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マスクに声を吹き込んだ男:デューク・フリードの声を担当したレバノン人アーティストにインタビュー

2019年10月13日、サウジアラビアのリヤドのJoy Forumでグレンダイザーと写真に収まるジハード・アル=アトラシュ氏(ジヤード・アルアルファジュ)
2019年10月13日、サウジアラビアのリヤドのJoy Forumでグレンダイザーと写真に収まるジハード・アル=アトラシュ氏(ジヤード・アルアルファジュ)
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26 Oct 2019 05:10:07 GMT9
26 Oct 2019 05:10:07 GMT9
  • 『グレンダイザー』の成功は、アラブ人たちは日本人たちと同じ『名誉を重んじる価値観』を共有していることを示すと、ジハード・アル=アトラシュ氏が語る

ヌール・ヌガリ&ハラ・タシュカンディ – リヤド

アラブ世界では多くの人がデューク・フリードという名前を聞けばすぐに誰のことかわかるだろうが、ジハード・アル=アトラシュ氏の名前を知っている人は少ないだろう。しかし、少なくとも中東において、デューク・フリードは、ジハード・アル=アトラシュ氏なしでは存在し得なかったのだ。

どちらもご存知ない読者のために解説すると、デューク・フリードは『グレンダイザー』というアニメの主人公だ。日本人漫画家の永井豪氏が1975年に世に送り出した同作品は、1980年代に、周回軌道から飛び出るかのように、日本から中東に舞い降りた。その後同作品は、中東でも愛好家の間で名作としての地位を固め、誰もが愛する象徴的存在になった。全編がアラビア語に吹き替えられるや否や、この作品は中東で支持を集め、驚くべきことに数十年経った今でもその人気は衰えていない。

『グレンダイザー』の英雄的主人公のアラビア語の吹き替えを担当したアル=アトラシュ氏は、アラブメディアの世界で長期にわたり広く活躍しているレバノン人俳優だ。現在では、同作が同氏が演じた最高の役の1つだったと認識されており、ほぼ確実に同氏が演じた中で最も有名な役である。

アル=アトラシュ氏は、最近サウジアラビアのリヤドで開催されたJoy Forumにて『Arab News』のインタビューに応じた。同イベントは、サウジアラビアで急成長中の娯楽産業への投資を呼び込むために開催されたもので、同氏から話を伺うには最適な舞台となった。作品のタイトルにもなっているグレンダイザーの巨大な像が展示されていたのである。

レバノンで1980年代に初放送されて以来大ヒット作品となっている『グレンダイザー』は、アル=アトラシュ氏にとって大切な思い出になっている。同作品を大切な思い出としているのは同氏だけではない。「レバノン人たちはこの作品を大変気に入りました」と同氏は『Arab News』に対して言う。「アラブの人たち、特にアラブ首長国連邦とサウジアラビア王国の人たちは、『グレンダイザー』をよく覚えています。それほどよく覚えてもらっていて、嬉しい驚きです」

今でもその人気は一切弱まっていない。「私は人に会うたびに、大きな愛をもって接してもらえます。多くの人は、子供達に『グレンダイザー』を観せて、倫理や価値観を学ばせているようで、それが私にとっては一番かけがえのないことです」と同氏は語った。

同氏は『Arab News』に対し、『グレンダイザー』が説く価値観は時代を超越するものであり、そのため同作品は人気を保っているのではないかと考えていると語る。グレンダイザーが地球に来た時、行く手を阻んで彼を破滅させて地球を支配しようとした邪悪な勢力や敵を相手に彼は戦いました。彼は地球を守る動ろうと、平和、全人類への愛、正義、及び尊重呼びかけました。これらはどれも、人類が誇るべき原理であり価値観です」

アル=アトラシュ氏によるデュークの演技が賞賛を受けたのは、同氏が巧みに感情を込めたから、特に同氏の愛国心を込めたからである。それは、同作品の人気が絶頂に達した時期のレバノンの政情とも無関係ではない。「当時レバノンではいつ内戦が起こってもおかしくない状況でした。実際その後国の中心部で内戦が起こりました」と、1975年から1990年まで続いたレバノンの内戦についてアル=アトラシュ氏は説明する。「私も戦争やその他自分の国で起こっていたことに大変心を痛めていました。私は国に平和と愛が戻ってくれることを望んでいましたし、同胞心と調和がレバノン社会の全ての部分に浸透してくれることを望んでいました」

同氏の演技は、『グレンダイザー』の生みの親からさえ賞賛を得ている。「永井豪氏は、『グレンダイザー』が中東でこれほど大きく成功してとても嬉しいとおっしゃっていました。中東では、日本やその他のヨーロッパの国よりも成功したのです」とアル=アトラシュ氏は言う。「彼は、私の声がとても気に入ったと、そして日本語版のキャラクターの声にも私と同じだけの感情と気持ちが入っているといいのに、とおっしゃっていました」

しかしアル=アトラシュ氏は、地政学的事情だけでなく、アラブ文化全般も同作品の中東での人気を高める強い要因だったと考えている。「アラブ人は気高さや名誉を重んじる価値観、度量の大きさ、寛大さ、人を励ます心、愛国心、自分の家族や自分が属する社会への愛で有名です」と同氏は説明する。「アラブ人たちは、こうした価値観をとても重んじています。子育てに際しては、こうした価値観を守り維持し、子供の心にも植え付けられればと思います」

しかしアル=アトラシュ氏は、今日のアニメーション作品の質は下降傾向にあると考えている。「今日の子供達が観ているアニメーション作品は、子供達に暴力だとか暴力的な考え方しか教えていません。それを観た子供達は、クラスメートに対して暴力的な行動に走ります。子供達は、テレビや携帯電話で観ているアニメーションのキャラクターの真似をします。携帯電話は誰もが持つものになっています。今日のアニメーション作品は、直接的であれ間接的であれ、暴力的なサブリミナルメッセージを送っており、そこに倫理観などありません。そこが『グレンダイザー』と異なっています。そのため私は、アニメーションの声の担当を一切しないことを決めました。子供達、社会、そして世代を破壊するツールとして自分の声が使われたくないのです」

来年『グレンダイザー』の45周年を記念して、同作品のリメイクが制作されるのではないかとの噂がある中、アル=アトラシュ氏は同じ役で再度出演する意思があると言う。「私も噂は聞いていますが、現段階ではそう言う話があると言う段階にすぎません」とアル=アトラシュ氏は『Arab News』に対して語る。「しかし(デューク・フリードの声をアラビア語で吹き込むことに)関心はかなりあります」

それまで同氏は、この象徴的なキャラクターの吹き込みを行なった記憶を楽しく回想できる。3人の娘がいるから尚更だ。「娘たちはこの作品が大好きです。娘たちは友達に『グレンダイザー』を紹介して、それからグレンダイザーの声を担当しているのは父親だと明かすのです」と同氏は笑いながら語った。

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