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イスラエルのジェニン襲撃 パレスチナ自治政府の不安な今後

2023年7月4日、占領下のヨルダン川西岸のジェニン難民キャンプを襲撃する軍用車両の車列(AP)
2023年7月4日、占領下のヨルダン川西岸のジェニン難民キャンプを襲撃する軍用車両の車列(AP)
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06 Jul 2023 04:07:54 GMT9
06 Jul 2023 04:07:54 GMT9

日曜日の深夜から翌日にかけて、イスラエル軍の無人偵察機がパレスチナ難民キャンプのジェニンを包囲し、攻撃した。1000人以上の重装備の兵士が1万人以上の市民が密集して暮らす家屋に入り込み、装甲ブルドーザーが狭い通りを壊しながら建物を破壊していった。凶悪な戦争犯罪が行われる様子は、世界に向けてテレビで生中継されていた。

3000人以上の住民が避難を余儀なくされた。少なくとも10人のパレスチナ人が死亡し、50人以上が負傷した。米国は、イスラエルには自国を守る権利があるとしたが、イスラエル兵が実際には占領国としてジェニンとヨルダン川西岸にいたことについては一切触れなかった。火曜日の朝には、破壊の規模を伝える悲惨な画像や映像がSNSに投稿されていた。ジェニンは現代のゲルニカと化していた。

イスラエル軍の暴挙が続き、有識者はこの大規模な作戦がどのような影響を及ぼすか、どうにか説明しようとしている。ここでひとつの疑問が浮かび上がった。この事態に対し、パレスチナのマフムード・アッバース大統領はどのように対応するだろうか?

2週間前、4人の入植者が殺害されたことの報復として、入植者の暴徒がパレスチナの小さな町トゥルムス・アヤで暴動を行った。パレスチナ人1人が殺され、何十軒もの家が放火され、車や家財道具が破壊された。イスラエル兵は傍観するばかりで、暴徒を止めなかった。ベンヤミン・ネタニヤフ政権の一員であり、有罪判決を受けた人種差別主義者で極右で超国家主義の狂信者のイタマル・ベングビール大臣によって扇動された、武器を持った入植者がパレスチナ人を攻撃したのは、今回が初めてではなかった。

2005年以来パレスチナ人の長であるアッバース大統領は、何の反応も見せていない。今年に入ってから、100人以上のパレスチナ人が殺害され、そのほとんどが若い男性であった。イスラエルの極右政党が入植地を拡大し続ける一方、パレスチナ自治政府は国民を守るための行動を何もしない。そんな中、パレスチナの若者たちは武装抵抗に転じた。イスラエル人入植者に対する、組織の一員ではない個人による抵抗が何十回も行われた。ジェニン難民キャンプとナブルスの街は抵抗の本拠となり、パレスチナ人の大多数はそこにいる。ファタハに代表される保守派は支持を失いつつある。ヨルダン川西岸のパレスチナ人はパレスチナ自治政府への信頼を失い、代替案を求めていた。

謎めいた沈黙が続いた後、アッバース大統領は月曜夜、すべての派閥に集まるよう呼びかけ、そして、パレスチナ自治政府はイスラエルとの安全保障上の協調を含むすべての関係を断つと発表した。しかしそのような宣言がなされたのは初めてではなく、アッバース大統領がその脅しを実行に移すと信じている者はほとんどいない。

しかしこのことは、パレスチナ自治政府にとっては分水嶺だ。そもそも、オスロ合意の産物であるパレスチナ自治政府は、その役割が独立したパレスチナ国家に引き継がれるまでの5年未満の間しか存続しないはずだった。今、パレスチナ自治政府は30年続いている。87歳のアッバース大統領もパレスチナ自治政府も老いの痛みを感じている。

アッバース大統領がいなくなった後、パレスチナ自治政府はどのような運命をたどるのか。既得権益を持つ多くの政党にとって、アッバース大統領の後継者は重要な問題となっている。最近イスラエルは国内、そしてアメリカとの間でこの問題について盛んに議論している。ヨルダン、エジプト、カタール、EUなども、それぞれの理由から今後のことを気にしている。

