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ハシル・アル・ラムキ氏の『ルーシー』は人類史の要約を示している

ハシル・アル・ラムキ氏のアートワークシリーズ『ルーシー』の絵画。(提供)
ハシル・アル・ラムキ氏のアートワークシリーズ『ルーシー』の絵画。(提供)
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19 Oct 2022 03:10:56 GMT9
19 Oct 2022 03:10:56 GMT9

カーラ・シャハルー

ドバイ:アラブ首長国連邦(UAE)出身の画家で、多くの専門分野にわたるアーティストのハシル・アル・ラムキ氏がアブダビで注目を集めたのは、ニュースクール大学の傘下であるニューヨークのパーソンズ美術大学で学士号取得後、UAEに戻った2014年のことであった。

画家であり、多くの専門分野にわたるアーティストのハシル・アル・ラムキ氏。(写真:Noor Althehli/提供:タバリ・アート・スペース)

アル・アインの巨大なジャベル・ハフィート山の陰に生まれたアル・ラムキ氏は、この国の産業と建築の発展だけでなく、湾岸地域の急激な発展に伴う社会・文化の成長の歴史を目の当たりにした。

アル・ラムキ氏は、ニューヨーク、アムステルダム、オランダ、ニューメキシコ州タオスで、大量消費主義後の廃棄物の解決策を見つけようと没頭した後、母国に戻ってきた。

これらの複数の異なる学問分野にまたがる、異文化的な経験は、概念的にも技術的にも同氏の芸術活動に寄与している。同氏の絵画は、アル・アイン内外で同氏を取り囲んでいた風景が残した遺産に関係している。

アブダビを拠点とする現代美術を中心としたスタジオ「BAIT 15」の創設メンバーの一人であり、地元アーティストに批判的対話の場を提供するリーダーでもある。

11月3日から27日まで開催される「East-East : UAE meets Japan Vol.5, Atami Blues」は、UAEと日本の国交樹立50周年を記念し、キュレーターのソフィー・マユコ・アルニ氏が芸術的なコラボレーションや交流を通じて両国の芸術的対話を促進する目的で開始した展覧会シリーズの第5弾で、アル・ラムキ氏の最新の作品シリーズ『ルーシー』を展示する予定である。

このシリーズのタイトルは、人類最古の先祖の一人であるとされるアウストラロピテクス・アファレンシスの標本、通称「ルーシー」に由来している。

この絵画シリーズは、1971年にUAEが連邦制に移行してからの変化を、真珠産業の歴史的発展や人類の進歩の記録、および、それよりずっと以前から存在していたものの記録などを要約することを通して物語っている。

これは、UAEと日本が青い海を取り巻く物語を共有するというアイデアを促進した「Atami Blues」展のテーマと類似している。

アル・ラムキ氏は次のように述べた。「私の作品は、地質や人類の歴史的データのトレースであり、特にこの地域に関するものが多いです。地質や時代とともに変化してきたものなど、アクセスできるのに、もしかすると知られていない情報がたくさんあります。

「そしてある時期には、アラビア半島にいくつかの川があり、さまざまな生物が生息していました。私はいつもサイクルとクローズアップを参考にしています」

「この50年間で、石油が登場する前から現在に至るまで、ご存知の通り、こうした都市、特に真珠貝採りの潜水作業員とその文化を取り巻く経済について、早送りで見てみましょう」

「また私は、この地域で起きていた社会的な経済動学や、男性たちが3カ月間真珠を採りに行くという過酷な状況にも目を向けています。そして、彼らは戻って来て、その背後には経済全体と、その産業があるのです」とアル・ラムキ氏は付け加えた。

アル・ラムキ氏の作品は、時系列や地理的な背景が異なっていても、いかにして異なる時代や文化の側面を結びつけることができるかを示している。

このシリーズは、UAEと日本との関係や、両国の間に存在する多くの協定を思い描き注目して制作され、時間や環境に応じて地域や活動がどのように変化するかを巧みに示唆し、「種としての私たちの活動」という包括的なテーマと響き合っている。

アル・ラムキ氏は次のように述べた。「私は、真珠と石油と贅沢と恐怖の歴史を見ていました。そして、これは本当に私たちの域を超えた概念なのだと感じました。私は拡大して深堀りする必要があります」

