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武力ではイランの民衆蜂起を終わらせることはできない

イランのテヘランでマフサ・アミニさんの死に対する抗議活動中、デモ参加者が火を燃やしているところ。(ロイター/ファイル)
イランのテヘランでマフサ・アミニさんの死に対する抗議活動中、デモ参加者が火を燃やしているところ。(ロイター/ファイル)
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02 Dec 2022 02:12:22 GMT9
02 Dec 2022 02:12:22 GMT9

1979年に民衆蜂起でイラン王朝の独裁支配を打倒してから今日まで、43年間、イラン国民が知る最高指導者は二人しかいない。

アヤトラ・ホメイニ師とアリー・ハメネイ師である。

イランの複雑な政治制度の下では、最高指導者が実質的な権力を握り、彼の意志が大統領と議会の決定より優先される。

これが、いわゆる「法学者の後見(Vilayate-e Faqih)」というものである。

イランは共和国だが、実際のところ、聖職者が自分たちの生き方を国民に強制する神権国家である。

つまり、風紀警察に拘束された22歳のマフサ・アミニさんの9月16日の死がきっかけではあるが、実際には、この強権的な国家体制が、イランで続く反体制の抗議活動を加速させているのである。

イラン国民は、83歳のハメネイ師とその取り巻きによる独裁的で自己中心的な支配に辟易しているのだ。

アミニさんの悲劇的な死に対する反発として、イランの若い女性が主体となって始まった抗議活動は、現在、全国的な民衆蜂起となって勢いが増し、収まる兆しはない。

現政権の反応は、平和的に抗議するデモ参加者に暴力を振るうという、予想されたものである。

イランの人権活動家によると、抗議デモが発生してから、60人の子供を含む400人以上のデモ参加者が殺害されたという。

数千人が逮捕され、その中の数人が裁判にかけられ死刑を言い渡された。

民衆蜂起は、南東部のスィスターン・バルーチェスターン州や、北西部のイラン系クルド人居住地などの少数民族の地域に広がった。

これらの地域では少数民族が長い間疎外され、差別に苦しんできた。

しかし、抗議活動は、首都テヘランを含む主要都市にも広がっている。

今回のデモ参加者は、「グリーンムーブメント」と呼ばれた2009~10年の選挙に対する抗議運動のように、改革を求めてはいない。

デモ参加者は政権交代を望んでおり、ハメネイ師とその独裁政権を公然と攻撃している。

ここ数年、定期的に抗議活動が発生しているが、これは主に、生活環境の悪化に抗議するためである。

このような抗議活動の鎮圧に武力を行使することは、これまでは効果があったが、今回はそうではない。

学生、教授、芸術家、トラック運転手、石油産業の労働者に至るまで、デモ参加者と一体となって、ストライキを行っている

抗議活動の鎮圧に失敗したイラン政権は、西側諸国とイスラエルが陰謀を企てているとして非難した。

ハメネイ師自身は、デモ参加者を「無知」で「傭兵の集まり」と呼んだ。

ハメネイ師も西側を非難し、敵は「インターネットや金銭、傭兵の動員による、心理的手段によって国民を国に敵対させようとしている」と述べた。

ハメネイ師は犠牲者について、デモ参加者を脅し、追い詰めるために送り込まれた、イスラム革命防衛隊の戦闘部隊であるバスィージ所属の犠牲者にのみ言及している。

これは民衆による草の根運動であり、西側がイラン政権に対して陰謀を企てているという説にはまったく関係ない。

イラン政権の真の問題は自国民、とりわけ8000万人超の人口の 60%が30歳未満という若年層にある。

他の若者と同じように、彼らは自由、仕事、そして人並みの生活、つまり政府が実現できていないものを求めているのである。

強硬派は、譲歩すれば、さらに多くを要求するデモ参加者を増やすだけだと考えている。

オサマ・アル・シャリフ

平和的な解決策を見つけるために、政権の重職にある数名が改革派との対話を開始するよう提案している。

その中には、ムハンマド・ハタミ前大統領も入っているという。

率先して動いているは、最高国家安全保障会議のアリ・シャムカーニ長官である。

しかし、ハメネイ師と取り巻きの強硬派がそのような対話を認める可能性は低い。

最高指導者という立場上、譲歩することはない。

強硬派は、譲歩すれば、さらに多くを要求するデモ参加者を増やすだけだと考えている。

しかし、ネット検閲やメディアの遮断があっても、イランの若者たちは首都の中心部に達した夜の抗議デモの映像をリークさせている。

政権が大量殺戮という手段に訴えない限り、武力で民衆蜂起を終わらせことができないのは明らかである。

数十年にわたる強権的支配により政権は増長し、いわゆる改革派の中でも穏健で忠実な人々まで孤立させ、追放してしまったのだ。

そして、最高指導者ハメネイ師の姪であるファリデ・モラドハニ氏 が逮捕後に投稿した動画の中で、イラン政府を「人殺し、子供を殺す政権」と呼び、反政府デモ活動への支持を表明した。

この国の若者が感じている不満と怒りがいかに大きいかが分かる。

また、政権が国民から遠く離れた存在になっているということも明らかにしている。

しかし、国を支配する聖職者の制度が崩壊寸前というわけではない。

最も可能性が高いのは、ハメネイ師が問題の存在を否定し続け、改革派との対話を勧める、シャムカーニ長官のような人物からの進言を無視し続けることである。

現時点で、政権の唯一の対応は、武力を強化し、それを行使することになるだろう。

  • オサマ・アル・シャリフ氏は、アンマンを拠点とするジャーナリスト兼政治評論家である。

Twitter:@plato010

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