Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

「安全網はない」― 新世界冷戦下の中国・イスラエル・パレスチナ

パレスチナに関する中国の政治的言説から判断するに、中国は既に選択をしているように思われる。(AFP)
パレスチナに関する中国の政治的言説から判断するに、中国は既に選択をしているように思われる。(AFP)
Short Url:
07 Jun 2023 01:06:23 GMT9
07 Jun 2023 01:06:23 GMT9

中国の耿爽(ゲン・シュアン)国連次席大使が5月24日に行った占領下のパレスチナの情勢に関する発言は、国際法との一貫性という意味で申し分のないものだった。

国連、特に安全保障理事会をイスラエルの利益を擁護するための戦場とみなしている米国の姿勢と比較すると、中国の政治的言説は現地の現実に対する深い理解に基づいた合法的な立場を反映している。

耿大使は、安保理の「パレスチナ問題を含む中東情勢に関するブリーフィング」において中国の考えを述べた際、遠回しな言い方はしなかった。エルサレムにおけるイスラエルの「挑発行為」の停止、「イスラム教の礼拝者」の権利の尊重、「ヨルダンの管理権」の尊重に基づいた「包括的かつ公正な解決策」が、「何物にも代えがたく」必要であると力説したのだ。

同大使は、パレスチナにおける最近の暴力の高まりや5月9日のイスラエルによるガザ地区空爆に話題を広げ、イスラエルも米国も完全に不快に感じる立場を表明した。占領下のパレスチナにおける「(ユダヤ系イスラエル人の)入植地の違法な拡大」とイスラエルの「一方的な行動」を堂々と非難し、イスラエルに対し全ての違法活動を「直ちに停止する」よう求めたのだ。

続けて、「パレスチナ難民の窮状」などの比較的軽視されている問題について話した。

同大使はその中で、イスラエルによる占領の終結、拡張主義政策の停止、パレスチナの人々の権利の尊重に基づいた、パレスチナ問題の公正な解決に関する中国の政治的ビジョンを明確に述べた。

しかし、この立場は新しいものだろうか。

パレスチナとイスラエルに関する中国の政策が歴史的に国際法と一貫したものであることは確かだが、近年の中国は、特に先端マイクロチップ技術の分野で拡大するイスラエルと中国の貿易を妨げないような、より「バランスの取れた」立場に立とうと試みている。

しかし、中国とイスラエルの密接な関係を動機付けているのは単なる貿易以上のものである。

中国は、米国とパレスチナ紛争の継続との間に、あるいは公正な解決策が見出されないこととの間に、直接のつながりを見ている

ラムジー・バロード

中国の「一帯一路」構想は正式に始動して以来、同国の世界的展望の要として機能してきた。約150ヶ国を巻き込むこの大規模なプロジェクトは、陸上と海上のネットワークを通してアジアと欧州・アフリカをつなぐことを目指している。

中国にとってのイスラエルの戦略的重要性は、その地中海に面した位置によって倍増している。中国は長年、イスラエルの海港へのアクセス獲得に懸命になってきた。

そのような野心は、しばしば海軍の艦船をハイファ港に停泊させている米国にとって大きな懸念となっている。

米国は、中国にますます接近するイスラエルに対し繰り返し注意を与えてきた。米国のマイク・ポンペオ国務長官(当時)は2019年3月、イスラエルに対し、同国が中国との協力を考え直すまでは米国は「情報共有や安全保障設備の共同配置」を削減する可能性があると警告するまでに至った。

イスラエルはこの流れを、そして中国が世界におよぼす可能性のある力を十分に認識したうえで、米国との「特別な関係」を維持しつつ中国との緊密な関係から経済的・戦略的利益を得ることができるようなバランスを見出そうと努めた。

