することを目指している。

上記の民兵組織が、祖国の理念のためではなく真にイラン政権のために働いていることを証明した。

ムハンマド・アル=スラミ博士

最後にイラン政権が強調しているのは、代理組織を通じて、敵を消耗させるために複数の前線で紛争に携われるようになったことだ。
これらすべてが指し示しているのは、イラン政権は今や公的に、かつて単なる同盟相手だった海外の武装民兵組織を承認し、実際にIRGCの傘下に置いているという事実だ。IRGCは米国のテロ組織のブラックリストに掲載されている。そのため、これらの代理組織は将来、一部あるいは全体がテロ組織に分類される可能性がある。上記の民兵組織はすべて、ゴドス部隊の司令官を務めた故ガーセム・ソレイマーニーの下で戦闘に従事していた。ソレイマーニーは紛争地域の無数の人々を不具にしたテロリストであったと、ドナルド・トランプ米大統領は強調している。
一方で、旗の提示はイラン政権の混乱も反映している。また、この出来事が地域においてどのように受け取られるか、どのような結果を招くのかという点に関する理解不足も露呈している。攻撃開始のためイラクの民兵を配置して以来連敗を喫しているところに、さらなる挫折が加わる可能性もある。アラブ諸国を軽視するあからさまな態度は、イラン政権の地域的影響力を弱めるだろう。そして、長期にわたり苦しむ中東の人々がすでにイラン政権と残虐な民兵組織に抗議の声を上げ、国際社会が不安定要素として懸念を表明している中、国の評判が地に落ちることは明白だ。
イラン政権が代理民兵組織の存在を誇示したことによって、国家に尽くすという民兵組織の建前ははがれ落ち、単なるイランの取り巻きに過ぎないことが露呈してしまった。アラブ諸国にどれだけ害を及ぼそうとも、イラン政権だけに忠誠を尽くす雇われ傭兵集団だということだ。これらの民兵組織は事実上、イラク軍、イエメン軍、レバノン軍ではなくIRGCの代理戦闘組織に分類される。したがって、あらゆる軍事ミッションにおいて真っ先に標的になるだろう。

また今回の出来事によって、極めて重大な疑問が生じる。たとえば、PMUはイラクではなくイランのために働くイランの民兵組織であるなら、イラク軍や国会議員および閣僚を有するイラク国会・政府の力に果たしてなれるのだろうか?イランの代理組織ではなくイスラム原理主義の政治運動を行うと自称しているハマースはどうか? 今回の出来事によって、ハマースはイランのために働いているというイラン側の承認を得たことにはならないのか? レバノンではなくイランのために働いているヒズボラが、レバノン政府や議会の構成員をどうやってメンバーに加えるのか? 各国の市民たちは、他国の傘下にある存在が、自分たちの政治機構と公的機関内で働くことをどのように受け入れるのか? これらの疑問に対する答えは、各国の政府の立ち位置と、どれだけアラブ文明と領土の保全を希求しているか、そして独立した主権国家としてどれだけ国の安全保障を希求しているかによるだろう。

モハメド・アル・スラミ博士はイラン国際研究所(Rasanah)の所長である。ツイッター: @mohalsulami

 

 

 

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