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中東におけるEV普及を牽引するサウジアラビアの投資

中東でEV需要が加速する中、サウジアラビアの公的投資基金が過半数出資する米国のEVメーカー、ルーシッド・グループは、サウジに初の国外工場を設立する予定。(AFP)
中東でEV需要が加速する中、サウジアラビアの公的投資基金が過半数出資する米国のEVメーカー、ルーシッド・グループは、サウジに初の国外工場を設立する予定。(AFP)
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12 Mar 2023 04:03:00 GMT9
12 Mar 2023 04:03:00 GMT9
  • EV製造に対するサウジの投資は今後10年間で500億ドルに達すると予測されている
  • 2030年までにはリヤドを走る車の少なくとも30%がEVになると見込まれている

ジュマナ・ハミス

ドバイ:中東の電気自動車(EV)市場はまだ初期段階にあるが、政府や消費者は内燃エンジンからの移行を受け入れつつあり、新車種の世界展開によって地域におけるEV普及が加速している。

ゴールドマン・サックスによる新しい調査は、2035年までに世界の新車販売台数の約半数がEVになると予測している。ゴールドマン・サックス・リサーチによるレポートは次のように述べている。「EV部門はいくつかの大きな逆流に悩まされているものの(…)今後数年で技術革新がそれらを凌駕すると当社のストラテジストは予想している」

一方、競争の高まり、政府の優遇措置、バッテリー関連製品や車両部品の価格低下などによってEVはより手頃な価格になってきており、年末までに少なくとも一部の車種は内燃エンジン車と同程度の価格になる可能性が高まっている。

現時点ではイーロン・マスク氏のテスラが中東のEV市場をリードしているが、MG ZS EV、ルノーZoe E-Tech、ボルボXC40リチャージ・ピュア・エレクトリックなどや、最近発売されたスウェーデンのポールスターのEV車種も見られる。

アラブ湾岸諸国を含む世界中でのEV普及への注力の高まりは、化石燃料から再生可能エネルギー源への移行を加速することで今後数十年のうちに二酸化炭素排出量実質ゼロ目標を達成するという各国の確約によって主に後押しされている。

しかし、その移行は一朝一夕では起こらないだろう。十分な航続距離を確保して消費者にEV購入へのインセンティブを与えるために、湾岸諸国はEV用充電ステーションの数を大幅に増やす必要がある。

MGモーター・ミドルイーストのマネージング・ディレクターであるトム・リー氏はアラブニュースに対し次のように語る。「中東のEV市場は、消費者に長い航続距離を提供するためのインフラ構築をはじめとする政府主導の継続的な改革を主な要因とした成長が期待されます」

市場調査会社モルドールインテリジェンスによると、中東・アフリカのEV市場の規模は2021年には4025万ドルで、2027年までに9310万ドルに達し、予測期間内の年平均成長率が15%以上を記録すると予測されている。

世界のEV市場が新型コロナパンデミック中に大きな不振に見舞われたことを考えると、これは目覚ましい数字だ。コロナ禍では製造拠点の閉鎖や世界的な半導体不足が起こり、各産業への影響は今日まで続いている。

「電気自動車イニシアティブ」が発表した「グローバルEVアウトルック」によると、その後ゼロエミッション車の販売台数は世界的に回復して2021年には前年比2倍となり、過去最高の700万台弱を記録した。これは自動車全販売台数の10%に相当する。

この傾向は2022年も同様で、世界のEV販売台数は着実に増加し、第1四半期だけで200万台を記録した。2023年のEV市場収益は3億2250万ドルに達すると予測されている。

リー氏はアラブニュースに対し、「(中東の)消費者の知識は、湾岸協力理事会(GCC)諸国の再生可能エネルギー計画やEV価格の低下に牽引されて急速に高まっています」と話す。

このような意識は、UAEで(同国の「サステナビリティ年」である)今年の11月に国連気候変動会議(COP28)が開催されることでさらに高まりそうだ。UAEの製造計画も大きな投資機会だとリー氏は言う。

現在、ドバイ道路交通局のタクシーの約50%をエコカーやハイブリッド車が占めており、2027年までにドバイの道路を走るタクシーを全てハイブリッド車、EV、水素自動車にするための5年計画が始動している。

2016年に創業した中東初のモビリティ企業で、自動運転スーパーアプリを提供するEkarは、EV化の流れに乗って、レンタル用に提供する車としてテスラ車をドバイで10台、アブダビのマスダール・シティで5台追加した。

Ekarの共同創業者でCEOのヴィルヘルム・ヘドベルグ氏はアラブニュースに対し次のように語る。「EVはカーシェアリングに特に適しています」

「EVは内燃エンジン車と比較すると可動部が少ないのです。内燃エンジン車の場合は様々な場面で故障、メンテナンスの必要、不具合などが発生するため、EVの方がオフロード時間がずっと少なくなります」

UAEに現時点で設置されている約325のEV充電ステーションでは、同国に登録されている全EVの1%以下にしか対応できない。しかし、道路を走るEVの数は今後2~3年で増えるとヘドベルグ氏は見る。

同氏は、「EVへの対応度を算出する世界ランキングがあるのですが、UAEは世界8位にランクされています」と話す。EV市場シェアではノルウェー、中国、ドイツ、シンガポール、イギリスが上位5ヶ国を占めている。

