







ジョナサン·ゴーンオール ロンドン
2千年以上前にサウジアラビア北西部のヒジャーズの岩山を切り開いて建てられ、何世紀ものあいだ発見されずにいた古代都市ヘグラを訪れる機会は、これまでほとんどなかった。
有名な姉妹都市であるペトラ(460km北の現代ヨルダン)と同様に、ヘグラはナバタイ人によって作られた。ナバタイ人は、2000年以上前に短命に終わったアラブの貿易帝国を興した謎の民族である。
しかし、サウジアラビアがますます外の世界に門戸を開くようになった今、忘れ去られた偉大な古代の宝の一つを外の世界と共有しようとしている。
ヘグラは、10年以上にわたる徹底的な考古学的調査を経て、アルーラ地方のドラマに溢れた景観と遺産を自然と文化のオアシスに変え、世界中の人々がこの重要な古代の交差点に再び訪れるようにするという綿密な計画の目玉となる予定だ。
水曜日、アルーラ王立委員会(RCU)の委員長であるムハンマド·ビン·サルマン皇太子は、サウジアラビアの将来に向けた青写真「ビジョン2030」に根ざした最新の開発計画である「ジャーニー·スルー·タイム(時を越えた旅)」を発表した。
「今日、私たちは世界最大の文化的オアシスを保護し、20万年の遺産への理解を深めるための旅に乗り出します。ジャーニー・スルー・タイムのマスタープランは、アルーラを持続的かつ責任を持って開発し、私たちの文化的遺産を世界と共有するための飛躍的な進歩をすることです」と皇太子は述べる。
ヘグラをはじめとする数多くの史跡がある歴史的なアルーラ渓谷は、今後15年かけて、20万年にわたる自然と人間の歴史に浸ることができる生きた博物館に生まれ変わる予定である。
ジャーニー·スルー·タイムのマスタープランは、皇太子のリーダーシップのもと、サウジアラビアの文化大臣でありRCUの責任者でもあるバドル王子の指導のもとに策定された。RCUのCEOであるアムール·アル·マダニ氏は、アラブニュースの取材に対し、マスタープランの構想は、「独自の文化、遺産、自然、コミュニティのオアシスであるという、アルーラの本質的な魅力をとらえつつ、未来に向けて情報を発信するとともに、アルーラの歴史に新たな章を開くために、過去の物語を用いて時代を超えた遺産を管理する方法である」と述べている。
壮大なアルーラ渓谷に沿って配置された5つの地区は、それぞれが特定の遺産に焦点を当てており、全体として過去2千年の歴史を浮かび上がらせるものとなっている。
これらの地区は、「おもてなしのワジ」と呼ばれる20kmの歩行者専用道路で結ばれている。この道路は、5つの遺産とアルーラ国際空港を結ぶ46kmの低炭素路面電車と同様、何世紀にもわたって巡礼者が利用し、20世紀初頭には歴史的なヒジャーズ鉄道が走っていたルートの一部に沿っている。
「時を超えた旅」は、谷の南側、ヘグラの南17kmにある泥レンガの廃墟となった旧市街地区から始まる。旧市街には1980年代まで人が住んでいたが、住民は数キロ南にある現代のアルーラに新たに建設された快適な施設に移るため、旧市街を放棄した。今日では、魅力的で呪われた迷宮のようなゴーストタウンとなっている。
アルーラ旧市街から北へ向かうと、ヘグラの前身である古代都市ダダンがあった第2地区に到着する。紀元前600年から200年の間、この谷を通る香の交易路を支配することで財を成していた神秘的なダダナイト王国とリヒャナイト王国の首都として栄えていた。
第3区のジャバル·イクマは、ペトログリフの「野外図書館」であり、訪れる者はここで、この谷とその先にある何千もの古代の岩絵具の遺跡と碑文を初めて目にすることができる。
「時を超えた旅」の次の目的地は、第4地区の「ナバタイの地平線」である。ここにはナバタイの建築様式を反映した文化財が集められており、5つの地区の中でも最も壮大な最後の地区の序奏としてふさわしい場所となっている。第5地区は、2007年にサウジアラビア初のユネスコ世界遺産となった古代都市ヘグラである。
ヘグラは、ヒジャーズ山脈の南東に位置する広大な平野にあり、砂岩の丘が点在している。これらの砂岩は、有史以来、毎年春と初夏にこの地域を吹き抜けてきた北西風によって躍動感あふれる山塊を形成している。
