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石油産業が気候変動対策の一翼を担う理由

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05 Apr 2023 12:04:38 GMT9
05 Apr 2023 12:04:38 GMT9

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、先月、憂慮に満ちた最新報告書を発表し、「すべての人にとって住みやすく持続可能な未来を確保し得る機会が急速に狭まっている」と、警告を発した。この黙示録的な警告を読み飛ばすジャーナリストはまずいない。特に人類を…人類から救う戦いにおける究極の悪役として石油産業の悪魔化に余念のないジャーナリストにとっては無視し得ない警告だ。石油産業の偽善的批判者を含め私たち各人が、石油産業が生み出す製品から幾通りもの方法で利便を得ているが故に、それは人類を人類から救う戦いなのである。

ガーディアン紙のオピニオン記事が述べたように、このIPCCの報告書は、今年11月にアブダビで開催される気候変動交渉の「天王山」であるCOP28の「戦線を明確にする」ものである。選択肢は、この記事の執筆者によれば、「石油の利益か、それとも生活可能な未来か」に要約されるのだという。

しかし、これは、もちろん、誤った選択のあり方だ。見出しをつける記者や二極的なサイロ型思考に陥った人々にのみ適した、存在する選択肢を制限し二者択一を迫る誤った議論なのである。

この議論の真髄は、今回のIPCC報告書の奥深くに埋め込まれている。「温室効果ガスの排出を削減し、人為的な気候変動に適応する実現可能かつ効果的な複数の選択肢」が存在し、「そうした取り組みは現在実行可能である」というのが、このIPCC報告書の認識なのだ。

そして、興味深いのはここだ。こうした選択肢の多くは、石油産業の管理下にあったり、石油産業によって開発途上にあるのだ。こうした選択肢は、大きな声では言えないが、「憎まれっ子」の石油によって得られる利益から資金提供されている研究の成果なのだ。

化石燃料から再生可能エネルギーへの転換の必要性は、今や全世界が認識している。しかし、毎日24時電力を供給できる直近で利用可能かつ持続可能な代替が存在しないため、石油とガスは、転換を行う期間、世界のエネルギー需要を支え続ける必要があり、これは避けようのない現実なのだ。

大手石油企業は、化石燃料の埋蔵量は今日生まれた子供の寿命が終わる前に尽きる可能性が高いことを十分承知しており、持続可能なエネルギー源の研究開発への資金提供を既に行っている。風力発電、太陽光発電、複数の大規模エネルギー貯蔵技術などの研究開発である。

しかし、石油業界が炭素回収ソリューションに注力していることはあまり知られていない。それは、転換期間中に必要な化石燃料の継続使用の影響を軽減し得る極めて重要な技術である。

例えば、サウジアラビアのアラムコは、炭素回収ソリューションの研究を2010年に開始した。アラムコは、「炭素回収・利用・貯留は、世界が繁栄を継続しつつ排出量を削減する取り組みにおいて鍵となる役割を果たすと確信しています」と、完結に述べている。

アラムコは、現在、最大4,500万立法フィートの二酸化炭素を毎日回収処理し、ハワイヤのプラントからポンプで85 kmの距離を送って、ウスマニヤの石油貯留層の地下に貯蔵している。

UAEにおいては、アブダビ国営石油会社(ADNOC)が、2016年以来、アルレヤダの商業規模の二酸化炭素回収・利用・貯蔵施設を運営し、知見を得ると共に、エミレーツ・スティール・インダストリーズから回収した二酸化炭素を処理し、陸上油田に注入し貯蔵している。現在、ADNOCは二酸化炭素の回収能力を500%以上増加させようと取り組んでおり、ガス処理プラントから回収した炭素をグリーン水素燃料の生産に役立てることを計画している。

(再生可能エネルギーへの)転換を行う期間、石油とガスは、世界のエネルギー需要を支え続ける必要があり、これは避けようのない現実なのだ。

ジョナサン・ゴーナル

自動車の排気ガス、船舶、航空機、のエンジン、工場などから排出される二酸化炭素の排出量を劇的に低減可能な炭素回収技術開発しようと、世界中の他の科学者たちやエンジニアたちは競い合っている。このようにして、世界は気候変動の危機から脱し得るのだ。他方、化石燃料の供給が自然に終焉を迎え、十分成熟した持続可能な技術がその不足分を補うまで、全人類が化石燃料の恩恵を受け続けることが可能になるのだ。

IPCCの報告書が発表されてから数日後、英国のエネルギー安全保障・ネットゼロ省のグラント・シャップス大臣は、「パワーアップ・ブリテン」戦略を発表した。その核となるのは、北海の地下からの石油とガスの抽出と、回収した膨大な炭素を化石燃料抽出後の空洞に貯蔵することを両立させる計画である。

石油の新規生産の即時停止を叫ぶ人々の反応は、予測通り、重苦しいものだった。シャップス大臣は、「石油とガス無しでネットゼロにどのようにして移行出来るのか皆さんが説明出来ないのであれば、私たちには石油とガスが必要だということです」と反論した。シャップス大臣は、英国の炭素排出量を削減するために、回収と貯蔵を含む技術開発に200億英ポンド(247億米ドル)を投資する政府の計画を強調した。

炭素回収が地球温暖化との戦いにおいて、必須では無いかもしれないが、極めて重要な武器であることを裏付ける根拠は、今回のIPCC報告書の次の一文にある。「温暖化を摂氏2度以下に抑えるグローバルモデル経路では、電力のほぼ全てが2050年にはゼロまたは低炭素のエネルギー資源から供給されることになり、そうしたエネルギー資源には、例えば、再生可能エネルギーや」 ― そしてここが面白い箇所だ ― 「二酸化炭素の回収と貯蔵を伴う化石燃料がある」

IPCCはさらに、二酸化炭素の回収と地下への注入は原油の増産回収で用いられる成熟した技術であることを指摘し、世界全体での地中貯留容量を1兆トン規模と推定しており、「地球温暖化を摂氏1.5度に抑えるために2100年までに必要な二酸化炭素の貯蔵量を超えている」と述べている。

それでは、何が課題なのだろうか? IPCCは、この問いかけにも答えている。IPCCは、炭素回収と貯蔵の実施は、「現況、技術的、経済的、制度的、生態学的、環境的、社会文化的な障壁に直面している」と述べている。

換言すると、情報不足でありながら発信力が有り票数を振りかざす抗議グループを恐れる各国政府は、気候変動との戦いにおいて我々が持つ最高の武器と証明されているものへの投資やその活用を躊躇しているのである。

現時点で再生可能エネルギーに全面的に依存することは災いに繋がる。それに加えて、世界が依然として依存している化石燃料のより良い利用法に目を瞑ることは犯罪的過失だ。

ジョナサン・ゴーナル氏は英国のジャーナリストで、以前はタイムズに所属していた。中東での駐在勤務経験があり、現在は英国を拠点としている。

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