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法の支配の勝利か、正義の武器化か

トランプ氏、ジョンソン氏、スタージョン氏、その他の政治家に対する法的措置は、正義に、そして正義だけに奉仕するものでなければならず、国民はその正義がなされること見届けなければならない。  バリア・アラマディン
トランプ氏、ジョンソン氏、スタージョン氏、その他の政治家に対する法的措置は、正義に、そして正義だけに奉仕するものでなければならず、国民はその正義がなされること見届けなければならない。 バリア・アラマディン
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12 Jun 2023 11:06:14 GMT9
12 Jun 2023 11:06:14 GMT9

法的魚雷の一群がドナルド・トランプ前大統領の方に向かっていることは数年前から明白だった。どの魚雷が標的に命中するのか、そしてどれほどの損害を与えるのかだけが問題だったのだ。トランプ氏と彼の分身であるイギリスのボリス・ジョンソン元首相は、先週の同じ日にキャリアを終わらせかねない告発にそれぞれ直面したが、西側世界における正義と法の支配にとってこれは何を意味するのだろうか。

トランプ氏が直面する法的問題は途方もなく多い。連邦刑事訴訟の起訴状は、最高機密文書の保持に関連した40件近くの罪状を含んでいる。同氏がその文書について自慢げに語る様子をとらえた記録の中には、自身が所有するゴルフクラブで客に対し米国の対イラン「攻撃計画」を意気軒昂と回覧する様子を録音した生々しい記録がある。他の文書は、米国の核開発計画、国家の戦略的脆弱性、攻撃を受けた場合の軍事的報復計画などに関連したものだ。懲役刑は合計420年に及ぶ可能性がある。

これらは最終的には、同氏が直面する容疑の中で最も不利なものとはならないかもしれない。2020年の大統領選の結果を取り消すよう当局に圧力をかけようとした証拠も出回っているのだ。同氏の不動産関連企業も今年、脱税で罰金を科されている。それからポルノ女優に口止め料を支払ったとされる問題もある。

トランプ氏は今回の起訴後に怒りの演説を行い、自分が陰謀の犠牲者であるとがなり立てた。「彼らは不正を働いている。彼らは不正であり腐敗している。この犯罪者たちが報われることはない。彼らは倒されなければならない。あなた方が倒さなければならない。なぜなら、彼らが結局のところ狙っているのは私ではなくあなた方だからだ。私はその邪魔になっているだけだ」。ケビン・マッカーシー下院議長もほとんど同じくらい大げさに、「これはこの国を混乱させるものだ(…)我々はそれを支持しない」と断言し、共和党が依然としてトランプ氏の支配下にあること、そしてこれらの裁判が進むにつれ焦土と化す可能性が高いことを示した。

一方、イギリスのボリス・ジョンソン元首相がこれほど早く議員を辞職すると予想していた人はほとんどいなかった。国民が新型コロナのロックダウンのもとで苦しむ中で頻繁に行われたパーティーや社交行事における自身の役割についてジョンソン氏が議会で虚偽答弁をしたという下院特権委員会の調査結果を受けての辞職だ。同氏は委員会の調査結果が公表される前に辞職したが、少なくとも10日間議員資格を停止するという事前通告を受け取っていた。そうなれば同氏は自身の選挙区での補欠選挙でほぼ間違いなく敗北することになる。だから押される前に飛び降りたのだ。嘘つき常習犯としての実績のせいで、同氏は保守党議員の大半を含む議会からの信頼を既に失っていた。同氏は辛辣でほとんどトランプ的な辞職声明を出し、調査委員会の議員らが「魔女狩り」を行っていると非難した。

トランプ氏とジョンソン氏の運命は分かちがたく結合しており、欧米の政治を汚染している個人崇拝的ポピュリズムを体現している。ジョンソン氏はブレグジットを権力獲得の手段として利用し、その過程でイギリスのEU離脱の実現可能性や「メリット」について最も重大な嘘をいくつかついた。同氏および短命に終わった後任者は政権を追われ、イギリス経済は最も重要な市場の多くから切り離された粉々の残骸と化した。トランプ氏と同様に、ジョンソン氏の政府は汚職と縁故主義に汚染され、取り巻きには上級職や新型コロナ関連の儲かる契約が与えられていた。

トランプ氏、ジョンソン氏、スタージョン氏、その他の政治家に対する法的措置は、正義に、そして正義だけに奉仕するものでなければならず、国民はその正義がなされること見届けなければならない。

バリア・アラマディン

保守党の長老政治家であるヘーゼルタイン卿は、ジョンソン氏の「基本的な問題」は「聴衆に信じたいことを何でも信じさせるように言葉を組み立てていることだ。目に見える真実や誠実さにつなぎとめるものがないのだ」と述べた。同氏の伝記作家は、その「内面の空虚さ(…)倫理基準の完全な欠如」を非難した。

世論調査では労働党が2桁リードしており、保守党は来年に控えた議会選挙で大敗を喫することになりそうだ。保守党は既に内戦状態にあり、台頭する極右の狂信的非主流派は既に、敗北後の党を全面的な文化戦争に向かう自爆路線に引きずり込もうとあからさまに狙っている。イギリス政治のスペクトルの左側ではスコットランドのニコラ・スタージョン前首相が、スコットランド国民党の財政不正疑惑に関する警察捜査の一環として逮捕されたばかりだ。

近年、多くの欧米政府が悪臭を放つ腐敗と免責の空気で覆われている。それに対する断固とした対処が行われ、指導者が最高水準の行動を求められるのであれば大歓迎である。しかしそれは、米国の派閥政治の毒釜の中で武器化された重大な法的措置の報復的かつエスカレートした悪用を煽る危険性もある。共和党は既に大統領の息子であるハンター・バイデン氏を議会による一連の調査で追求している。その汚い行為の一環として、ハンター氏のラップトップパソコンから9000枚の酷い画像が公開された(その内容を詳しく説明することは私にはできない)。

どの国でもいいが、司法制度が政敵に対する強硬手段として政治化されることを防ぐ者は誰かいるだろうか。ベンヤミン・ネタニヤフ首相がイスラエルの司法を骨抜きにしようと努めている現状は、腐敗した多数派が断固として「民主主義は民主的過ぎる」と判断した場合の安全装置がいかに少ないかを示している。

虚偽と過激化の右翼エコーチェンバーにおいて、FOXニュースは加害者と被害者の両方になった。いつもの嘘とプロパガンダを抑制しようとする控えめな試みは、権利を奪われた視聴者から即座に拒否された。一方でFOXは、2020年の大統領選の投票集計機に関して意図的に嘘をついたとして8億ドル近い和解金を支払った。

この有能でクリーンな指導者の問題は極めて重要である。我々は、ウクライナや台湾などの多くの緊張要因をめぐって第三次世界大戦が起きるまであと数歩のところに来ているのだから。人々を鼓舞するような先見の明のある指導者が今以上に必要とされたことはなかったが、そのような資質が国際舞台においてこれほど欠如していたこともなかった。

トランプ氏、ジョンソン氏、スタージョン氏、その他の政治家に対する法的措置は、正義に、そして正義だけに奉仕するものでなければならず、国民はその正義がなされること見届けなければならない。ルールに基づいた制度においては、指導者は必然的に真実と正義に対し義務を感じることになる。型破りな政治家たちが自分たちの卑俗な目的のために法律を武器化することは、誰の利益にもならない。

  • バリア・アラマディン氏は受賞歴のあるジャーナリストで、中東およびイギリスのニュースキャスターである。『メディア・サービス・シンジケート』の編集者であり、多くの国家元首のインタビューを行ってきた。
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