東京:日本のアニメの世界的需要が高まる中、新たにネットフリックス出資の塾が設立された。舘野仁美氏はひとそろいの鉛筆と消しゴムのカスを払う羽ぼうきで武装し、次世代のアニメアーティストを教えている。
興行的に大成功を収めた『鬼滅の刃』から、直近ではカンヌで喝采を浴びた『竜とそばかすの姫』まで、アニメは、パンデミックによる都市封鎖の間に新たなファンを続々と獲得し、マニア向けのサブカルチャーというイメージを払拭した。
だが、日本では技術力の高いアニメーターが不足している。仕事を覚えるために何年も低賃金の職場で苦労しなければならず、一コマずつ絵を描く細かい作業の多くが海外に外注されているのが一因だ。
米国のコンテンツ配信大手ネットフリックスが、WITアニメーター塾でその状況を変えられるかもしれない。この塾は、若手アーティストたちに無料で指導を行い、研修中の生活費を支給する。
ネットフリックスと組んで塾を運営するアニメ制作会社大手ウィットスタジオの和田丈嗣代表取締役社長は、同じく需要の高い他業界への近道と比較して説明する。
「寿司職人の見習いになると、握り方をすべて習得するまでに数年かかるでしょう。しかし、寿司職人養成学校に通えば、全課程を1年で修了できます」
6カ月間のコース内容は「中割り」の技術が中心だ。動いているかのような錯覚を作り出す「マスター」の絵に挟まれるフレームの描き方を学ぶ。
舘野氏は、『千と千尋の神隠し』をはじめとするスタジオジブリの有名作品から、カルト的な名作『アキラ』まで幅広く手掛け、動画マンとしての経験が豊かだ。
「この仕事は絨毯を織るのに似ています。非常に緻密で忍耐が必要な作業です」。生徒が描いた線を確認しながら、アニメのベテランはAFPに語った。
「意欲あるアニメーターの多くは、早く昇進して原画マンになりたいと望みます。中割りを専門にしたい人がいたとしても、続けられる人は少ないです」
アニメーターの需要が高まっているのは明らかだ。
この米国のエンターテインメント界の巨大企業によると、2020年9月までの12カ月間に世界で1億を超える世帯が、ネットフリックスで1編以上のアニメを視聴した。この数字は前年比で50%増だという。
ネットフリックスは、この塾が「日本のアニメーターが作品を通して世界にはばたく未来に向けて支援をする」ことを望んでいる。ゆくゆくはアニメーション制作の他の専門分野にもコースを広げていく計画だ。
ネットフリックスのアニメ・チーフプロデューサー櫻井大樹氏はAFPに「アニメ業界を支える才能を支援し、強化する取り組みを続けていきます」と述べた。
この動きは、今年ソニーが11億7,000万ドルで買収した世界最大のオンラインアニメライブラリー、クランチロールなどに対抗する戦略の一環である。
第1回の6カ月間のプログラムが終了し、WITアニメーター塾は第2回の研修生を迎えたところだ。
卒業生はウィットスタジオや関係会社に就職し、チームでネットフリックスの番組制作に携わることになる。
だが、彼らが入ろうとしている業界では、スタッフの定着率の低さが切実な問題になっている。待遇が改善せず、動画マンは平均4年で離職しているのが現状だ。
日本アニメーター・演出協会(JAniCA)によると、日本の動画マンの大半はフリーランスかパートタイム勤務で、フルタイムの社員は18%に過ぎない。そして中割り作業の80%は中国や韓国など、海外に外注されているという。
無料研修、資金提供、キャリア直結というセーフティネットは稀少で、WITアニメーター塾の研修生ウエノ・マキ氏は、「安心感がある」とAFPに語った。
「別のスタジオで働いている友人は、研修プログラムはもっと短期で、その間は無給だと言っていました」。22歳のウエノ氏は第1回の10人の研修生の一人だ。
JAniCA監事の桶田大介弁護士は、この塾は業界を変える流れをつくり出すかもしれないと言う。
「スタジオが優れた動画マンをチームに入れることができればアニメーションの質は上がるというのが共通認識です」と、桶田氏はAFPに語った。
「大手スタジオもその分野に投資を始めています。業界の状況はすでに良くなってきています」
AFP