
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、スーダン国軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の間で続く戦闘が「スーダン国内で大惨事となるだけでなく、地域全体やそれ以外の世界を飲み込んでいく恐れがある」と予測した時、国際社会のムードの大部分を代弁していた。
現在のスーダンが危険地域となっている主な原因は、国内の既得権益者の間でゼロサムの武装闘争が行われていることと、東側と西側の両方の諸外国からの干渉があることだ。
スーダンが2011年から奈落の底に向かって突き進んでいることに驚いた人がいたなどと想像することは難しい。その年、経済的な損害をもたらす形で国が分割されたことで、同国は石油収入の4分の3を南スーダンに持っていかれた。そのことは最終的に、イスラム主義独裁者オマル・アル・バシール大統領(当時)の2019年の失脚につながった。
2021年のクーデターにより民政移行が頓挫して以来、欧米のスーダンとの対話者は「判断ミス」により、バシール政権時代にテロの犠牲となった米国人への補償などの問題が解決されるまで数十億ドルの拠出を保留した。その間に同国の状況は悪化し、国軍とRSFの間の緊張はエスカレートした。
そういったあらゆることがあったにもかかわらず、国際社会はどういうわけか今回の紛争に不意を突かれた。欧米はロシアや中国からの挑戦に対抗することの方に関心があったようだ。
国際社会はどういうわけか今回の紛争に不意を突かれた。
ウサマ・ロムダニ
ワグネル部隊を物陰に潜ませながら、ロシアはスーダンにおいて二つの主要な目標を追求してきた。一つは、アフリカ第3位の金産出国とされるだけでなくクロム、マンガン、ウランも豊富なこの国の鉱物資源である。もう一つは紅海に面した海軍基地だ。
諸外国の冷笑とスーダンの支配者の近視眼が、この国の現在の苦境を準備した。それは近隣諸国にとっての苦境でもある。リビア、チャド、エリトリア、中央アフリカ共和国、南スーダン、エチオピアは長年、内紛と不安定な動乱から抜け出せずにいる。
これまでのところ、主な問題は避難民・難民だ。スーダンは南スーダン、エチオピア、エリトリアなどから110万人の難民や亡命希望者を受け入れている。そして今、数千人の難民がスーダンの戦闘から逃れるために国外に脱出し始めている。
国連人権理事会(UNHRC)によると、スーダンに住む80万人以上の南スーダン難民のうち4000人が国境を越えて、既に230万人の国内避難民がいる母国に帰った。チャドは既に以前の紛争で難民になったスーダン人40万人を受け入れていたが、ここ最近でスーダン難民を新たに2万人以上受け入れた。
死者数の増加が確実なだけでなく、この紛争は多くの方向に波及していく可能性がある。最も可能性が高いのは部族的・民族的対立の激化だ。そうなれば、スーダン政府と伝統的に反抗的な内陸地域の間で膠着状態が発生するかもしれない。その後には権力構造の分裂が拡大する恐れがある。
西ダルフール州で今も続く暴力(ある州政府関係者曰く「アラブ系集団とアフリカ系集団の間の部族的紛争」)は、今後起こることの前兆かもしれない。
紛争が長引けば、国軍トップのアブドゥルファッターフ・アル・ブルハン将軍とRSFトップのモハメド・ハムダン・ダガロ将軍の間の戦闘における地域の各主体の中立性が損なわれる可能性もある。
戦闘が激化する中で、エジプトやエチオピアがこのスーダン戦争においてどちら側かの味方をすることになるのではと懸念する観測筋もいる。この紛争は当面、両国の間の初期的な緊張を高め、大エチオピア・ルネッサンス・ダムをめぐるぎこちない交渉を妨げることになるだろう。
そしてリビアだ。同国のハリファ・ハフタル司令官は、アル・ブルハン将軍との長年の関係を誇るエジプトを疎外する危険を冒してRSFを支援する誘惑に駆られるかもしれない。
もう一つのシナリオは、チャドが国境を越えた民族的・部族的関係に基づいてスーダンの両陣営のいずれかと手を結ぶというものだ。
スーダンやサブサハラアフリカの様々な過激派組織や人身売買業者が機会をとらえようとする可能性がある。
ウサマ・ロムダニ
南スーダンをハルツームと結ぶ石油インフラがRSFによって攻撃され、同国とアル・ブルハン将軍から重要な収入源が奪われれば、同国も中立を捨てる可能性がある。
ただ、そのような最悪のシナリオに対する恐怖を和らげるかもしれないのは、地域の国々の大半が、安定に向けた自国のささやかな進展を台無しにしかねない紛争に巻き込まれることに乗り気でないという事実だ。
スーダンの混乱は欧州に向かう不法移民を助長する可能性もある。同国は長年、サブサハラアフリカから欧州への主要な不法移民ルートの一つであり続けている。権力が着実に崩壊していくことで、より多くの不法移民がスーダンから400kmにわたる穴だらけの国境を通してリビアに密入国できるようになるだろう。たとえ、気候の厳しさや北ダルフールからの旅の危険に多くの人が尻込みするに違いないとしてもだ。
さらに悪ければ、スーダンやサブサハラアフリカの様々な過激派組織や人身売買業者が機会をとらえて活動を北へと拡大しようとする可能性もある。
予想外のエスカレーションがなければ、スーダンの紛争は血みどろの膠着状態から抜け出せなくなるかもしれない。いかなる停戦合意も不可避的に脆弱なものになるだろう。「スーダンのためのクアッド」(米国・イギリス・UAE・サウジアラビア)、エジプト、アフリカ連合、政府間開発機構による最近の努力は、一時的な停戦を探るだけのものとなっている。スーダンの紛争当事者が疲弊や外部からの圧力によって紛争解決を探ることを決断すれば、それも変わるかもしれない。
それでもスーダンの各主体は、文民であろうと軍人であろうと、交渉のテーブルに着いて相違点を解決する意欲を示さなければならない。自分たちの国を奈落の底から引っ張り上げるためにだ。
それが実現すれば、互いを非常に良く知っている各当事者には、昔の立場を蒸し返したり、失敗に終わった実践の亡霊を蘇らせたり、崩壊した体制から得られた教訓を無視したりする理由はないはずだ。
欧米は2011年、明確な出口戦略もないままリビアを見捨てて逃げ出した。残されたリビア国民は何とか事態を収拾しようとした。欧米がスーダンに対して同じことを繰り返すのを回避できるかにも多くがかかってくるだろう。
スーダンの悪夢のシナリオは現実のものになるとは限らないのだ。
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