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アパルトヘイト政策で後戻りできないところまで来たイスラエル

ヨルダン川西岸で2023年2月3日、イスラエル軍によって射殺された男性の葬儀に集まったパレスチナの人々(AFP)。
ヨルダン川西岸で2023年2月3日、イスラエル軍によって射殺された男性の葬儀に集まったパレスチナの人々(AFP)。
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07 Feb 2023 08:02:18 GMT9
07 Feb 2023 08:02:18 GMT9

パレスチナは我慢の限界に来ている。まだ2月上旬だというのに、今年に入ってからのイスラエルの銃撃によるパレスチナ人の死者は35人に上っている。このうち61歳の女性を含む9人は、ヨルダン川西岸ジェニンで起きた急襲作戦における死者だ。また、東エルサレムで起きた(パレスチナ人による)銃撃事件では7人のイスラエル人が死亡している。緊張が高まる中、ユダヤ人入植者が地元のパレスチナ人を襲う事件も急増している。

暴力の応酬が続く中、イスラエルのイタマール・ベングビール内相は群衆の先頭に立って「テロリストに死を」と叫んだ。1930年代のナチス・ドイツを彷彿とさせる光景だ。ベングビル氏はまた、暴力事件に関係したパレスチナ人が家族と暮らす住宅を破壊するという集団処罰政策を推進するためのロビー活動をしている。この対象には、エルサレムで2人にけがをさせたとされる13歳の少年も含まれる。2014年以降、75軒の住宅が破壊されたが、その数は今後、急増するとみられている。

だが世界の反応は根本的にアンバランスだ。ユダヤ人がパレスチナ人の暴力の犠牲になると常に「テロ」だという大騒ぎが起きるが、パレスチナ人の死者が増えても反応は鈍い。このダブルスタンダードを背景にイスラエル側では「何をしても罪には問われない」という風潮が生まれた。イスラエル政府は極右志向を強めるとともに、何をやってもおとがめなしとの姿勢を貫いている。

イスラエルのベニヤミン・ネタニヤフ首相は、パレスチナ人の頭越しでの中東和平は可能だとの誤った考えを表明している。まるでパレスチナ人抜きでも最終的な和平合意は実現できるとでも言わんばかりだ。ネタニヤフ首相はスーダンやバーレーンやアラブ首長国連邦(UAE)といった一部のアラブ諸国との国交正常化を例として挙げたが、イスラエルはそもそもこれらの国々と戦争したこともなければ、領土を奪ったこともない。なのにこれらの国々との国交正常化を中東和平に向けた意義ある前進と位置づけるのは無理がある。アメリカは西サハラ問題や債務免除をエサにイスラエルとモロッコやスーダンとの「関係正常化」交渉を仲介したが、これも意義のある、広汎な「雪解け」の土台になるとは言いがたい。

サウジアラビアの外相を務めるファイサル・ビン・ファルハーン王子は先日、アラブ世界との真の和平に向けたイスラエル側の第一歩として基本的に必要なのは、パレスチナとの和平だと強調した。「真の正常化と真の安定は、パレスチナ人に希望を与えることを通してのみ、パレスチナ人に尊厳を与えることを通してのみ可能になる」と王子は述べた。

イスラエルの形ばかりのエジプトやヨルダンとの国交正常化を見れば、本物の和平は首脳と首脳の間ではなく、国民と国民の間で達成されるものだということが分かる。エジプトやヨルダンの国民の対イスラエル感情が1980年代と比べて融和的になったかと言えばそうではない。パレスチナ人にとっての正義抜きに、平和を愛する両国の国民が合弁事業や文化交流や観光に前向きになるはずがない。

ネタニヤフ氏が抱えているのは「アラブ」問題ではなく、「文明」の問題だ。文明化された世界は、アパルトヘイトや残酷な振る舞い、民族浄化を受け身で受け入れたりはしない。アメリカの連邦議会やメディアはかつて、イスラエルのやることを無批判に正しいものとして受け入れていたが、最近ではそうでもない。ネタニヤフ政権の長期化により、イスラエルの孤立は決定的なものとなりつつある。

そんなネタニヤフ氏のパレスチナに対するビジョンも、目つきの悪い極右の閣僚たちの考え方に比べればかなり情け深い印象だ。パレスチナ全域は神からユダヤ人に与えられた土地であり、あらゆる手段でパレスチナ人を完全に排除すべきというのが極右の閣僚たちの考えだからだ。