「UAEでは既にインフラ整備が始まっている(ため)、正しい方向に向かっています」

EV製造に対するサウジの投資は今後10年間で500億ドルに達すると予測されている。また、今後7年間でリヤドを走る車の少なくとも30%がEVになることが見込まれている。

サウジアラビア初の国産EVブランドであるCeerの広報担当者はアラブニュースに対し、「サウジの人々は自分の車に強い愛着を持っており、クラシックカーや象徴的な車種は非常に人気があります」と話す。

サウジの人々は「テクノロジーにも強い愛着を持っている」ため、新しい概念を受け入れることにも前向きなのだという。

「ダンマン、ジェッダ、リヤドの道路でバッテリーEV(BEV)を目にすることがあります。サウジアラビアでは現在、多くのブランドは正式にはBEVを販売していないにもかかわらずです」。BEVとは、ガソリンエンジンを持たず再充電可能なバッテリーを備えた完全電動の自動車のことだ。

この広報担当者は、Ceerが実施した消費者インサイトに関する調査によって同社のEVラインナップに対する高い関心が明らかになったとして、次のように語る。「この関心は、弊社EVの象徴的なデザインやインフォテインメント機能によるものですが、コストパフォーマンス、総所有コスト、持続可能性に関連したテーマへの意識の高まりなど、他にも多くの要因が関わっています」

サウジアラビアの登録車両は2020年には1500万台以上あり、その5分の4は自動車または軽自動車だった。サウジ省エネルギーセンターによると、同国の運輸部門が消費するエネルギーは2020年には国内の全エネルギー消費量の約21%だった。

  • サウジアラビアは公的投資基金(PIF)を通してルーシッド・グループ株の61%を保有している。紅海沿岸のキング・アブドゥラー・エコノミック・シティに建設予定のルーシッド初の国外製造工場では、最初は米アリゾナ州で製造されたルーシッド・エア車両「キット」の組み立てが行われる予定。
  • この工場では最終的に完全な車両の製造が行われる予定で、ピークキャパシティは年間15万台を見込んでいる。昨年末には、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子殿下によってサウジアラビア初の国産EVブランドであるCeerモーターズが立ち上げられた。
  • 同じくPIFが出資するCeerは、サウジアラビアでEVを製造する初めての自動車ブランドとなる。同国は、国内や中東・北アフリカ地域の消費者向けに様々なEVを販売することを計画している。2025年からの提供を見込んでいる。
  • 年間17万台の製造目標を掲げているCeerは、地域で最大3万人の直接・間接雇用を創出し、2034年までにサウジアラビアのGDPに直接80億ドルの貢献をすると見込まれている。
  • サウジアラビアのQiddiya、Roshn、NEOMなどのギガプロジェクトは、キング・アブドゥラー・エコノミック・シティのルーシッドとCeerの工場で製造されることになるEVの導入を計画している。

シュナイダーエレクトリックのサウジ・イエメンクラスター社長であるモハメド・シャヒーン氏は、従来のガソリン車からEVへの移行を支えるためには強力なエネルギー管理インフラが必要不可欠と見る。

同氏はアラブニュースに対し、昨年中東で発売されたEVlinkスマートチャージャーは、将来に向けたより持続可能なエネルギーマトリックスの構築に寄与する数多くの次世代製品の一つに過ぎないと話す。

シャヒーン氏によると、エコカーのコストは以前に比べれば著しく下がったものの、路上を走るEVの数を単に増やすだけでは二酸化炭素排出量削減には十分でないという。

同氏は次のように語る。「エネルギー消費の最適化を目的としてEV充電デバイスの使用を監視し、管理し、最終的に制限できるスマートで持続可能な充電体験は、EVをよりクリーンにすることに貢献できます」

ボストンを拠点とするエナジーセイジによると、ガソリン車の燃料コストと比較するとEVの充電コストは1マイルあたり約3.5倍安いという。

シャヒーン氏は、「長期的に見ればEV充電は費用対効果が高いことを理解する必要があります」と話す。特に、より持続可能な製造プロセスを構築するための措置が取られればそうなるという。

しかし、中東においてEV普及に向けた社会の準備が進んでいるとは言っても、最終的には消費者がガソリン車からEVに乗り換えたがるかどうかが決定要因となるだろう。

MGモーターズのリー氏によると、人々が「従来のエンジン車で馴染んでいるのと同じ信頼性と快適さ」を求めていることが調査で示されている。

「EV価格の低下とガソリン価格の上昇にともなって市場に根本的なシフトが起きています」

同氏は、消費者の意思決定に影響を与えた要因として2022年の燃料価格変動に言及しつつ、中東におけるEV販売台数は2026年までに約4万5000台に上る見込みだと言う。

Ekarのヘドベルグ氏によると、燃料費の利点とは別に、一般にEVの再販価値は高いため健全な投資として見る人が増えているという。

同氏はアウディ・アブダビ委託の調査が示した消費者マインドの変化に注目する。UAE居住者の52%がEV購入を検討しているという。

「しかし私の世界観では、人は車を所有すべきではありません」と同氏は言う。「服を扱うように車を扱い、車が必要な様々な場のために車を取り替えるべきなのです」

研究によると、車が1台シェアされると路上から個人所有の車が17台減るのだという。

近年、カーシェアリングのトレンドが欧州各都市で盛んになっている。より持続可能なライフスタイルで過ごしたい人々の間で共感を呼んでいるのだ。

中東にはまだそのようなトレンドは来ていないが、向かうべき方向はEVや新エネルギー車だというのが自動車業界幹部らの一致した見解だ。

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