こうして風によって形成された山塊には奇妙で想像力を掻き立てる形のものもある。例えば、現代の町アルーラの北東10kmにある3階建ての岩は、何百万年もの年月を経て象の形になっている。
遺跡の中心部にはかつての居住区がある。中心部には岩に掘られた130もの井戸があり、古代都市を支える広大なオアシスとなっていた。古代において主に泥レンガで作られていた建物はほとんど残っていないが、地球物理学的探査により地下構造の存在を示唆する興味深い証拠が発見されており、城壁の一部は今でも肉眼で見ることができる。
しかし、ヘグラの主役は、居住区を囲むように配置されたネクロポリス(死者の都市)であることは間違いない。このネクロポリスには、以前は生者の都市であった場所を見下ろすように、紀元前1年から紀元後75年までの間に岩を削って作られた90以上の記念碑的な墓が並んでいる。
4つの主要なネクロポリスのうち、カスル·アル·ビントには、紀元前1年から紀元後58年までの間に作られた31の墓があり、遠くから見ても近くから見ても、最も印象的な場所である。多くの墓の外壁には、怪物や、鷲などの小動物や、人間の顔が彫られている。
同じくナバタイ人によって作られたペトラと同様に、ヘグラの墓の多くは壮大な彫刻が施された外壁を有している。しかし、ペトラとは異なり、多くの墓の正面にはナバタイ時代の日付が刻まれており、また多くの場合には死者の名前も記され、かつてヘグラを故郷とした人々の生活を知ることができる。
マスタープランでは、5つの地区のランドマークとなる15の「文化資産」を提案している。その中には、ギャラリー、博物館、オアシス·リビング·ガーデン、そして古代の交易路の交差点としてのアルーラの役割に敬意を表して、香道市場が含まれている。
また、教育と知識の習得も重要な役割を果たすこととなる。ダダンとジャバル·イクマの古代遺跡に焦点を当てた研究センターに加えて、この計画のひとつの目玉となるのは、7,000年以上にわたってこの地域に居住してきた文化と文明を専門とした考古学的調査と研究のための世界的な拠点である「キングダムズ研究所」である。
現在行われている22,000平方キロメートルのアルーラ地域全体を対象とした考古学的調査では、すでに23,000以上の遺跡が確認されている。
また、アルーラ渓谷の中心にある文化のオアシスを復活させることも、開発計画の重要なポイントとなる。
「水管理や灌漑、土地利用などを研究し、革新的な解決策を導く『文化的オアシス』の再生は、『時間の旅』マスタープランの重要な要素となります」とアル=マダニ氏はアラブニュースに語っている。
「もっとも集中的な再生活動は、古代オアシスの9キロの中心部、つまり旧市街、ダダン、ジャバル·イクマをつなぐアルーラの『緑の肺 』に焦点を当てたもので、アルーラの緑地やオープンスペースの大幅な拡大を引き起こすでしょう」。
最大1,000万平方メートルの土地の再生が計画されている「時を超えた旅」のマスタープランは、「脆弱な砂漠環境を持続的かつ責任を持って開発するという課題への直接的な回答」であり、世界最大の文化的オアシス再生プロジェクトとなる。訪問者にとっては魅惑的な体験となるとともに、持続可能な農業生産に向けた独自の機会を創出することとなる。
また、アルーラ県の80%が自然保護区に指定され、生態系にとって重要な動植物が再導入される予定である。
RCUは完成後は、毎年200万人の観光客が訪れると見込んでおり、2035年までに国のGDPに1,200億サウジ·リヤル(320億ドル)を貢献し、3万8,000人の雇用を創出するという目標を掲げている。
5,000件の「ホスピタリティ·キー」が計画されており、2035年までには9,400件に増やすことが目標とされている。これらの雇用の多くは観光とホスピタリティに関わるものとなる。
訪問者は5つの地区のそれぞれで、ホテルやエコツーリズム·リゾート、高級ロッジ、かつてナバタイ人を魅了した砂岩を切り出して作られた「キャニオン·ファーム」など、「生活とホスピタリティを融合させた選択肢」を楽しむことができる。