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紅海プロジェクトが目指す、サウジアラビアの食の文化遺産継承

サウジアラビアは「ビジョン2030」の一環として、ホスピタリティ分野の活性化を図っている。(提供/ZADK)
サウジアラビアは「ビジョン2030」の一環として、ホスピタリティ分野の活性化を図っている。(提供/ZADK)
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08 May 2022 02:05:33 GMT9
08 May 2022 02:05:33 GMT9
  • サウジアラビアのシェフとホスピタリティ産業は、食を通じて国や文化の架け橋となる
  • 紅海開発会社は、食の宝庫サウジアラビアの料理を世界へ向けて発信することを目指す

サウジアラビアの料理は、巡礼者や商人、旅行者が何世紀にもわたって持ち込んだ様々な味や食材の影響を受けている。このようなバラエティーに富んだ料理を持つ国は、世界でも稀な存在であろう。

インド、北アフリカ、東アフリカ、南アジア、中央アジア、レバント地方など、様々な文化の影響を受けた料理が、サウジアラビアの伝統的な料理をより豊かにしている。

今、サウジアラビアのシェフとホスピタリティ産業は、再び食を利用して、国家と文化の架け橋になろうとしている。この「料理外交」を実践しているのが、サウジアラビアの紅海沿岸で進められている新しい観光メガプロジェクトを管理する紅海開発会社(TRSDC)だ。

TRSDCのジョン・パガノCEOとサウジアラビアのホスピタリティ学科の学生たち。(提供)

TRSDCは、サウジアラビアの経済多様化戦略『ビジョン2030』に基づき、観光・レジャー・ホスピタリティ分野における新産業や雇用の創出、起業家精神の育成、成長促進などに取り組んでいる。

TRSDCのシニア教育アドバイザーであるラース・エルツヴィク氏はアラブニュースに対し、「現在、私たちはサウジアラビアの若者をホスピタリティ産業に引き入れることに注力しています」と語った。

「この業界はサウジアラビアにとって新しい産業です。ホスピタリティや料理に関する教育はこれまで、ほとんど行われてきませんでした。これは、20年前のドバイの状況と似ているかもしれません」

“紅海プロジェクト”は、サウジアラビアの西海岸沿い、90以上の未開発の島を含む約2万8000平方キロメートルのエリアを対象とした持続可能な観光リゾート計画である。そこでは50のホテルと1300の住宅が建設され、王国の一流レストランが入る予定だとエルツヴィク氏は言う。

「紅海プロジェクトでは、サウジアラビアのあらゆる地域の料理を集め、記録し、発展させ、高級ホテルで提供できるようにしたいと考えています」

TRSDCはサウジアラビア料理の保存と普及を目的に設立された王国内の機関とパートナーシップを築いている。(提供/TRSDC)

エルツヴィク氏は30年にわたり、ホスピタリティ分野とその教育に携わってきた。2001年から2009年まではドバイに拠点を置き、エミレーツ・アカデミー・オブ・ホスピタリティ・マネジメントに勤務していた。

彼は、UAEの商業都市での成功を、サウジアラビアの地において、より短期間に、より王国の文化的な感性に忠実な形で再現することを望んでいる。

「現在、サウジアラビアではすべてが急ピッチで進んでいます」と彼は語る。「私たちは、ドバイにおける成功、またそれ以上のことを、非常に短い時間で達成しようと努力しています。TRSDCでは、ホスピタリティ、そして中でも特に料理に重点を置き、何万人ものスタッフをプロジェクトに巻き込むことを視野に入れています」

サウジアラビアのシェフとホスピタリティ産業は、再び食を利用して、国家と文化の架け橋になろうとしている。(提供/ZADK)

同社は、政府のサウダイゼーション(民間企業におけるサウジアラビア国民の雇用比率を高める政策)推進に伴い、サウジの若者にとって望ましいキャリアの選択肢として、ホスピタリティ産業の普及に努めていると同氏は語る。そのために、サウジアラビアの教育機関においては、TRSDCがスポンサーとなり、最終的にこの産業で重要な役割を担うであろう研修生を受け入れるプログラムを数多く実施しているという。

「私たちは、王国の食を通じた観光とホスピタリティの向上に努めています。また、若いサウジアラビア人が、料理を通じて自分たちの歴史と過去を誇らしく表現できるような教育や理念の共有に注力しています」

世界中の都市で見られるようなレストランや料理を単にコピーすることは、サウジアラビアが目指す、同国を独自の食の目的地へと変貌させる助けにはならない、というのが共通の認識である。そのため、料理自体のレベルの高さと、サウジアラビア独特の味を広めることに重点を置くことが、明確な優先事項となっている。

米、肉、野菜、スパイスから作られるカブサや、アラビア料理で好まれる挽いた小麦、肉、スパイスから成るハリースなど、伝統的な郷土料理は全国に数多くある。味や材料、調理法は地域によって大きく異なる。

紅海に面した港町ジェッダは、古くからこの地域や世界各国からの旅行者を魅了している。ここでは、ペルシャ、レバノン、トルコ、マグレブ、中央・南アジアなどの影響を受けた料理が多く見られる。

例えばヒジャーズでは、ブカリライス、マント(牛肉と玉ねぎが入った団子)、シシバラク(ヨーグルトベースの煮込み料理)、カブリライスなどの人気料理は中央アジアや東アジアの影響を受けている。また、この地域で人気のある野菜ベースの煮込み料理の起源は北アフリカやレバント地方にある。

