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急成長するサウジアラビアの映画産業を前進させる多くの力

アル・ウラーの風光明媚な風景はエキゾチックな映画製作地へと変貌を遂げ、Film AlUlaは国内映画製作と国際映画プロジェクトの双方に熟練専門家のエコシステムを提供している。(提供)
アル・ウラーの風光明媚な風景はエキゾチックな映画製作地へと変貌を遂げ、Film AlUlaは国内映画製作と国際映画プロジェクトの双方に熟練専門家のエコシステムを提供している。(提供)
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13 Jul 2021 11:07:30 GMT9
13 Jul 2021 11:07:30 GMT9
  • 映画製作者はメディアとエンターテインメントの新時代がもたらした機会を活用している
  • 新たな映画館の開設やストリーミングサービスの急激な増加が市場を牽引している

ジョージ・チャールズ・ダーリー

リヤド:サウジアラビアの映画産業にとっては心ときめく時代だ。この2週間に、ダーランで開催されていたサウジ映画祭が終了し、サウジアラビアと日本の合作アニメ『ジャーニー 太古アラビア半島での奇跡と戦いの物語』が劇場公開され、パリのアラブ世界研究所で「サウジ・シネマ・ナイト」が開催された。

これらのイベントは、サウジアラビア王国に映画製作や配給の産業がほとんど、あるいはまったく存在していなかったわずか数年前の実情から顕著な脱却を果たしたことを意味している。

この変化の背景事情として多くの要因を挙げることができるが、その中核となるのは才能ある若い人材の登場だ。野心を抱くサウジアラビアの映画製作者はこの新たな時代がもたらす機会を活用している。

「映画産業に分け入っていくのは容易とも困難とも言えません」と、短編映画『2020フェイス(2020 Faces)』がサウジ映画祭で上映された若き映画監督サラ・アル・ムネフ氏がアラブニュースに語った。

遠く離れた孤立した存在だったサウジアラビアがこの部門の主要プレーヤーになるまでそれほど時間はかからないように思える。(提供)

「私たちはすべてのチャンスを与えられています。映画祭では映画を上映するためのプラットフォームが提供され、数百万という大金の賞金が授与されるコンペに参加できます。多くの企業が新たな映画プロジェクトの資金調達に関わっています」

「男性でも女性でも違いはありません。現在では、称賛を受ける作品を提供できるかどうかは自分だけにかかっています」

サウジアラビアでは、高品質の映画コンテンツの市場は、新たな映画館の開設と、ネットフリックスやその湾岸版といえるShahid VIPなどのグローバルなストリーミングサービスの急速な成長に牽引されている。これがさらにサウジアラビア王国の映画セクターへの多くの投資を生み出している。

そのような取引の1つとして2020年3月のネットフリックスによる『マサーミール 〜 ダナとおかしな3人組〜』の購入を挙げることができる。同作品のユーチューブ・シリーズが高い人気を博して成功したことを受けての出来事だ。

サウジアラビアの大手アニメスタジオMyrkottが制作したこのシリーズと映画は、ロボット工学と人工知能で世界をより良いものにしようとする、サウジアラビアの少女ダナの冒険を描き出している。現在この映画はネットフリックスで30以上の言語で全世界に向けてストリーミングされている。

ネットフリックスが『マサーミール』を購入し、現在30以上の言語で全世界に向けてストリーミングされている。(提供)

さらなる投資がスペインの製作会社Minimo VFX(『ダークナイト』『アバター』『ハリーポッター』フランチャイズの共同製作会社)から舞い込んできている。同社は最近、現地パートナーのSaudi Next Level Co.との合弁事業を通じてサウジアラビア王国に2億5000万ドル以上の投資を計画していることを明らかにした。

同社は、上昇志向の映画専門家に高レベルのトレーニングを施しつつ、ローカライズされたコンテンツを制作することが目標だと表明している。

近隣諸国ではドバイのMBCが、オンラインストリーミング子会社Shahid VIPのためにサウジアラビアのコンテンツを積極的に支援している。 その一例がキャスト全員がサウジアラビア人である連続ドラマ『ラシャシュ(Rashash)』で、同名の実在の1980年代の犯罪者と、彼を裁きにかけようとするサウジ警察の奮闘という実話をもとにした作品だ。

同シリーズは息の長い英国メロドラマ『イーストエンダーズ』の脚本家トニー・ジョーダン氏がシェイカ・スハ・アル・カリファ氏の支援を受けて構想を練り、テレビシリーズ『ドクター・フー』と『ジキルとハイド』で知られるコリン・ティーグ氏が監督した。

短編映画『2020フェイス(2020 Faces)』がサウジ映画祭で上映された若き映画監督サラ・アル・ムネフ氏。(提供)

おそらく最近のもっとも重要な画期的作品は、イスラム以前の時代のエチオピア軍によるメッカ包囲を描いた長編アニメ映画『ジャーニー』だ。この映画はリヤドのマンガプロダクションズが日本の東映アニメーションと共同で制作した作品だ。

マンガプロダクションズのマーケティング・配給ディレクター、アブドル・アジーズ・アル・ナグムーシュ氏は、「東映アニメーションとの協力を願っていました。この地域でも世界全体でもたいへん有名で人気がある会社だからです」とアラブニュースに語った。