パレスチナ自治政府は国民を守るための行動を何もしない。そんな中、パレスチナの若者たちは武装抵抗に転じた。

オサマ・アルシャリフ

アッバースは5年の任期で選出されたが、決してカリスマ的な指導者ではなかった。2005年に政権に就いて以来、後継者を指名することも選挙を実施することもなかった。前任者のヤセル・アラファト元大統領が塹壕で戦っている間、アッバース氏は官僚をしていた。革命家であったアラファト大統領の壮大なオーラは、野心もなく、粘り強さもなく、対立的でもない、より控えめなアラファト大統領と比べると、あまりにも偉大に見える。年配の世代にとっては特にそうだ。しかしどんな指導者にもつきまとう宿命は、若い世代との接触を失うことだ。

仮にアッバース大統領がイスラエルとの協調をやめるという脅しを実行に移したとしても、パレスチナ自治政府を救う効果はほとんどないだろう。アッバース大統領にとって不利に働く現実が少なくとも2つある。ひとつめは、ヨルダン川西岸に残された領土を植民地化する計画を加速させながら、武装したパレスチナの抵抗勢力を鎮圧しようと躍起になっている過激派イスラエル政府。ふたつめは、武装して戦うやり方をますます支持するようになっている怒れる市民だ。

前者はすぐには変わらない。しかし、後者は非常に危険だ。パレスチナ自治政府のライバルであるハマスがヨルダン川西岸に根を張りつつある。若いパレスチナ人が大挙してその隊列に加わることはないにせよ、極めて小規模な組織や、草の根レベルの組織を作り、占領者に戦争を仕掛けることを選択しつつある。

腐敗し、イスラエルに依存していると思われているパレスチナ自治政府は、アッバース政権後は存続しそうにない。だからこそ、後継者問題は非常に重要であると同時に、まったく重要ではないのだ。イスラエルとアメリカ、そしてヨルダンとエジプトは、スムーズな政権移行を望んでいる。しかし、自治政府を維持するのに必要な資格を持つ候補者はいないのが現実だ。

一応候補者としては、パレスチナ解放機構執行委員会事務局長のフセイン・アルシェイク氏、パレスチナ自治政府諜報部長のマジェド・ファラジ氏、そしてナセル・アルクドワ氏の名前が挙げられている。アルクドワ氏は、元外相でアラファト大統領の甥であるマルワン・バルグーティ氏と提携するファタハ分派のリーダーであり、2021年の立法院選挙でアッバース大統領の対抗馬だった。他にも、ジブリル・ラジョーブ氏、モハメド・ダーラン氏、サラム・ファイヤド氏、そしてバルグーティ氏自身が候補者となる可能性がある。

どの候補者も問題を抱えており、すべての関係者が納得する候補を決めることは不可能だ。

これらの人物を検討するイスラエルやアメリカなどは、パレスチナ人の新しい世代が生まれつつあり、彼ら自身も意思と未来像を持っているという事実を無視しがちである。これまでにジェニン作戦で死亡が確認されたのは、ほとんどが20歳以下のパレスチナ人である。彼らは、パレスチナ自治政府やその指導者、あるいはアッバース大統領の後継者となる可能性のある他の候補者とは何の関係もないパレスチナ人の世代を代表している。

イスラエルにも大きな問題がある。ネタニヤフ首相はいわゆる二国家解決を望んでいないが、パレスチナ人の国家樹立への願望を打ち砕く一方で、最近、パレスチナ自治政府を支援する必要性について語った。ほとんどのヨルダン川西岸住民にとって、パレスチナ自治政府は時代遅れの組織だ。イスラエルは、それを建前として使いパレスチナ人の土地を着実に併合していることを隠せる。しかし、イスラエルの植民地化計画が明らかになった今、パレスチナ人を押さえつけておくというネタニヤフ首相にとっての実用性をパレスチナ自治政府が持っているかどうかは疑わしい。

約30年間、パレスチナ自治政府はイスラエルの占領を正当化する手助けをしてきた。そしてイスラエルは、アメリカとみっともなく結託して、テロリストが不法占拠している土地でテロリストと戦っているのだと世界にアピールしてきた。アッバース大統領が舞台から去ることで、すべてが変わることを願っている。

  • オサマ・アルシャリフはアンマンを拠点とするジャーナリスト、政治評論家。Twitter: @plato010
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