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吸収合併で変貌する湾岸諸国のビジネス環境

適切な重要業績評価指標(KPI)を設定して、シナジー、目標、チームの統合、明確な長期的計画の策定を進めることが、湾岸地域における取引の成功を確かにする。(SPA)
適切な重要業績評価指標(KPI)を設定して、シナジー、目標、チームの統合、明確な長期的計画の策定を進めることが、湾岸地域における取引の成功を確かにする。(SPA)
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15 Jan 2024 01:01:59 GMT9
15 Jan 2024 01:01:59 GMT9
  • 地域が総合的再生可能エネルギープログラムの実現に力を入れるなか、M&Aが活発化している

リーム・ワリド

リヤド:昨今、湾岸協力理事会(GCC)地域のビジネスは、リソースをプールして操業の効率化と利益の最大化をはかる方向へと転換が進んでいる。

湾岸諸国における吸収合併のトレンドはさらに加速するだろうと、2023年3月にグローバル格付け会社のムーディーズは予測した。それから約1年が経過した今、同社の予測は的を射たものだったといえる。

M&Aとは、企業、事業、組織、操業部門の所有権が、ほかの企業、事業、組織に譲渡される、あるいは統合される企業間取引をさす。

今日の世界においてこうした取引の成功の鍵になるのは、シナジー、信頼、統合といった要素であると、ルミナ・キャピタル・アドバイザーズのパートナーであるアンドリュー・ニコル氏は言う。

「合併後の組織がいかにして以前の個々の組織よりも高い価値を生み出すのかについて、はっきりした計画をもっていなければ、シナジーを起こすことはできず、株式売買によって期待される結果がもたらされる見込みも小さくなる」と、ニコル氏はアラブニュースに語った。

彼はさらに、「信頼が重要なのは、結局のところ、取引は人と人の間のものであるからだ。株主であれ、経営陣であれ、社員であれ、取引プロセスにおいて開かれた透明性の高いコミュニケーションを維持し、当初の取引計画で提示された目標の達成を意識したものにすることが肝要だ」と述べた。

最後に、統合の要素について、ニコル氏はこう語った:「統合の意味することは、M&Aは法的合意文書に調印した時点で終わるものではないということだ」

彼はまた、適切な重要業績評価指標(KPI)を設定して、シナジー、目標、チームの統合、明確な長期的計画の策定を進めることが、取引の成功を確かにすると強調した。

2023年には、湾岸地域で誰が取引に参入し、誰が撤退するのかという面で、劇的な転換が起こったと、ニコル氏は言う。

「上半期は主として政府系ファンドが主導する大規模取引が活発だった。サウジアラビアでのSAVVY Gaming/PIF/Scopely、UAEでのBlackstone/ADIA/Cvent Holdingなどだ」と、ニコル氏は説明する。

「下半期に入ると、民間セクター主導の取引も増加し、未公開株取引も再び活発化した」

ニコル氏はさらに、「11月、サウジアラビアやUAEなどの湾岸諸国においてデジタル転換ソリューションを先導する企業であるSTSが、ゼインテック(ZainTECH)の傘下に入ることが発表された」と続けた。

ゼインテックはUAEに拠点を置くマネージドセキュリティーサービスの主要プロバイダーであり、サイバーセキュリティ上の脅威から企業を守り、迅速に検出し、効果的に対処することを企業目標とする。

ニコル氏によれば、このM&A取引は、2023年に湾岸地域で見られた同様の取引のなかでも際立っている。

「STSとゼインテックの取引は、われわれが助言したものですが、両社にとって高度に戦略的であるという点で際立っていました」と、彼は言う。

「買い手のゼインテックは、サービスの拡大と強化、一流タレントの獲得、操業地域の拡大を意図し、一方で売り手のSTSは、湾岸地域における先駆的デジタルソリューションプロバイダーと手を結ぶ好機を見出した」と、ニコル氏は説明した。

彼は2024年の湾岸地域におけるM&Aの動向についても自身の見解を示した。

「2023年、湾岸地域は地域規模の巨大プロジェクト、デジタル転換の推進、AIの導入により、イノベーションの輸出主体として地位を確立した。こうした傾向は2024年も続くでしょう」と、彼は述べた。ニコル氏によれば、こうした動きは湾岸地域がエネルギー転換からさらに踏み込んで、世界屈指の包括的かつ多様な再生可能エネルギー計画に着手し、グローバルリーダーを目指していることと呼応しているという。