ネタニヤフ氏の民主主義への攻撃は、イスラエルの司法制度を骨抜きにするという彼の野望の中でも最も顕著なものだ。パレスチナ人にとって、イスラエルの裁判所が公平な戦いの場であったことはかつて一度もないが、住宅の破壊や強制立ち退き、土地の強奪、不法逮捕といった言語道断な権利の侵害を先送りにしたりひっくり返すことができるのではないかというかすかな希望の光ではあった。だが司法に対する指名権を政治家に幅広く与えることで、また国会議員たちにあらゆる司法判断をひっくり返す権利を認めることで、ネタニヤフ氏とその仲間たちは、司法制度をイスラエルのファシスト的政治エリートたちの単なる添え物にしようとしている。

実際のところ、彼らはさらにその先を狙っている。アラブ系の政党が選挙に出るのを禁じ、市民団体を解散させ、市民権を得られる人の定義を狭め、パレスチナの都市に対するこれまで以上に残忍なポグロムにゴーサインを出すのに司法の力を利用しているのだ。こうしたやり方は世界平和にとっての脅威だというまっとうな訴えを掲げる大規模デモが、イスラエル全土で起きた。テルアビブのある大学関係者はフィナンシャル・タイムズ紙上で、イスラエルは「非リベラルで非民主的な宗教国家であり、西側世界にとって危険な存在だ」と主張した。

二国家解決の命運がほぼ尽きた今、問題はいかなる「一国家解決」が出てくるかだ

バリア・アラマディン

アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は1月30日、訪問先のイスラエルのネタニヤフ首相と並び、いつになくつっけんどんな言い方で「人権の尊重、すべての人に平等な司法行政、マイノリティ集団の平等な権利、法による統治、報道の自由、活気ある市民社会を含む、民主主義の根幹をなす原則と制度に対する私たちの支持」を強調した。ちなみにブリンケン氏の義父はホロコーストの生き残りだ。

二国家解決の命運がほぼ尽きた今、問題はこれからどんな形の「一国家解決」が出てくるかということだ。それがすべての市民が同じ権利と自由を享受する単一国家であれば、世界にとって融和と平和的共存の見本となるだろう。だが残念ながら、実現可能性が高いのはそれとは対極的な単一国家だ。つまりアラブ人とマイノリティに市民権を認めず、不満を表明しようものなら残忍な力で抑え込んでくるアパルトヘイト国家だ。

パレスチナ全域を見ると、アラブ人の人口はユダヤ人をやや上回っているようだ。パレスチナ人の人口の増加率はユダヤ人を上回っている。ネタニヤフ政権が民主主義的価値観を守るふりすらしなくなっている中、マイノリティにとって抑圧的な多数派に対して声を上げる手段はむき出しの暴力しか残されていないのが現状だ。アラブ系のイスラエル人はイスラエルの人口の4分の1になろうとしているが、もし彼らが民主主義的な、法的な権利を奪われるなら、市民社会の安定が保たれる見込みは薄い。

イスラエルは今、岐路に立っていると言う人もいるかも知れない。だがネオファシスト的なネタニヤフ連立政権はすでにアクセルを思い切り踏み込み、引き返せない地点に向けて加速しているのが現状だ。

これはパレスチナ人にとっては非常に単純な話で、和平に向けたパートナーがいないという状況だ。二国家解決はもはや交渉のテーブルには載っていない。パレスチナ人が土地と権利を取り戻すには反乱を起こすしかない。

だが、ネタニヤフ氏とその取り巻きがイスラエルの民主国家としての建前をたたき壊す中で、パレスチナ人は自分たちがこうむった土地の収奪を利用し、道義的に上の立場に立たなければならない。紛争が長引いたせいで、双方が非人道的な人命軽視の度を強めている。ベングビル氏の極右の入植者運動により、パレスチナ人に残忍な仕打ちをして殺しても構わないという風潮が生まれている。結局それがパレスチナ人の憎悪や復讐心を育て、新たなインティファーダを引き起こしてきた。また、パレスチナ側に有能な指導者がいないことが、道義的なリーダーシップの空白を招いている。

もしパレスチナのアラブ人が人口面での強みを生かし、(イランで起きているような)平和的で幅広い不服従運動を始めるなら、ネタニヤフ政権の醜く残忍な素顔にこれまでにないほどはっきり光を当てることになるだろう。イスラエルの極右の世論の過ちを、世界の目の前で永続的に断罪することになるだろう。

アラブ人がユダヤ人より何か劣る人間として扱われ、パレスチナ問題に対する世界のどっちつかずの態度といったダブルスタンダードはもうたくさんだ。もしそれがネタニヤフ氏のアパルトヘイト的専制主義のビジョンか、パレスチナ人の75年にわたる正義への探求かの二者択一であるならば、世界の支持と連帯に値するのがどちらの大義かは誰の目にもますます明らかになっている。

・バリア・アラマディン氏は受賞歴のあるジャーナリストでニュースキャスター。中東とイギリスで活動している。Media Services Syndicate編集長で、数多くの首脳への取材経験がある。

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