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日本の「経済安保相」に期待=米中の仲介役果たせ―米ハーバード大専門家に聞く

(AFP)
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30 Dec 2021 04:12:19 GMT9
30 Dec 2021 04:12:19 GMT9

ワシントン時事: 米ハーバード大の日米関係プログラム所長を務めるクリスティーナ・デイビス氏は時事通信のインタビューに応じ、米中摩擦が経済に一段と影響を及ぼすとの見方を示した。岸田内閣が「経済安全保障担当相」を初めて設置した対応を評価。日本が米中の仲介役を担うことに期待を示した。

―主要国が自国産業や技術を敵対国から守る「経済安保」を重視している。

各国政府が貿易に介入する傾向が強まり、政治的に対立する相手国に貿易障壁を設けるケースが見られる。新疆ウイグル自治区での人権侵害を理由に米国が中国に制裁を科したり、リトアニアでの台湾代表機関開設を理由に中国がリトアニアからの輸入を制限したりした。これらの措置は市場アクセスを不安定にしている。

輸出制限も行われている。中国はかつて対日措置としてレアアースの輸出を制限し、日本が半導体製造に使われる材料の対韓国輸出を制限した例もある。政治的な理由があるにせよ、経済活動を鈍らせることになる。

―経済安保は経済成長を阻害する要因になるか。

現時点で成長の妨げにはなっていないとみている。世界の貿易は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)から確実に回復し、中国への投資も増えており、経済活動が完全に停止するとは考えていない。ただ、将来的には阻害要因になり得る。各国間で過剰な貿易制限措置が続けば、雇用創出の機会を奪いかねない。産業界は、世界経済のブロック化が進むのか、それともグローバル化が進むのかを注視している。

―米国はサプライチェーン(供給網)から中国製品の排除を進めている。米中経済の「デカップリング(切り離し)」は進むか。

国家安保上重要な産業でデカップリングが進んでいる。米国としては半導体や高速大容量規格(5G)の通信インフラが重要であるというコンセンサスが得られつつある。これに対して中国は内需拡大を柱に海外からの投資や貿易の促進を狙う「双循環」政策にかじを切った。国内自給率を高める政策を採用し、経済のデカップリングに備え始めた。だが、米中間で貿易や投資が活発に行われているのも事実で、互いに米中貿易協定を軸に成長の機会を求めていくだろう。

―世界的に技術競争が激しさを増す中、主要国は半導体など戦略物資に大規模投資を行い、囲い込みを図っている。

米国がオープンな政府調達を行わず、自国優先の産業政策を採用する中で、中国に開放するよう説得するのは非常に難しい。バイデン政権は、中国の習近平指導部が巨額補助金をつぎ込むハイテク産業育成戦略「中国製造2025」が市場競争をゆがめていると批判するが、米国を含む主要国も国内産業に補助金を支給すると言い始めている。こうした補助金拡大競争は無駄な支出を招き、競争力向上につながらない可能性もある。

―日本の岸田政権は初めて「経済安保担当相」を置いた。

担当相を置けば、貿易に政治が介入する中で、外交政策と産業政策を調整するのに役立つかもしれない。中国通信機器最大手・華為技術(ファーウェイ)が日本で高速大容量規格(5G)インフラを提供することを認めるかどうか判断するには、ファーウェイ排除を求める同盟国・米国の方針だけでなく、日本の企業や消費者の意見も尊重しなければならない。外交、商業双方の利益に配慮した政策が求められるためだ。

―日本企業が強みを発揮できる分野は。

パンデミック下でデジタル化が進み、電気機器メーカーのファナックをはじめとする大手ロボットメーカーが世界で活躍している。半導体産業では台湾や韓国企業が先行していると言われるが、半導体材料で世界トップレベルのシェアを持つ日本の化学メーカー、JSRも非常に重要な役割を果たしている。

農業の輸出にも期待できる。かつて日本の農業は競争力がないとされていたが、安倍元政権が2030年までに5兆円を輸出する目標を掲げた。付加価値の高い和牛や日本茶の人気は高い。環太平洋連携協定(TPP)発効に伴って競争は激化しているが、日本の農業はニッチな分野で強みを発揮できる。

―1980年代に日米貿易摩擦が起きた際は、各国が多国間貿易への関与を強め、さまざまなルールで対立解消に努めた。2022年に主要国は多国間の枠組みをどのように活用すべきか。

貿易に対する政治の過度な介入を避けるために多国間枠組みでの議論が欠かせない。日米欧は中国の国有企業に対する補助金問題を懸念しており、補助金の透明性や規制について話し合うべきだ。中国がWTOに加盟して12月で20年を迎えた。多国間の国際ルールを刷新できない限り、貿易戦争の火種はくすぶり続ける。

―米国が多国間の自由貿易体制に背を向ける中、中国と台湾がTPPへの加入を申請した。

TPPは高い自由化水準を設けており、中国や台湾の加入を許可する場合、加入後に履行状況を検証する制度を合わせて重視すべきだ。中国がWTOに加盟した後の10年間、WTOは中国の履行を毎年評価した。中国は経済規模が非常に大きく、国有企業も多いため、監視を強化する必要がある。

TPPは、中国などアジア15カ国が参加する地域的な包括的経済連携(RCEP)に比べて自由化水準が極めて高く、電子商取引分野で「データ越境流通の自由」「データ・ローカライゼーション要求の禁止」「ソース・コード開示要求の禁止」の三原則を設けた。これらで中国に例外扱いを認めるべきではない。

―TPPを主導する日本は今後、中国の加入申請にどう対応すべきか。

日本は中国と台湾の加入を同時に認めるべきだと考える。まずはTPPの枠組みを強化して中国にルールを順守させることが重要だ。中国の加入を先に認めれば、(中国の反対で)台湾の加入が難しくなり、台湾に生産が集中する半導体のサプライチェーンが機能しづらくなる。台湾を排除するような自由貿易ルールは中国や世界にとって効率的ではない。日本はかつて、中国と台湾のWTO同時加盟を推進し、アジア開発銀行(ADB)への参加も支持した。経済安保の観点で日本が果たす役割は大きい。

―米国がアジアで影響力を拡大する方策は。

TPPは米国の復帰を前提にした枠組みになっており、米国は早期に戻るべきだ。バイデン米政権は「インド太平洋の経済枠組み」を新たに提唱しているが、別のフォーラムを作ることは、TPPやWTOをないがしろにする行為とも言える。もし米国がTPPに復帰したら、高い自由化水準を維持して中国をけん制できる。

―米中対立が続く中で日本の役割は。

日本は同盟国である米国、最大貿易相手国である中国のいずれとも敵対する立場を取りづらく、米中対立を仲介する役割が求められる。中国が尖閣諸島や南シナ海で挑発的な軍事行動を続ければ、日本にとって大きなリスクになる。国際社会で中国が孤立しないように配慮することも必要だ。日本政府は、人権問題で中国を批判することは非常にセンシティブであるという認識も持っている。

―海外での重大な人権侵害行為に制裁を科すための「日本版マグニツキー法」は必要か。

米国のようなマグニツキー法がない現在でも、日本は既存の法律で中国を念頭に外交や経済面で圧力をかけることができる。欧米を参考にして日本版マグニツキー法を作ることもできるが、政治的な理由で貿易や投資を制限する法律を作る場合は、恣意(しい)的な運用を避けることが重要だ。

◇クリスティーナ・デイビス氏

ハーバード大の日米関係プログラム所長。専門は国際貿易や日本と東アジアの外交。米プリンストン大大学院教授を経て、2018年にハーバード大政治学部教授、20年から現職。

時事通信

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