イスラエルの綱渡りに触発された中国は、中東で強まる自国の経済力を政治的・外交的投資にもつなげようとし始めた。例えば、中国は2017年、「4項目の提案」と呼ばれる和平プラン(最初に立案されたのは2013年)を始動させた。このプランは、偏った、そして最終的には失敗した米国の「和平プロセス」の代わりに、中国による仲介を申し出るものだった。

パレスチナ指導部は中国の関与を歓迎したが、イスラエルは参加を拒否したため、あらゆる舞台における自国の重要性の高まりを尊重し認めるよう要求している中国政府は面目が立たなかった。

当時は地政学的な綱渡りが可能であったとしても、ロシア・ウクライナ戦争がその全てに突如として終止符を打った。新たな地政学的現実は、イタリアの元外交官であるステファノ・ステファニーニ氏の言葉で表現できる。かつてイタリアのNATO大使を務めた同氏はラ・スタンパ紙に寄せた記事の中で、「国際的な綱渡りはもうできない」「安全網は張られていない」と述べたのだ。

皮肉にも、同氏がこの言葉を述べたのは、イタリアが欧米と中国のどちらかを選ぶ必要があるということに対してである。同じ論理はイスラエルと中国にも適用できる。

中国は、4月6日にサウジアラビアとイランの間の画期的な合意を取りまとめることに成功した直後、パレスチナとイスラエルの間の和平を仲介するという案を再び提案した。伝えられるところによると、中国の秦剛(チン・ガン)新外相は「和平交渉を再開するための手段」に関して双方に意見を聞いたという。そして今回も、パレスチナ側は受け入れたがイスラエル側は無視した。

中国のイスラエルと米国に対する不満の一部はこの件で説明できる。元駐ワシントン中国大使(2021~2023年)である秦外相は、米国が従来からイスラエルの方に偏っていることはよく知っているはずだ。この知識は、イスラエルによる直近のガザ地区空爆の際に中国外務省の華春瑩(ホア・チュンイン)報道官によって表明された。

同報道官は5月14日、「パレスチナのイスラム教徒の命も同じく大切であることを米国は認識するべきだ」と述べたのだ。

パレスチナ情勢に関する中国の言葉遣いに対して簡単な談話分析を行うことで明らかになるのは、中国が米国と紛争の継続との間に、あるいは公正な解決策が見出されないこととの間に、直接のつながりを見ているということだ。

この主張は、耿大使の最近の安保理での発言からも窺える。同大使は米国の地域外交への直接の言及として「断片的な危機管理」を批判し、「包括的かつ公正な解決策」に基づいた中国からの代替案を提示したのだ。

同じくらい重要なのは、中国の立場がアラブ諸国の立場と本質的に連携しているように見えることだ。アラブの政治的言説の中でパレスチナがますます主役になるにつれ、中国の外交政策アジェンダの中でパレスチナ問題がますます強調されている。

先日ジェッダで開催されたアラブ連盟首脳会議において、アラブ諸国はパレスチナ問題をアラブの中心的な大義として優先することで合意した。地域において大きな経済的利害を持ち、高めている中国などの同盟国は、すかさず注目した。

これら全てが、中国がイスラエルとの関係を断つつもりであることを示唆するとは限らないが、中国がパレスチナに関する数十年来の原則的な立場に今でもコミットしていることを示しているのは確かだ。

中国とイスラエルの関係は間もなく、米国からの圧力と最後通告というリトマス試験に直面するだろう。一方でイスラエルにとっての米国の比類ない重要性を、他方で中国にとってのアラブ・イスラム世界の重要性を考慮すると、今後のことは容易に予想できる。

パレスチナに関する中国の政治的言説が国際法や人道法の範囲内にあることから判断するに、中国は既に選択をしているように思われる。

  • ラムジー・バロード氏は20年以上にわたって中東について執筆している。国際的に活躍するコラムニスト、メディアコンサルタント、数冊の本の著者であり、PalestineChronicle.comの創設者。ツイッター: @RamzyBaroud
特に人気
オススメ

return to top

<