「私が思う今回の会議の重要な点は・・・」といった、ダボス後の「即座の反応」を毎回数多く見かけるけれども、「魔の山」[トーマス・マンの同名の小説の舞台にダボスがなっている]を下りて、世界経済フォーラム(WEF)の年次総会に対して評価を下す前に、冷えた頭を少しほぐしてから(比喩的な意味でも文字通りの意味でも)考えてみたほうが良いのではないかと私は思う。
そういった訳で、私はペルシャ湾岸の比較的さわやかな気候の中で数日間考えてみた。その結果、ダボスの大きな教訓として次の2つを挙げたいと思う:第一に、気候変動は政治とビジネスのリーダーたちにとって2020年の最大の関心事だということ。第二に、サウジアラムコが、その大きな課題への対処方法を見つける努力の先頭に立とうとしていることだ。
ダボス会議出席者の一人、米国コロンビア大学グローバル・エナジー・ポリシー・センター所長を務めるジェイソン・ボードフ教授の、スイスでのこの会議は事実上気候についてのカンファレンスだったという指摘は、気候問題への関心の高さをよく表すものだった。だが、米国のドナルド・トランプ大統領の世界経済フォーラムのスターとしての地位を弱めたのは、スウェーデンの10代の気候問題活動家、グレタ・トゥーンベリの存在だけではない(彼女は会議で話題をさらった人物の一人ではあるけれども)。
気候変動は世界の思想的リーダーたちにとって最大の問題だと報告した、ダボス前発行のWEFによるグローバルリスクレポートから、コンサルティング企業・PwCによる気候を深刻な課題と捉えるCEOたちの非常に悲観的な見方を示す調査、また、大手の世界的投資会社・ブラックロックによる化石燃料への投資の一部からの撤退決定に至るまで、環境問題はダボス会議の討議内容の主流となった。
トランプ大統領が、一部の人々を「占い師」と呼ぶなどして解雇する一方で、気候変動対策の目標を達成するため具体的かつ実践的な行動を取ろうとする動きには、真の勢いがあった。
マイクロソフトのサティア・ナデラCEOが行った、同社が2030年までにカーボンニュートラルになり、2050年までにはカーボンネガティブになるという発表は、ビジネスリーダーによる気候変動に対する新しい考え方を表す、おそらく最も注目に値する宣言だった。
環境目標へのさらに決定的なコミットメントは、サウジアラムコにより発表された。しかし、おそらく注目の集まるコングレスホールでではなく小さなプライベートな集まりで発表されたため、気づかれることは少なかった。
エネルギーの世界をリードする多くの重要人物が参加した招待者のみの集まりで、サウジ・アラムコのアミン・ナセルCEOは、ダボス会議全体の中でもおそらく最も力強い環境安全保障のための発表を行った。「当社の技術により、大気から二酸化炭素とメタンを除去できると確信しています」と彼はゲスト達に宣言したのである。
単に「削減」ではなく、「除去」という言葉を使っていること注目してほしい。これは、しばしば(そしてアンフェアに)主要汚染者というレッテルを貼られてきた、しかし実は「クリーンな」原油とメタンの使用において世界最高の実績を誇る、世界最大の石油会社からの大胆な挑戦なのだ。
サウジアラムコは、自身がエネルギー産業から環境を汚染する化学物質を完全に取り除く技術を持っていると考えている。品格あるインターコンチネンタルホテルで開催されたこの集まりは、サウジアラムコの優れた技術的専門知識と、同社が継続している、そのほとんどが化石燃料からよりクリーンな製品を生産することのみを目的とするエネルギー技術への多大な投資を称えるものだった。
このテーマは、サウジアラビアのエネルギー相であるアブドルアジズ・ビン・サルマン王子によって、サウジアラビアのG20優先事項に関する会合中の段階から繰り返されていた。彼は代表団に、サウジアラビアは環境に配慮したエネルギー事業の2つの最も差し迫った要素に対する、重要な対策を準備していると述べている。その2つの要素とは、炭素の回収、使用と貯留(CCUS)、および「グリーン」燃料としての水素の将来の役割である。
これら2つの課題は、来月末にリヤドで開催される重要な国際会合でさらに議論される。この会合には、エネルギーの専門家たちが集まりCCUSと水素が重要な役割を果たす「循環炭素経済」の概念について話し合う。この概念は、サウジアラムコとサウジアラビアはしばらく前から推進してきたものだ。何か大きな発表があることが期待される。
トランプが何を言おうと、世界中の人々は、気候変動ははっきりと目前にある危機だと確信している。サウジアラムコはその重要性を理解し、気候変動問題への対応に向けて人類史上最大の上場企業として、その強力なリソースを投入している。それが私が今回ダボスで学んだことだ。