東京:「悪の女王」は、若い女性が力強さと自己発見の道を歩む典型的な成長物語である。ただし、すべては日本のプロレス界という、体当たりや腕ひねりの世界で繰り広げられる。
先月より配信が開始されたNetflixのこのシリーズは、1980年代の実在のレスリング・レジェンド、松本ダンプこと松本めぐみさんの物語である。彼女は、不在がちだったり、暴力的だったりした父親のもとで貧しく育った。
彼女は怒りの中で育ち、レスリングでは、歌舞伎のような奇抜な化粧、鎖、棒、そしてグロテスクなしかめ面を身にまとった、凶暴で、悪役として知られる「ヒール」のキャラクターを演じた。彼女は、恐れを知らず、反抗的な女性の象徴として大きな存在感を示した。
「私は悪になるために全力を尽くしたのです」と松本は語った。
愛嬌のある笑顔の巨漢の女性である松本は、今でも自分が善良な人間とは見られず、また、特に日本の女性たちの多くが自分嫌っていると認めた。
「今でも試合で相手を痛めつけています。フォークを突き刺して血を流させたりもしました」と彼女は言う。「善良なふりをしている人たちは、本当は悪人なのです」
「悪の女王」は、松本とクラッシュ・ギャルズとして知られる人気プロレス・タッグチームの長与千種の友情を描いている。長与は、ドラマ化されたプロレス・シーンの顧問、トレーナー、振付を務めた。
日本のプロレスファンは、松本とクラッシュ・ギャルズの試合について、米国での試合も含めて今でも話題にしている。
このドラマに出演した女優たちは、役作りのために2年間のトレーニングを積んだ。体重を増やし筋肉をつけ、レスラーが相手の足を掴んでぐるぐると回転する「ジャイアントスイング」や、空中で飛びながら蹴りを入れる「フライングニーキック」などの技を習得した。
プロレスでは、パンチやボディスラムを本物らしく、しかし深刻な怪我を避けるために制御しながら行うことが肝心である。レスラーは、正しい倒れ方を知っていなければならない。
重要な試合の1つの場面では、俳優たちが何度も何度も動きを繰り返したため、撮影に1か月を要したという。
「ダンプは国民全体から嫌われる役でした」と、このシリーズで松本を演じるプロのコメディアン、ユリアン・レトリバーは言う。
「以前は、無意識のうちに、これ以上は無理だという限界があっりました。でも、ダンプを演じると、そういった感情をすべて吐き出し、表現しなければならなかったのです」と彼女は言う。
彼女は、もはや役を演じているのではなく、ダンプ松本そのものになったと感じたという。
「嫌われるのは怖いし、嫌われたくないと思います」
「カットが終わったとき、私は泣いていました。そして体が震えていました。うまく言葉では表現できないのですが、ダンプが感じていたであろうプレッシャーをすべて理解したのだと思います」
このシリーズは、性差別や虐待的な経営を背景に、逆境に打ち勝つ女性の物語を描いているだけでなく、戦後の昭和時代を本物らしくとらえている。このドラマのシーンには、多くのエキストラが参加しており、その多くは熱心なプロレスファンであった。
視聴者の中には、新シリーズのドラマ版よりも実際のプロレスの方が迫力があったと言う人もいる。
プロレスラーとして松本に竹刀で殴られた経験を持つオーストラリア人映画製作者のリオネ・マカボイ氏は、「俳優たちは、この役柄に求められる激しさ、たくましさ、カリスマ性を表現できていないことが多い」と語る。
しかし、ほとんどの視聴者にとっては、十分にリアルで胸を打つ作品だ。
「これは、夢を情熱的に追い求め、友情や自分自身を見つけた普通の少女たちを描いた、永遠の感動的な物語です」と、監督の白石和彌氏は語った。
「この作品は、15年間の映画制作のキャリアを振り返り、自分が本当に何をしたいのか、どんな映画を作りたいのかを考える機会を与えてくれました。私はただ、彼女たちの物語を伝えたかったのです。それは、誰もが経験する物語でもあります」
AP