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我々は世界を裏切っており、最も貧しい人々が最も高い代償を払っている

マミラウア「持続可能な開発保護区」に隣接するポルト・ピルムのコミュニティの空撮写真。ブラジル。(AFP)
マミラウア「持続可能な開発保護区」に隣接するポルト・ピルムのコミュニティの空撮写真。ブラジル。(AFP)
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11 Dec 2022 10:12:00 GMT9
11 Dec 2022 10:12:00 GMT9

年末がまたやって来た。お馴染みのパターンとして、世界が未来を予言し始める時期だ。同時に、過去12ヶ月間に我々がどこまで進んだか、あるいは進んでいないかについて思いを巡らした末に、進展がほとんどないことを理解するだけに終わる。後戻りしていたという残念な状況の場合、抗議と憤慨を込めて騒ぎを一つ二つ起こす。

しかし、国連のアントニオ・グテーレス事務総長が言うところの「極端な年」となった今年は、変わりそうにない陰鬱な現実に対する諦めの感覚がますます高まっている。

2020年代の終わりまでに世界の持続可能な開発目標を達成するという野心を掲げているにもかかわらず、言わば人類共同体である我々世界は失敗しつつある。しかも酷く。

確かに、我々は確実に大きな進展を遂げてきたし、全てが悲観的なわけではない。しかし、最大限の警告や忠告をもってしても、切実に必要とされている切迫感は喚起されていない。危機が高まり、集中し、強まって、世界で最も弱い立場にいる人々に被害がおよぶ中で、我々はあたかも事実上立ち止まっているかのようだ。

しかし、過去の緊急事態が未来にまでおよび続けている中、地球上で最も脆弱で危機に陥りやすい地域において何らかの生きる糧をかき集めることを余儀なくされている人々だけが累積的なリスクや複合的な脅威に晒されているわけではない。

我々はまだ、世界のいくつかの部分が、あるいはたった1ヶ所でもリスクに晒されている限り、我々全員がリスクに晒されていることになるのだという事実を受け入れるには程遠いところにいる。最も深刻な人道危機に対処するうえでこのことを肝に銘じなければならない。

今のところ、これは依然として漠然とした概念あるいは遠い将来に起こり得る事態という認識のままであり、認めようとする人は少なく、これに基づいて行動しようとする人はさらに少ない。集団的・世界的行動のための場を各国の近視眼的な私利私欲が抑圧し続けている中であっても。

しかし危機は待ってくれない。来年の世界の人道的ニーズは今年や昨年よりも加速すると予測されているのだ。この忍び寄る現実は、リスクが高まって新興国・発展途上国に不釣り合いに影響を与えてきた悲惨な20年の上に積み重なっている。

例えば、食料危機、紛争、異常気象災害、経済的機会の減少の結果、世界中で1億人以上の人々が依然として避難生活を送っている。

こういった傾向は悪化の一途を辿るだろう。悪化を助長しているのは、気候ショック、世界的景気後退、そして今も続くウクライナ戦争が広い範囲におよぼしている影響だ。その影響には食料安全保障上の困難とそれが世界に与える地政学的影響が含まれる。

食料安全保障上の困難はアラブ世界の各国政府にとって特に悩ましいものだ。近年この地域では食料不安が深刻化しており、ただでさえ苦境にある人々にさらなる負担を負わせているその他の国内問題と絡み合っているのだ。

世界全体では50ヶ国以上の10億人近い人々が食料不安の状態にあり、約4500万人が援助を得られず飢餓の危機に直面している。その一方で、我々は収穫・販売・消費の間に20億トン以上の食料を廃棄している。

この廃棄食料を処理する過程で排出される温室効果ガスは世界の排出量の10%近くを占めており、その処理には世界で年間約9350億ドルの費用がかかっている。そう、廃棄食料に1兆ドル近くが使われているのだ。これは中東・北アフリカ地域全体のGDPの3分の1近くに相当する。

しかし、このような大量の食料廃棄に歯止めをかけるための決定的な集団的行動あるいは持続的な協力の呼びかけは未だなされていない。そういった行動が取られれば、世界の飢餓の終結、栄養の改善、温室効果ガス排出量の削減、地下水面の回復、その他の持続可能な開発目標の促進のための努力に対して劇的な効果があるはずなのだが。