「全く異なる物語について、この種の、さまざまな枠組みの断片を通じての話法があり、こうした物語が過去数百万年の人類についての詳しい物語を語るようになるのです」とアル・ラムキ氏は付け加えた。

1958年にアブダビで石油が発見され、石油の生産がUAE地域の経済の転換点となり、広大なショッピングモールと高層タワーのある土地に変貌する以前には、真珠産業はアブダビの総収入の95%を占め、18世紀後期には地域の最も重要な輸出品目となっていた。

この地域の真珠産業が衰退した要因には、日本の真珠養殖の浸透と世界的な輸出品としての発展も挙げられる。

真珠から石油へと移行したUAEでは、1967年にムバラス油田とダルマ油田の利権協定を締結するなど、両国間の貿易協定の数も増加した。

アル・ラムキ氏は、このような両国の接点に着目し、商人たちが海で生計を立て、帆を張り、昔の真珠貝採りの潜水作業員の歌を歌いながら手を叩いた日々に思いを馳せ、ほとんど忘れ去られていた真珠貿易の過去に浸った。

ハシル・アル・ラムキ氏のアートワークシリーズ『ルーシー』の絵画。(提供)

このことは、絵画の中の一枚にはっきりと顕在化しているのだが、この絵は水平線、波、海岸線が彩度の高いパステルカラーで描かれたほとんど抽象的な筆致で、海岸を離れて旅に出る船乗りや潜水士が描かれている。神秘的とも現実的ともとれる色合いで、この国の歴史との固有のつながりを否応なしに示している。

このシリーズの絵画は、中東・北アフリカ地域の天然資源由来の作りたての顔料を使用して、ハイチの布や枕カバーに描かれている。

同氏の作品は、海の流動性と緩やかな筆致に関連を持たせ、抽象から具象へと移行しながら、包括的に順序立てて語っている。こうした配置により、このシリーズの絵画はテーマ別であると同時に年代別でもあり、それぞれが物語の異なる部分を真であると証明しているのだ。

ハシル・アル・ラムキ氏のアートワークシリーズ『ルーシー』の絵画。(提供)

アル・ラムキ氏は美術史に造詣が深く、このシリーズの作品のいくつかには、ルネッサンス期の絵画の断片が、その国の地質学的な領域や社会的な領域から不思議なほど霊力を帯びていることが示されている。

ハシル・アル・ラムキ氏のアートワークシリーズ『ルーシー』の絵画。(提供)

この展覧会で最も不思議な感動をもたらす作品の一つは、片手で風になびく髪を持ち、もう一方の手で太ももを押さえ、片膝をわずかに曲げている女性の姿で、サンドロ・ボッティチェリの1485年の絵画『ヴィーナスの誕生』を暗示している。

ハシル・アル・ラムキ氏のアートワークシリーズ『ルーシー』の絵画。(提供)

この絵は、ジャベル・ハフィート山を象徴する山並みを一望することで、同氏の故郷への帰属意識を強めると共に、人間と環境の関係を包含している。

「私が人類に起こった事実の記述について話す場合、時として非常に神話的な話になってしまうものがあります。私はこうした夢のような、詩的な部分が好きなのです。山から現れたようなこの女神を除けば、ヴィーナスは女性らしさと真珠に対する賛美のようです」

「そして、これはその絵を現代的にアレンジしたものです。私が育った山を参考にしたことで、個人的なものでありながら、一般の人にも通じる物語になっています」とアル・ラムキ氏は付け加えた。

またアル・ラムキ氏は、日本のサウンドアーティスト上村洋一氏とのコラボレーションにより、真珠貝採りの潜水作業員の歌と水の様々な要素のテクスチャーをミックスした音声成分を組み込んでいる。

『ルーシー』はUAEの真珠産業と真珠採取の歴史を反映し、アル・ラムキ氏の自身の故郷との深い交流を証明している一方で、これらの作品に見られる流動性、感情表現、動作の感覚は、いかにして身近な断片と見慣れない断片の両方を使って、数千年の間に人間がどのように変化したかという想像力を働かせて、時系列的な物語を作ることができるかということを示している。

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