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気候変動に注力のサウジアラビアに脚光

サウジアラビアは、財政と環境の持続可能性のための行動計画として「サウジビジョン2030」戦略を導入した。(AFP)
サウジアラビアは、財政と環境の持続可能性のための行動計画として「サウジビジョン2030」戦略を導入した。(AFP)
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07 Feb 2023 03:02:41 GMT9

国連環境計画は、年内完成予定の、サウジアラビアに関する環境報告書の編集長を募集する求人広告を公開した。一方、科学雑誌『サステイナビリティ(Sustainability)』では、「サウジビジョン2030」特集に向けた論文募集を開始し、同国の目標達成のための「学際的な解決策」を求めている。締め切りは8月だ。また、サウジアラビアは2021年に新たな環境法を制定した。持続可能性と未来についてこれだけ注目されているサウジアラビアだが、進捗はどうなっているのだろうか。

まずその背景から説明しよう。2015年のパリ協定では、今世紀末までに世界の気温上昇を産業革命以前から2℃(できれば1.5℃)に抑えるなど、一連の地球規模の目標が設定され各国の合意を得た。2021年、国連環境計画は報告書『今そこにある温暖化危機(The Heat Is On)』を発表し、介入によって気温上昇は鈍化したが十分ではないことを示し、2099年末には2.7℃上昇するとの見通しを示した。しかし、各国のネットゼロ炭素排出の公約が実行された場合、その値は2.2℃に減少するとした。さらに、ネットゼロ目標を公約したG20の17カ国は、排出量の70%を占めていると発表した。しかし昨年の『排出ギャップ報告書』では、現在の排出量では、目標からは大きく外れているとしている。

無論、サウジアラビアに関する国連環境計画の報告書は、他の多くの国々の報告書を含む大きなまとまりの一部として作成されるが、『サステイナビリティ』の焦点からもわかるように、その結果は大きな影響を持つと考えられる。同様のビジョン戦略や主要産業を持つ近隣諸国は、サウジアラビアを参考にし、その取り組みの結果を評価することになるだろう。

『サステイナビリティ』が企画したような特集は、分野を超えた世界中の科学者、エンジニア、イノベーターたちの頭脳を結集し、最も効果的な方法でこれらの目標に立ち向かうための素晴らしい試みだ。彼らの研究や洞察により雑誌の発刊代を賄うことができ、あるいは少なくとも、国のリーダーたちを然るべき人々に引き合わすことができるのだ。ここではサウジアラビアに焦点を当てているが、すべての湾岸諸国と石油生産国を代表しているのである。

サウジアラビアが重要なのは、世界の石油輸出量の約13%を占めており、また国内の石油使用量も多いため、世界の二酸化炭素排出量の1.52%を占めているためだ。1990年以降、排出量は227%増加しているが、これは中国やインドに比べれば小さい。つまりサウジアラビアは、自国の成功例や、どこに改善の余地があるかという教訓によって、すべての国を感化し得る可能性を秘めているのだ。

二酸化炭素排出量の少ない国にも、果たすべき役割があるのではないかと検討する余地はある。英国は、1990年からの排出量増加率が最も小さい国の一つで、約40%だが、これは製造業の多くを海外に移したことが一因だ。またアマゾンのような巨大物流企業のおかげで、安いものを買って捨てることができるようになったため、中国やインドでの安価な製造業が大幅に増加した。これらの国では低コストが優先され、環境に配慮した慣行についてはほとんど議論されない。その結果排出量が急増しているのだ。

同じようなビジョン戦略や主要産業を持つ近隣諸国は、サウジアラビアに注目し、その取り組みの結果を評価することになるだろう。

バシャイヤ・アル・マジェド

私たち皆が、何を、どこから買っているか、そしてそれがどのような環境で製造されているのかを考えることで、影響を及ぼすことができる。国連環境計画は2020年、排出量報告の正確性と透明性を高めるための、測定に基づく報告書を作成すべく、多くのステークホルダーと共同で「石油・ガスメタン・パートナーシップ2.0(OGMP)」を立ち上げた。OGMPによると、石油・ガス産業の副産物であるメタンは地球温暖化の第2位の原因であり、削減の余地が最も大きいという。手始めにメタンの削減を行うのは良い選択肢だと言えそうだ。メタンが漏れている設備を修理し、漏れ出ていたメタンを回収するなど、簡単な解決策が挙げられる。

サウジアラビアは、財政と環境の持続可能性に向けた行動計画として「サウジビジョン2030」戦略を導入し、二酸化炭素排出量の削減目標も掲げている。また、環境要因、教育、インフラ、男女平等などに関する改善も盛り込まれている。

石油・ガス産業が環境に与える影響は、地球温暖化だけではない。例えば海運、生産に伴う塩廃棄物、気温の変化、油漏れなどによる沿岸生息地や海洋生物への被害もある。サウジアラムコなどは設備や監視プロセスの改善に取り組み、サウジアラビアはグリーン水素などの再生可能エネルギーへの投資額が世界最大級になりつつある。

二酸化炭素の排出量が改善されないことを受け、サウジアラビアは2021年1月に環境法を更新し、違反に対する罰則を引き上げるとともに、特に海洋環境における環境負荷の高い活動の監視の強化、制限と認可の改善を行った。ガスや石油からの多角化の一環としてエコツーリズムが奨励される一方、環境的にデリケートな地域へのアクセスは制限されることになる。どれも前向きなステップであり、サウジアラビアがインフラを改善し、砂漠に再生可能エネルギー用地を建設し、沿岸地域を観光用に開発するのであれば、野生動物と人間双方のために環境を保護することは極めて重要である。

しかし、私たちがすでに経験しているような影響を減らすことを望むなら、温室効果ガスの排出を減らすために世界規模でさらに努力する必要がある。国連環境計画の年次報告書は、その成果をモニターし、各国の責任を明らかにし、どう改善すべきかを確認するための優れたツールだ。『サステイナビリティ』の特集号も、サウジアラビアだけでなく世界的な適用を視野に入れて発行すれば、注目に値するはずだ。

  • バシャイヤ・アル・マジェド博士は、クウェート大学法学部教授、オックスフォード大学客員研究員。

Twitter: @BashayerAlMajed

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