食料廃棄に対する抜本的な介入を始めないにしても、2030年までに世界の飢餓をなくすためには全世界で3300億ドルが必要だと推定されている。この金額は、現在の食料廃棄に由来する世界の年間GDP損失を大きく下回る。したがって、世界の飢餓をなくすことを優先すべきなのは実質考えるまでもないことだ。極度の貧困の根絶にも大きく貢献するのだからなおさらだ。

食料危機、紛争、異常気象災害、経済的機会の減少の結果、世界中で1億人以上の人々が依然として避難生活を送っている。

それどころか、我々が飢餓問題に対して断固として行動できていないという事実は、2030年までに極度の貧困をなくすという世界的目標はもはや実現可能でないことを意味する。33時間ごとに世界中で約100万人が貧困に陥っている。紛争、情勢不安、雇用機会の不足、不平等の蔓延などの問題が続く限り、この数字は増え続けるだろう。

現在の傾向からすると、2030年までに5億人以上が1日2ドル以下での生活を余儀なくされるとみられる。特に、利用可能な雇用機会がパンデミック前の水準を下回り、迫り来る世界的景気後退によって多くの国で2030年までの成長率が低迷すれば、その可能性は高まる。

一方、極度の貧困に対する国際的行動には不十分な点が多い。債務を抱えた新興国・発展途上国が、明らかに不当な境遇にある人々の間で発生する騒乱・混乱に屈服する中で、現在は1750億ドルと推定されている貧困根絶に必要な金額は増え続けるという事実にもかかわらずである。

飢餓と貧困の問題以外でも、世界の公衆衛生の傾向にはあまり改善が見られない。新型コロナ危機は多くの場所で勢いを増しており、今やM痘(旧称サル痘)、エボラ出血熱、コレラの散発的な流行がそれに加わっている。

そのうえ、近年になって感染症の検査・治療・予防介入促進が減少している。世界の公衆衛生における重大な脆弱性を露呈させた破滅的なパンデミックを経た今、より制約が少なく、より多くのリソースが注がれた、より包摂的で強靭で人間中心的な医療サービスを確実に提供するための協調的な努力がなされていると思われるかもしれない。

しかし、世界の公衆衛生の取り組みは依然として断片的であり、富裕国が自国の医療部門の再構築・変革に取り組んでいる一方で富裕でない国々には効き目のない緩和策で我慢することを強いている欠陥や不備によって行き詰まっている。

この種の格差は、世界の教育の低下傾向、あるいは世界が真のジェンダー平等を実現するには100年以上かかると現在予測されているという事実にとって良い前兆ではない。

これらの危機の有害な影響を解決、あるいは少なくとも軽減できる希望がないわけではない。世界各地にいくつかの希望の兆候や新たな楽観の兆しはあり、どうすればこの困難で分極化した時代を生き抜くことができるか、また破滅的な失敗が約80年続く比較的世界が平和な時代の唯一のレガシーとなることを防ぐにはどうすればいいかについての青写真を提供している。

これらの希望のうちの一つが、人道的危機における最も極端な帰結を軽減しようとする国連による極めて効果的な先行介入であることに変わりはない。そのような先制行動には、紛争や気候変動の悪影響が深刻化する中でドルの価値が7倍に上昇したスーダンのような脆弱な場所における食料安全保障を改善するための危機に先行した投資が含まれている。

人道的資金援助が、(何もしなかった場合の最も深刻な帰結のみを対象とする、金がかかるうえにタイミングが悪い介入につながることが多い)問題が起きてから対応するモデルから、根本原因を標的としたより金のかからない先制戦略に移行するなら、世界はずっと多くのことを成し遂げられるだろう。

現時点では、G20加盟国のいくつかは寄付やその他の形の支援を減らして国内の課題を優先している。しかし現状のままでは、2023年に緊急の課題に直面する2億人以上の人々を助けるために過去最高の520億ドルが調達される必要があると推定されている。この人数は今年より6500万人増加しており、以降さらに増える可能性が高い。

国連は支援金を要請しているが、目標額に対しまだ53%も不足している。これは、2020年代の終わりまでに世界で最も深刻な苦難のいくつかを根絶し持続可能な開発目標の大半を実現することに寄与するような、より大胆なイニシアティブのための十分な資金調達を国際社会が行うことができるという自信を与えるような事実ではない。

 

  • ハフェド・アル・グウェル氏は、ワシントンD.C.のジョンズホプキンス大学高等国際関係大学院外交政策研究所のシニアフェロー兼イブン・ハルドゥーン戦略イニシアティブ・エグゼクティブディレクターであり、世界銀行グループ執行理事会会長の元顧問である。ツイッター: @HafedAlGhwell

 

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