一方、王国の中央部ナジュド高原では、冷涼な気候に適したスープやシチュー、ソースなど、より重厚な料理が郷土料理として親しまれている。

「私がZADKを設立したのは、サウジアラビアには自国の文化的な料理について学ぶアカデミーが不足していると考えたからです」とラニア・ムアラ氏は語っている。(提供/ZADK)

3月、TRSDCはローレンス・アサドーリアン氏を料理ディレクターに任命した。その職務は、サウジアラビアのシェフと協力して、地域や海外からの訪問者に楽しんでもらえるようなユニークな料理のオプションを作り、同時に地元の人気料理を広めることである。

「私たちの使命のひとつは、コミュニティの発展です」と彼はアラブニュースに語った。「紅海が単なる観光地ではなく、その土地に根ざした場所であることを、グループとしてどのように確認するかが大切です。それには、世界に多く存在する観光地の類似品にならないようにすることが必要です」

「そのために、サウジアラビア出身のシェフを育成するプログラムを立ち上げようと計画しています。これは、私たちにとって重要なポイントです。なぜなら、長期的な視点では、私たちは国外の才能に頼るだけではなく、地元の人々によって才能の持続可能性が推進されるべきであると考えているからです」

サウジアラビアの観光、レジャー、ホスピタリティ産業が、地元の習慣や環境に配慮したサービスを提供するために、TRSDCが目指しているのは「持続可能性」である。

「王国は、“持続可能”な観光地なのです」とアサドーリアン氏は語る。「私たちは、環境と、プロジェクトを推進している地域社会との融和に深く関わっています」

「バランスがとても大切です。様々な文化、国から影響を受けた料理と、サウジアラビア独自の料理と文化遺産、これらをゲストの旅行体験にどのように融合させるかが課題です」

多くの伝統的な郷土料理は全国で共通しているが、味や食材、調理法は地域によって大きく異なることがある。(提供/ZADK)

この課題に取り組むため、TRSDCはサウジアラビア料理の保存と普及を目的に設立された王国内の機関とパートナーシップを築いている。

リヤドにあるスタイリッシュなレストラン兼ラウンジ「Chifty」の共同経営者であり、エグゼクティブシェフでもあるモー・イナニ氏は、TRSDCの使命、“サウジアラビア料理を世界に提供する”ことを歓迎している。

イナニ氏はエンジニア出身だが、幼い頃から料理が好きで、故郷のジェッダの実家で母親の食事の支度を手伝いながら、その技術を身につけたという。

米国留学を終えたイナニ氏は、サンフランシスコのミシュラン星付きレストラン「Saison」で副料理長として寿司を学び、その後、高級レストラン「Nobu」や「Morimoto」でも修業を積んだ。

日本料理のバックグラウンドを持つイナニ氏は、紅海の魚を使った、従来の地元料理とは一味違う料理を考案している。アラブニュースが確認したところによると、現在TRSDCとのコラボレーションの話が進んでいるという。

紅海開発会社のシニア教育アドバイザーであるラース・エルツヴィク氏は、「紅海プロジェクトでは、サウジアラビアのあらゆる地域の料理を集め、記録し、発展させ、高級ホテルで提供できるようにしたいと考えています」と述べている。(提供)

紅海開発会社のシニア教育アドバイザーであるラース・エルツヴィク氏は、「紅海プロジェクトでは、サウジアラビアのあらゆる地域の料理を集め、記録し、発展させ、高級ホテルで提供できるようにしたいと考えています」と述べている。(提供)

「食は、常に私たちを結びつけてきました」。サウジアラビアの慈善家であり、東部州にある都市アル・コバールの非営利料理アカデミー「ZADK」の創設者兼会長、ラニア・ムアラ氏はアラブニュースに語った。

同アカデミーは、ムアラ氏が料理本「ア・スプーンフル・オブ・ホーム」を出版してから3年後の2018年に設立された。地元のシェフに力を与えることでサウジアラビアの豊かな料理の伝統を育む、というその理念は、パートナーシップを結んだTRSDCと似ている。

「私がZADKを設立したのは、サウジアラビアには自国の文化的な料理について学ぶアカデミーが不足していると考えたからです」と、ムアラ氏はいう。「レストランは、ほとんど外国人の手に渡っています。私がZADKを立ち上げたのは、持続可能で、地域社会にとってよりインパクトのあることをしたいと思ったからです」

彼女は、アカデミーがTRSDCとのパートナーシップを発展させ、サウジアラビアにおける次世代のシェフの育成を支援する方法を検討していると語った。

「TRSDCの生徒が私たちのアカデミーで勉強するのを楽しみにしています」とムアラ氏は語った。

紅海プロジェクトは、2030年までに完成予定の2万8000平方キロメートルのエリアを対象とした持続可能な観光リゾート計画である。(提供/TRSDC)

ZADKは、サウジアラビアの美食シーンを促進し、国際基準を満たすようにすることを目的としており、スイス・カリナリー・アーツ・アカデミーとも提携している。

「私たちの使命は、サウジアラビアで最高の料理学校を発展させ、社会変革のためのプラットフォームとすることです。学生がサウジ料理だけでなく、国際料理も学べるような方法で料理を教えることを目指しています」とムアラ氏は述べた。

「私たちは、学生たちがサウジアラビアの料理や遺産とともに世界を旅できるようにすることを目標としています」

紅海プロジェクトが完了する2030年までに、TRSDCがサウジアラビアを訪れる人々に味わってもらいたいのは、まさにこのような食の外交なのである。

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