「同社とは子供向けテレビ番組『アサティール 未来の昔ばなし』で協力し、次いで『ジャーニー』で協力しました。この4年間で約300名のサウジアラビア人アニメーターの日本と米国でのトレーニングに資金を提供しました。彼らは両国で就労も経験し、制作、監督、美術監督、さらにはマーケティングのスキルを身に着けました。その後に彼らの多くを雇い、我が社のプロジェクトで仕事をしてもらいました」

『マサーミール』はサウジアラビアの大手アニメスタジオMyrkottが制作した。(提供)

マンガプロダクションズは、教育と企業家精神、文化と創造的芸術、科学技術という主要3分野でサウジアラビアの若者を支援することを目的としてサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が2011年に創設したミスク財団の子会社に当たる。

『ジャーニー』などの商業プロジェクトは、国民経済を現在の石油部門重視から離脱させて多様化を目指す広範な取り組みの一環だ。この戦略の別の一面を担っているのが、エキゾチックで風光明媚な映画ロケ地というアル・ウラー歴史地区の位置付けだ。

『キャプテン・アメリカ』『アベンジャーズ』で有名なアンソニーとジョーのルッソ兄弟が監督したハリウッド映画『チェリー』は、2020年にアル・ウラーで撮影が行われた。

現在では、サウジ映画委員会や文化省と協力の上でFilm AlUlaが、映画製作エコシステム全体を提供しており、さまざまな熟練専門家と製作サービスも整えられている。サウジアラビア王国での映画撮影もはるかに容易になった。

テレビコマーシャルと短編映画のプロデューサー兼監督であるファハド・アル・オタイビ氏。(提供)

テレビコマーシャルと短編映画のプロデューサー兼監督であるファハド・アル・オタイビ氏は、「撮影許可を得るのは以前よりはるかに簡単になりました。かつてはさまざまな種類の許可がたくさん必要でしたが、今ではすべてオンラインで完結し、3日から5日で完了します」とアラブニュースに語った。

これらすべては、サウジアラビア国民のほぼ全員にスマートフォンとソーシャルメディアが普及したことで成長の加速を見ている、メディア・エンターテインメント産業が国民経済の重点成長領域であるという認識が、公的部門、民間部門の双方で高まっている事情を反映している。

アル・ナグムーシュ氏が指摘するように、「サウジアラビア国民のほとんどは、1日の大半をインターネットに浸って過ごしています。そのため映画は劇場公開ではなくストリーミングサービスに焦点を合わせて製作されます。これは世界中で起こりつつある変化です」

実際、オンラインストリーミングによって、従来は世界的企業が有する財務やマーケティングの影響力に無縁の独立系のプロデューサーや監督にはまったく手の届かなかった、新たな可能性が開かれようとしている。

サウジアラビアと日本の合作である、イスラム以前の時代のエチオピア軍によるメッカ包囲を描いた長編アニメ映画『ジャーニー』が、劇場公開された。(提供)

アル・オタイビ氏によると、「ネットフリックスなどのオンラインプラットフォームは、リーチが非常に広範囲に及び、ゲームを変えつつあります。低予算のサウジアラビア映画を世界的な大ヒット作に転換する可能性を秘めています。私たちにとってはこの方式の方が映画の配給よりも大きなチャンスを見込めると思います」

そして、「現在実現しつつあることを7年前には誰も予想できませんでした。今から3年後にどうなっているかなど想像もできないことだと、確信をもって言えます。次なる『フレンズ』の製作に1億ドルは必要ありません。必要なのは、きわめて優秀なチーム、きわめて素晴らしいストーリー、きわめて優れたビジョンだけです」と続けた。

業界の一般的なコンセンサスとして次に待ち構えているのは、時間が必要ということだ。サウジアラビアは「グローバルなメディア・エンターテインメント産業に組み入れられるようになるまでに、映画の実力を示す必要があります。韓国が『パラサイト 半地下の家族』でオスカーを獲得するまでに何十年にも及ぶ厳しい努力が必要でした」と、アル・オタイビ氏はアラブニュースに語った。

「私たちには時間が必要ですし、熱心に努力する必要、忍耐強くある必要、投資する必要、そして学ぶ必要があります。こうしたことが今後10年に起こることが必要です」

マンガプロダクションズのアル・ナグムーシュ氏は、「今のところはまだ大ヒット作は出ていませんが、政府の新たな重点政策が実施され、世界中で新たな関係が築かれることで、今後5年間にサウジアラビアでの制作は大幅に伸びると考えています」と述べた。

サウジアラビアでは、高品質の映画コンテンツの市場は、新たな映画館の開設に牽引されている。(AFP)

現時点でのキーワードは「忍耐」だ。若きサウジアラビア人映画製作者が潜在的な投資家に伝えたいメッセージが一つあるとすれば、映画製作はすぐに利益が出て黒字転換するビジネスではないということだ。

長編映画は構想から公開まで数年を要するもので、そのプロセスを急がせると最終的な作品の質が低下する恐れがある。

だが、サウジアラビア王国全域で数百の映画館が開設され、政府が積極的に支援し、公的部門・民間部門による資金が豊富に投じられ、新たな配給チャンネルが整備され、才能のある野心的な若き映画製作者が多数存在しており、サウジアラビアの映画産業の未来は明るく輝いているように見える。

遠く離れた孤立した存在だったサウジアラビアがこの部門の主要プレーヤーになるまでそれほど時間はかからないように思える。

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