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ヒズボラの存在意義を葬るための、棺桶の最後の釘

レバノンのミシェル・アウン大統領が日曜日に退任する際、自由愛国運動とヒズボラのメンバーが別れを告げる。 (AFP)
レバノンのミシェル・アウン大統領が日曜日に退任する際、自由愛国運動とヒズボラのメンバーが別れを告げる。 (AFP)
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03 Nov 2022 03:11:47 GMT9
03 Nov 2022 03:11:47 GMT9

レバノンとイスラエルの間の海上国境を定める先週の合意は、11年間紆余曲折した外交がやっと結んだ成果であったが、両国がこれほど消極的に調印した合意はこれまでになかった。ホワイトハウスの芝生での調印式?いや、それどころではない。厳密的には互いに戦争状態にある公然の敵同士である2人の署名者は、同じ国にいることさえ耐えられなかった。

アントニー・ブリンケン米国務長官は、この合意は「壊滅的な経済危機に直面しているレバノンの人々にとって、切実に必要である外国投資」を生み出すだろうと述べた。しかしこれまでに、レバノンのカナ沖合油田のみでは、ガスは全く発見されていない。たとえ炭化水素が適量発見されたとしても、抽出には何年もかかるだろう―そして、イラク、ベネズエラ、リビアを見れば、そのような富は祝福であると同時に、呪いにもなり得ることがわかる。また、石油とガスに関する法律は、腐敗した政治家のみが莫大な富を築き、収入がレバノン市民に届かないような仕組みになっているという懸念もある。

テヘランのプロパガンダの最高責任者であるハッサン・ナスラッラー氏は、国境協定を歓迎し、「抵抗運動の強さ」について語り、ヒズボラと、イランから資金提供された民兵の寄せ集めの同盟が、どういうわけかイスラエルを恐れさせ、妥協させたという空想に酔いしれた。

このばかげた話にたとえ一片の真実が含まれていたとしても、ナスラッラー氏は今後もこのように外交を行うべきだと主張しているのだろうか?おそらく、世界銀行を爆破すると脅迫することで、これまでレバノンが非常に不都合にも逃してきた融資の申し出を受けられるというのだろう。または、ヨーロッパの商船舶を攻撃することで、国が困った時により多くの国際支援を集めることができるというのだろう。

ナスラッラー氏は暴力の言語しか理解できない。短期的な需要を達成する手段として、隣国の石油インフラへのドローン攻撃をしかけると脅迫するのは簡単だが、平均的な5歳の子供でさえ、そのような戦術がパーリア国家への最速の道であることを知っている。

私たちはヒズボラから、矛盾だらけのダブルスピークを学んできた。ナスラッラー氏は彼の支持者に、この取引を「愛国心」をもって受け入れるよう勧めたが、強硬派はこの「裏切り」に対して怒りと混乱で反応した:我々はイスラエルと戦争しており、イスラエルを破壊しようとしているのではないか?パレスチナの海岸全体がアラブの領土であると主張すべきなのではないか?「来年はエルサレムにいる」との言葉はどうなったのか?

実際、イスラエルの高官は次のように指摘している:「この取引はヒズボラを弱体化し、レバノンに対するイランの支配力を弱める。ヒズボラは取引が成立しないことを望んでいたが、交渉のテーブルに着き、レバノン国民が取引が実現可能だと気付いた以上、ヒズボラはそれを阻止することを正当化できなかった。」

海上国境協定により、ヒズボラとその「抵抗勢力」は急速に存在理由を失いつつある。

バリア・アラムディン

一部の分析家によると、復活したイランの核に関する合意が消滅する可能性があるため、イスラエルは、海上国境協定により、国境北側で戦いが起こる可能性が減るであろうと考えている。しかし、ヒズボラは依然としてイランの遊び道具であり、テヘランが対立の道を選ぶか、イスラエルがイランの核施設に先制攻撃を行った場合、レバノンが流血の場となる結果から逃れることはできない。ナスラッラー氏は、そのような紛争が起こった場合、米国とその同盟国は黙って傍観するわけがないという現実を無視している。英国のある元大臣は、「もちろん」英国や他の国々はイスラエルを支援するために介入するだろうと私に言った。

この海上国境協定は、ミシェル・アウン氏がレバノン大統領官邸から離れる時に起こった。彼の支持者の多くは、この取引を彼の6年間の在任期間の「最高の成果」として歓迎した。現実には、彼の大統領としての仕事は容赦ない惨事であり、彼の功績の頂点はレバノンの経済的および政治的崩壊である。少しの支持者が彼の宮殿の外でキャンプし、離任する大統領に別れを告げるためにバスで駆けつけたが、それはアウン氏がたいして支持されていなかったことを思い出させるだけの安っぽい方策であった。

彼の義理の息子ゲブラーン・バシール氏は今でも自分が大統領になれると空想しているが、ヒズボラでさえ、もはや熱心に彼の立候補を支持していない。彼が期待できることといえば、彼自身と彼のキリスト教派閥の魂を「ヒズブ・アル・シャイタン」に売ったことで、次の選挙において全滅することであろう。もし発明家が憎しみを電気に変換する方法を発見したら、レバノンの人々のバシール氏に対する圧倒的な嫌悪感は、国の電力不足を一気に解消できるであろう。

実際、海上国境協定により、ヒズボラとその「抵抗」は急速に存在理由を失いつつある。ナスラッラー氏が海を征服した今、ヒズボラが武器を保持することを正当化する残りの隠れ蓑は、シリアの領土であると国際的に認められているシェバー・ファームズ国境地域の問題である―あたかも正当な主権を持ち、権利を主張できるシリア政府が存在するかのように。

一方、レバノンは繁栄への長期的な道筋を必要としている。地中海の炭化水素の蓄えを開発するという見通しは1つのステップであるが、さらに多くの政策が必要である。 2つ目の革新的な政策は、レバノンの政治の場から武装組織を完全に排除するという国連の義務を遂行することであり、これにより、国際的な支援者が資金調達を再開できるようになり、数十億ドルの資金と投資が回復する。そして第3の優先事項は、レバノンの強盗の精鋭や軍閥がガスによる収入の財源を枯渇させる前に、はびこる汚職に対処する抜本的な政策をとることだ。

レバノンには2つの未来が考えられる。1つは紛争と崩壊、もう1つは繁栄と再生である。ナスラッラー氏は「愛国心」を求めている―ただしヒズボラが、レバノン市民が自分たちの未来を自分たちでつかめることを可能にするための十分な愛国心を持っていればの話だが。

  • バリア・アラムディン氏は、中東と英国で受賞歴のあるジャーナリスト兼ニュースキャスターである。彼女はMedia Services Syndicateの編集者であり、多数の国家元首にインタビューしてきた。
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