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暴力的な過激派と彼らを駆り立てるイデオロギー

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02 Feb 2020 11:02:18 GMT9
02 Feb 2020 11:02:18 GMT9

ピーター・ウェルビー

英国の刑務所制度は、最近起き、注目を集めた過激主義に関連する事件に耐え、存続してきた。11月29日、社会復帰のイベントに参加していたテロリストのウスマン・カーンは、2人を殺害した後、警察に射殺された。彼は刑務所の中で、そして釈放後も脱過激化教育プログラムを受けていた。

1月9日、ホワイトムーア重警備刑務所の2人の受刑者が偽の爆発物を取り付けたベストを着用し、手製の刃物で刑務官を襲撃した。受刑者の一人は、イギリス兵を斬首する計画を立てたとして2015年に拘置されたブルストム・ジアマニであると考えられている。

ホワイトムーアの事件には共通点がある。カーンは、釈放される前、ウッドヒル重警備刑務所に移される前に刑期の多くをホワイトムーアで過ごした。ホワイトムーアとウッドヒルの職員を非難することは無意味に罪を転嫁することになるし、いずれにせよ間違っている。本当の問題は、英国が過激派の受刑者を扱う構造のあり方にある。実際、ウッドヒルには英国の3つの過激派隔離棟のうち1つがあるが、ほとんど使用されていない。だが、過激派の受刑者がより多くの受刑者と合流する危険性がある。ホワイトムーアの事件におけるジアマニの仲間の襲撃者が改宗者で、過激派犯罪で刑務所にいたのではなかったのが好例だ。この問題は、刑務所制度の最重要課題だ。

英国政府はこういった問題に対応するため、新テロ対策法案を提出した。新提案の多くは、資金の増加と現場の職員の増加につながっている。全て良いことだが、それだけでは、過激派が繰り返し罪を犯し、他者を過激化させる根本的な問題に対処できない。

提案の第2部では、過激派の受刑者の拘留と釈放の条件を扱い、刑期の満了と、最低限の刑罰の制定を求める。これは、加害者の実刑判決が、様々な法体制と裁判所の判決で混乱したロンドン橋殺傷に直接対応するものだ。彼が2012年に謀議のために受けた元々の「不定期」刑(不定期刑とは、犯罪者が一定期間服役した後に釈放されるのではなく、社会にとって危険がないとみなされた場合にのみ、刑務所から釈放されることを保証する方法だった)は、2013年の控訴で覆され、16年の懲役刑が科された。英国の実刑判決のガイドラインの下、彼は8年後に(刑期の途中で)釈放されたのだが、これは、彼が一定の条件を守らなければならなかったということである。その条件では、彼がテロ攻撃を実行する手段を見つけることを防げなかったのだ。

英国の新提案の多くは、資金の増加と現場の職員の増加につながっている。全て良いことだが、それだけでは、過激派が繰り返し罪を犯し、他者を過激化させる根本的な問題に対処できない。

ピーター・ウェルビー

テロリストの受刑者が全員同じというわけではないのに、判決は「汎用的」すぎる。他の者よりはるかに危険な受刑者もいる。一部は脱過激化され、社会復帰させられるだろうし、そうではない者もいるだろう。むやみやたらに寛大なシステムをむやみやたらに抑制的なシステムに置き換えることにほとんど意味はない。後者は市民を守るのには優れているが、最良の制度は、受刑者の状態と彼らが個々にもたらす危険により敏感に対応するものであろう。この種の制度は、約束された新たな資金があったとしても、刑務所制度の中で利用可能なものよりはるかに多くのリソースを必要とする。

しかし、提案の3番目の要素は重要かもしれない。過激派の受刑者がもたらす危険性を見極め、過激派のイデオロギーを揺るがせようとする「専門の心理学者と特別に訓練されたイマーム」が以前に増して重視される。英国政府が、脱過激化プロセスにおける宗教指導者の重要性を認識しているのは心強いことだ。過去数十年もの間、それらは表向きの反過激主義のツールのごく一部にすぎず、使われたとしても、往々にしてひどいものだった。

下手な使われ方の一例は、カーンが服役中に参加した脱過激化プログラムの一つである、ヘルシー・アイデンティティー・インターベンション・プログラムだ。政府がこのプログラムに委託した2018年の研究では、このプログラムを「政治的・宗教的信条ではなく、個人のアイデンティティーや社会的アイデンティティー、ニーズ、価値観に」焦点を当てたものとして記録しており、宗教的過激派に対しては宗教的要素を取り入れることを推奨している。さらに気になるのは、このプログラムは、「過激派グループとの関わりや主義、そして(もしくは)イデオロギーに関係なく」参加者が他人に危害を加えぬよう説得するために開発されたという記述(崇高な目標)だ。つまり、重要な脱過激化プログラムの一つとして行動を変えることを目指していたが、その行動を正当化するイデオロギーについてはあまり気に掛けていなかったということだ。カーンのケースで見たように、彼はイデオロギーにしがみつき、行動に移したのだ。

英国の学界や政策決定サークルには、イデオロギー的とも言える、深く根付いた信念がある。宗教的イデオロギーは、宗教的過激主義の要因として小さなものであるという信念だ。この信念は、いくつかの誤解によって支えられおり、その1つは、過激な宗教的信念は不合理であり、合理的な人々はそれに関与しないという誤解だ。このアプローチでは、終始問題に対処することはできなかった。英国の刑務所における脱過激化の取り組みは心理学的なものに焦点を当てているが、刑務所の教戒師(受刑者の心のケアを行うために刑務所制度の下で任命された宗教指導者) が、彼らが対応することになる過激派犯罪者と関わる態勢を確実に整えることにはほとんど焦点が当てられていない。

私は、テロ対策の提案で発表された、特別に訓練された新たなイマームたちが仕事に取り掛かるのを見るのを楽しみにしている。しかし、刑務所制度全体が、過激派受刑者の動機となるイデオロギーに焦点を当てない限り、私たちはこの悪循環を断ち切ることはできないだろう。

  • ピーター・ウェルビーは宗教と国際問題のコンサルタントで、アラブ世界を専門としている。

Twitter: @pdcwelby.

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