

ルバ・オバイド(ジッダ)
サウジアラビアで進む社会の変化にスポットライトをあてる、新進アーティストたちによる展覧会がサウジアラビアで始まった。
ジッダにあるAthr Galleryでは、ヤング・サウジ・アーティスト(YSA)イニシアチブの第6弾となる「In the Midst of It All」を開催し、成長を続ける国内のアートシーンに新たに加わった23名の才能豊かなアーティストたちの作品を紹介している。
2011年にスタートしたYSAプログラムの目的は、サウジアラビアを拠点とするアーティストたちの革新的かつユニークなコンテンツを国内外に伝えることにある。
アーティストであるZahra Bundakjiをキュレーターに迎えた今年の催しは、この国で進む社会変革、そして集団および個人レベルにおけるその意味合いを理解しようと試みるものだ。
展示されているアートは、19歳から40歳までのサウジアラビア国民ならびに住民を対象にYSAイニシアチブへの参加を公募した結果である。
Bundakjiは今年の展覧会のテーマとして、アート、文化、エンターテイメントに関して若者たちの間でよく尋ねられる次の質問を投げかけた。「who are you, in the midst of it all?(あなたは何者なの、その真っ只中で)」
Bundakjiはアラブニュースに次のように語った。「展覧会のテーマの準備をしていた際、何が重要なのかを人々に聞いて回ったところ、ほとんどの人が自分のアイデンティティだと答えました。アイデンティティは私たちの身の回りのもの全てに根差したものでしたが、現在、全てが変化の真っ只中にあります。そこで私たちは何者なのか?となったのです。」
この展示には、「2019年の私たちの姿を100年後の人々に伝えること」を目的として個人的な経験や幼少期の思い出、アイデンティティクライシス、悲劇、トラウマ、内なる葛藤を表現した作品が並ぶが、Bundakjiは「これら全ての人々を結び付けることで人々がどのような経験をしているのかがわかり、あるパターンが見え始めてくるのです」と語る。
出展者のほとんどはアートに関連した学術的バックグランドを有しておらず、展覧会に作品を出すのは今回が初めてだ。
サウジアラビア生まれのバングラデシュ人で、様々なジャンルのアートを実践するAisha Zakia Islam(27歳)は、亡くなった母親のレントゲン写真にヘナの模様が映る作品に代表された一連の哀歌を出展している。
「私の作品は、人の死を受け入れ、悲しい出来事を幸せな出来事に変えるプロセスを表現しています」とIslamはアラブニュースに語った。「私の母はヘナが大好きでした。彼女にとってヘナは非常に儀式的なものであり、彼女を心から幸せにするものでした。このシリーズの制作は、私にとって哀悼の過程となりました。」
Islamによると、人間の皮膚と異なり、レントゲン写真に描かれたヘナは永久に残り、それをこすり取ろうとするとレントゲン写真そのものが消えてしまう。
サウジアラビアに住む外国人として、この国で自身の作品を発表できること、そして現地のアートシーンに触れられることには大きな意味があるとIslamは付け加えた。「こういった取組は地元の人々を対象とすることが多いのです。このような機会を得ることができて嬉しく思います。」
ジッダを拠点に活動するテキスタイルアーティストで版画家のShaimaa Saleh(24歳)は、Athrに展示された作品の中で、家庭生活、家族、思い出、時間というテーマを探求した。
彼女の作品のルーツは、エジプト人の作家・詩人のMustafa Lutfi Al-Manfalutiが翻訳した小説、「Majdolin」にある。作品は22のピースからなっており、その一つひとつが小説の一場面を表し、幸福の探求について思案している。
「文章に魅了され、忘れることができませんでした。小説では自然や日常生活の中の人々との交流の場面が、快適さ、幸せ、満足感を与えるであろう源として挙げられています。」
刺繍やシルクスクリーン印刷、ファブリックコラージュなどの技法を用いるSalehのアートは、日常の出来事を通じた自身の精神的な体験からインスピレーションを受けている。「Majdolin」の文章は、彼女が幸福の源を誤解しており、幸福の源が「目的地ではなく、実は旅である」ことを彼女に気付かせた。
Salehは、若いアーティストを世に送り出し、彼らにスペースを与えるという点で、YSAイニシアチブは重要であると話した。
映像作家で総合的なアーティストのMohammed Hammad(36歳)は、#Infinitesence83とタイトルをつけた映像作品を通じて、移住という経験、そして自身の分裂したアイデンティティとの葛藤の経験を共有した。彼の実験的な短編映画では、自身のサウジアラビアから他国への移住と、現在進む社会経済的変化の最中にこの国へ戻ってきた経験を、内省的な観点から振り返っている。
Hammadは音、映画、絵画を通じて、生まれ故郷であるサウジアラビアと、自身が育ったヨーロッパの大都市との著しいコントラストにハイライトをあてている。
「私は人生の大半をサウジアラビア国外で過ごしました。このビデオには、過去7年の間に訪れた様々な国や大陸で撮影した映像が含まれています」とHammadはアラブニュースに語った。
「この作品のナレーションを担うのは母からの音声メッセージです。母は家族の近況を私に知らせるため、私を想って祈るため、私がサウジアラビアに戻るようにお願いしたりするためにたくさんのメッセージを送ってくれました。やっと今、母と一緒にいられるようになりました。」
Hammadは、それが個人の経験や内面的な危機に焦点をあてたものであったことから、今回の展覧会の背景にあるコンセプトが気に入ったと話した。「私のアートのほとんどが表現力豊かなものであると同時に内なる経験を表すものであり、時には内省を通じて間接的に社会問題に取り組んでいます。これまで展覧会はアーティストに特定のトピックを課すものであって、私のスタイルとこうしたスタイルは往々にして相容れないものでした。」
Athr Galleryは9月、あらゆる分野のアーティストに対してYSAイニシアチブへの参加を申請するよう呼びかけた。このプログラムは若いアーティストがプロフェッショナルな場において自身の作品を展示するほか、キュレーターと協力し、自身の作品を批評の対象にすると同時にマーケットへと送り出すことを手助けする一方、こうしたアーティストが自身の作品をコンセプト化し、自分たちのプロジェクトを発展させるのを支援するようにデザインされている。
ギャラリーの共同設立者であるMohammed Hafizは、「今回の取り組みに対する世間やアーティストの反応は心地よいものでした。これまでで最高の200以上の申請がありました」と話した。
「今年は2つのことを変えました。アーティストの選考には、独立したキュレーターと国外の人が一部入った委員会を任命しました」とHafizはアラブニュースに語った。「私たちはクリエイティブなマーケットを支援し、刺激するべきだと信じています。でも、誰もが自身の将来に対して責任を負わなければなりません。」
「そのため、展覧会の期間中、アーティストは批評家やメディア、他のギャラリーを含む一般の人々や専門家と交流を持つことができます。これはアーティストとして世界と繋がるチャンスなのです。」
「一部のアーティストはYSAで私たちが代理人を務めることになります。YSAが代理人をやめたアーティストは他のギャラリーに見出されるかもしれませんし、自身の進む道を変えるかもしれません。YSA出身者の中には、この過程を通してこれが自身のやりたいことではないということに気付き、映画監督やグラフィックデザイナーになることを決めた人もいます」とHafizは続けた。
ギャラリーという場でサウジアラビアを拠点とするアーティスト110人の作品もあわせて紹介するこの展覧会は、2020年1月15日まで続く。