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ネットゼロへの道のりにおいて、サウジアラビアはいかにして二酸化炭素回収のリーダーとなりうるか

エネルギーの専門家であるポール・サリヴァン氏は、「二酸化炭素のバランスと炭素循環のアンバランスにこそ注目すべきです」と語る。
エネルギーの専門家であるポール・サリヴァン氏は、「二酸化炭素のバランスと炭素循環のアンバランスにこそ注目すべきです」と語る。
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01 Mar 2023 02:03:20 GMT9
01 Mar 2023 02:03:20 GMT9

ラワン・ラドワン

リヤド:二酸化炭素排出量のネットゼロという目標の達成と、気候変動による影響の緩和に向けた取り組みを各国が強化する中、特に石油・ガス産出国は、環境に優しいエネルギー源へ迅速に移行し、その石油資産を地中に放置するよう大きなプレッシャーにさらされている。

これは決して小さな挑戦ではない。そのため、このような国のエネルギー産業にとって二酸化炭素回収技術は重要な生命線である。そしてサウジアラビアは、二酸化炭素回収分野の世界的リーダーとして台頭する可能性を秘めている。

二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)は、二酸化炭素を除去・貯留し、天然ガスの品質を向上させる技術として、数十年にわたり利用されてきた技術である。二酸化炭素回収技術を用いれば、排出量を削減するのと同時に切迫する世界のエネルギー需要を化石燃料が満たすことを確保し、2050年までのネットゼロ目標達成を支援する仕組みを提供でき、複数の目標を達成することができる。

ブルームバーグによると、今年、二酸化炭素回収・貯留プロジェクトに対する世界の投資額は64億ドルに達する見込みである。

最も自然に二酸化炭素を回収する方法は、太古の昔から存在する光合成だ。これは、樹木や植物が大気中の二酸化炭素を吸収し、酸素とエネルギーに変換する過程である。

サウジアラビア政府は、2030年までに国内外に500億本の木を植えることを目標として、サウジグリーン活動や中東グリーン活動などのさまざまな植林活動を開始している。だが、これだけでは不十分であり、できるだけ効率的に二酸化炭素の排出を減らすべく他の方法がどうしても必要となる。

国際エネルギー機関(IEA)によると、効果的なCCUS技術は、排出された二酸化炭素を排出源または大気から直接を捉える。こうして集められた二酸化炭素は、地中深くに貯蔵されたり、価値ある製品に変換するために処理されたりする。

IEAは、世界で300以上の炭素回収施設が開発中であると認識している。これには、オーストラリアのゴーゴン二酸化炭素注入プロジェクト、カナダのアルバータ炭素トランクラインに接続する2つの回収施設、日本初の大規模バイオエネルギーおよび炭素回収プロジェクト、中国のシノペック化学工場および國華錦界石炭火力発電所の回収施設、サウジアラムコのウスマニヤプロジェクトおよびハウィヤガス工場などが含まれる。

サウジアラビアは、排出量削減への取り組みに高いハードルを設定しており、2035年までに年間4400万トンの二酸化炭素回収目標を発表している。アラムコは同国エネルギー省と協力し、2027年までにジュバイルに年間最大900万トンの貯蔵能力を備えたハブを設立する予定である。

一方、1月中旬、アブダビ国営石油会社は、フジャイラ天然資源公社、アラブ首長国連邦所在のクリーンエネルギー企業であるマスダール、およびアラブ首長国連邦の脱二酸化炭素企業である44.01と共同で、アラブ首長国連邦のフジャイラにおいて、二酸化炭素を岩盤に「鉱物化」して大気中から除去するプロジェクトに着手した。

処理産業向けのソフトウェアおよびサービスを提供するアスペンテック社の持続可能性ソリューション戦略・実現担当総合マネージャーであるヴィカス・ドール氏は、中東は全体として、二酸化炭素削減の取り組みにおいて主導権を握るためには理想的な立場にあるという。

