
ワシントン:.米国のバイデン新大統領は20日、気候変動対策の国際的枠組みであるパリ協定への復帰を表明した。就任初日の大統領令の中でも目玉と位置付けられるもので地球温暖化対策における米国のリーダーシップ回復を目指す。
今回の発表には他にも、気候変動対策を軽視したトランプ前大統領の施策を抜本的に見直す大統領令が含まれている。カナダのTCエナジーのキーストーンXLパイプラインの認可取り消しやトランプ政権が最近、開発に道を開いた北極圏国立野生生物保護区における石油・ガスのリース活動の一時停止などだ。
中国に次いで、二酸化炭素排出量が世界で2番目に多い米国で、新たな大統領に就任したバイデン氏は大統領令の発令により、トランプ前大統領の主要政策の転換に着手した。トランプ政権は気候科学に批判的で、環境規制を後退させ化石燃料開発を推進した。
バイデン大統領は化石燃料を規制し、クリーンエネルギーに大規模な投資を行うことで、米国が2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを公約している。これは、科学者が地球温暖化の壊滅的影響をくいとめるために必要だとしている大幅で迅速な国際的な二酸化炭素削減に適合するものだ。
ただし、米国の政治的分断、化石燃料業界の反対、また、米国の政権移行は多難とみる国際社会の懸念などもあり、道のりは険しいと考えられる。
「気候変動懐疑派の政権により、この4年間で米国は大きく道を外れた。」とオバマ元大統領の顧問を務め、2015年のパリ協定合意に携わったジョン・ポデスタ氏は指摘する。「信頼が損なわれている中で、国際的な舞台に立つことになる」
バイデン氏の大統領令では自動車の燃費基準やメタン排出規制の見直し検討を政府機関に命じているほか、トランプ政権が削減した自然保護区の再拡大の検討も求めている。
環境団体が大統領令を歓迎する一方、産業界や保守派からは批判の声が上がった。
アラスカ州のダンリービー知事(共和党)はバイデン氏が北極圏国立野生生物保護区における石油・ガス事業の停止を決定したことについて、「新大統領はアラスカを巨大な国立公園にするという公約を実現しつつあるようだ」と痛烈に批判した。
米国最大の石油・ガス業界ロビー団体である米石油協会(API)は、キーストーンXLパイプラインの認可撤回は「後退だ」と述べた。
「今回の決定は誤りで、米国経済の回復を妨げ、北米のエネルギー安全保障を弱体化させ、米国の最も大切な同盟国の1つとの関係を悪化させるものだ」とAPIのマイク・ソマーズ会長は批判した。
国際社会や気候変動活動家らは国際的な気候変動対策の枠組みに米国が復帰したことを歓迎しつつも、米国が国力を維持し続けられるか、また国内の政治的混乱を克服できるかなどについては懐疑的な見方も出ている。
トランプ前大統領は米国経済にとってあまりに負担が大きいとして、昨年後半、パリ協定から離脱した。
「米国はパリ協定から離脱した唯一の国であり、率直にいって、この多国間協定の除け者となっている」と前国連気候変動枠組条約事務局長のクリスティアナ・フィゲレス氏はロイターに語った。
バイデン大統領は自国において野心的な気候変動対策という課題に取り組むことで、アメリカの信頼を取り戻すことが可能だ。
バイデン政権の国家経済会議(NEC)委員長、ブライアン・ディーズ氏はロイターの取材に対し、「米国の復帰とリーダーシップを証明するとともに、他の大量排出国の積極的な削減策も後押ししていきたい」と述べた。
パリ協定締結時にEUの気候変動交渉を主導したロンドンのシンクタンク、英国王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)の研究員、Pete Betts氏は米国は公約を財政的支出によっても示す必要があるだろうと指摘する。
オバマ政権時代、米国は途上国の気候変動対策を支援するために緑の気候基金(GCF)に30億ドルを拠出すると表明していたが、現在までに拠出されたのは10億ドルにとどまっている。
「米国は資金の拠出を行うとともに、各国にも同様の協力を呼びかける必要があるだろう」とPete Betts氏は述べた。
ロイター