「2024年、グローバル企業が湾岸地域でのプロジェクトの強化や参入を狙うなか、M&A取引はさらに活性化するだろう」と、ニコル氏は予測した。

「成長が予測される分野は、エネルギー転換、ヘルスケア、旅行・観光、ゲーム、エンジニアリング、プロジェクト管理、デジタル転換などです」

同じ話題について、世界的コンサルタント企業のアルバレス&マーシャルで中東地域マネージングディレクターを務めるアリ・アンワル氏は、最近の報告書のなかで次のように述べている。「2023年、M&A活動はマクロ経済環境への懸念と高金利という逆風に見舞われ、投資家は困難を経験した」

「こうした問題は完全に解消されたわけではないが、2024年にはM&A取引をめぐる状況がある程度改善される見通しだ」

2024年、グローバル企業が湾岸地域でのプロジェクトの強化や参入を狙うなか、M&A取引はさらに活性化するだろう

アンドリュー・ニコル、ルミナ・キャピタル・アドバイザーズ パートナー

2024年、M&A市場にとって重要な好材料のひとつは、利率の動向に関して不確実性が薄れていることだと、アンワル氏は指摘する。

同氏はさらに、市場のプレーヤーは過去数カ月と比べますます自信を深めており、夏の終わり以降に利率が下落に転じることを期待していると述べた。

「売り手側の活動が活発化しているため、2024年前半には取引のチャンスが顕在化するでしょう」と、彼はまとめた。

多国間取引の活発化

2023年には、成立した取引の大部分を多国間取引が占めたと、ニコル氏は明かす。

多国間取引とは、異なる国や地域に居住する個人および企業の間でおこなわれる資産、商品、サービスの取引全般をさす。

「2023年9月の多国間取引に関する調査では、回答者の70%が多国間取引を最近実施した、あるいは今後18カ月以内に実施予定であると答えました。前回調査の2倍の数字です」と、ニコル氏は説明する。

彼はさらに、「現在、湾岸地域における取引を推進しているのは、重要セクターにおける統合によって地域の主力企業を創出したいという意欲であり、建設、ヘルスケア、インフラサービスなどの分野が中心となっています。また、AI、デジタル転換、先端製造業といった複雑な巨大プロジェクトにおいて、ジョイントベンチャーや提携によりスキルや技術を移転することに国際的関心が高まっていることを背景とした取引も活発です」と述べた。

2024年の見通しについて、ニコル氏は引き続き中東における多国間取引が盛り上がる年になるだろうと語った。

背景として、未公開株への直接・間接投資が同地域でもっとも急成長するアセットクラスとなっており、この傾向は2024年も続く見込みであることがあげられると、ニコル氏は言う。

「国内、海外、政府系ファンドからの資金調達が活性化するなか、未公開株取引の規模は拡大すると予測される」と、彼は見解を示した。

増加が見込まれる海外直接投資

2022年は、湾岸地域(とりわけサウジアラビアとUAE)における海外直接投資(FDI)が過去最大となり、これまでの2012年の記録が塗り替えられたと、ニコル氏は言う。

「2023年のFDIのデータはまだ発表を待っている段階ですが、サウジアラビアのFDIはUAEを上回る見込みで、また両国のFDIはともに前年比2桁増の成長をとげるでしょう」と、ニコル氏は語った。

FDIは多国間投資のカテゴリーのひとつで、ある経済圏に居住する投資家が、別の経済圏に拠点を置く企業に長期的関心を持ち、相当程度の影響力を確立することをさす。

2024年のFDIの見通しは、おおむね堅調と予測される。

「FDIフローの成長は2023年には鈍化しましたが、待望の官民パートナーシッププロジェクトが、とくにヘルスケア、交通、物流、スポーツの分野で予定されています」と、ラジーン・キャピタルCEOのモハメド・アル・スワイド氏はアラブニュースに語った。

ラジーン・キャピタルは、アル・スワイド氏が2021年1月に設立した財務健全化コンサルタント企業である。

「そのため、今年以降もFDIは右肩上がりの成長が見込まれる」と、アル・スワイド氏は見解を示した。

M&A、多国間取引、FDIがいずれも活性化するなか、湾岸地域が明るい未来へと順調に歩みを進めていることは間違いない。

こうした好条件は、操業コストの増加という逆風を乗り越え、地域におけるさらなるコスト効率の実現を促進するだろう。

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