ドール氏はアラブニュースに対して、「サウジアラビアとアブダビによるこの2つの活動は、地域的にも世界的にも大きな影響を与えるでしょう」と語った。「中東は、大規模な太陽光発電を行うために理想的な地形をしているので、このような取り組みに活用できます。これらを合わせることで環境に優しいエネルギーによる二酸化炭素除去が実現できます」

中東は二酸化炭素回収の世界的リーダーとなれる地位にある。(AFP)

アラムコは近時アスペンテックとの提携を発表した。これにより、世界中の企業がアラムコが開発した二酸化炭素回収ソフトウェアを利用できるようになり、この新技術は、サウジアラビアをはるかに超えて影響を及ぼすこととなった。

ドール氏は、アスペンテックも同社のソフトウェア機能を数多くの事業と統合し、鉱物化などさまざまな二酸化炭素貯留活動の長期的な結果を予測できるようにする取り組みを行っていると述べる。

「要するに、この地域で近時なされた発表は、非常に大きな影響を与えると予想されます」と彼は付言する。

近年、CCUSの機運は高まっている。二酸化炭素回収によって2050年までに温室効果ガスの排出量を削減するという世界目標の14%を達成できると推定されており、また二酸化炭素回収は、産業セクターにおいて深い水準の脱炭素化を実現できる唯一の現実的手法とみなされている。

気候変動に関する政府間パネルは、昨年発表した報告書の中で、気候変動との戦いにおいて、炭素排出量の大幅な削減だけではもはや十分ではなく、気温上昇を抑えるためにネガティブエミッション技術が必要であると結論づけている。

ドール氏は、排出量削減の取り組みという点で確かに世界は「出遅れ」ていると考えているが、これは掴むべき機会であると見ている。

彼は「エンジニアリングの革新とデジタル化の革新、そしてサウジアラビアやアブダビなどの企業の資金力を組み合わせることによって、従来よりもはるかに迅速に規模を拡張できるチャンスがあります」と語る。「そして、地域を超えて二酸化炭素除去・貯留サービスを提供するというのは、非常に収益性の高いチャンスです」

「二酸化炭素回収・有効利用・貯留は、現在、技術的には実証済みであり、採算面も急速によくなりつつあります。もしこのプロジェクトが完全にデジタル化され、初期プロジェクトが将来のプロジェクトに反映され、技術面、採算面、実行速度が改善されれば、これは重要な『特効薬』のひとつになるでしょう」

「アスペンテックが業界に導入したエンドツーエンドのデジタル経路によって、これら全てが実現できます」

キング・ファイサル研究・イスラム学センターの上級研究員兼大西洋評議会グローバル・エネルギー・センターの非常勤研究員であるポール・スリヴァン氏によれば、二酸化炭素回収技術は幅広い利用ができるものの、未だ使用コストが高く非効率的である。

スリヴァン氏はアラブニュースに対して次のように語った。「状況は改善されつつあり、さらに改善できるでしょう。サウジアラビア、アラブ首長国連邦、およびそのパートナーが協力すれば、二酸化炭素回収や回収した二酸化炭素の利用方法を改善できます。特効薬などというものはありません」

「大気中の二酸化炭素のほとんどは、海や木などの自然の吸収源に吸収されます。ですがそれだけでは十分ではありません。さらに、海などの水域での二酸化炭素が増加したことで酸性化が生じ、サンゴ礁などにダメージを与えています」

「二酸化炭素の問題を解決するには、エネルギー産業、農業、運輸などのさまざまな部門を巻き込んだ多面的かつ長期的・戦略的なアプローチが必要です。シンクタンクや大学、産業界の垣根を越えた協力が求められるでしょう。二酸化炭素のバランスを改善するための新発明には、大きな賞が与えられるべきです。あらゆる産業や分野がこれに参画できるでしょう」

企業、エンジニア、および科学者は二酸化炭素回収技術を開発するために長い道のりを歩んできたが、これらの技術を有効に活用し、排出量の抑制や大気中の二酸化炭素の削減に大きく貢献するには、まだ多くの課題が残されている、というのが大方の同意するところであるようだ。

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