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再生可能エネルギーへの移行は「止まらない」が化石燃料は「すぐにはやめられない」:フランチェスコ・ラ・カメラIRENA事務局長

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)のフランチェスコ・ラ・カメラ事務局長にインタビューする、フランクリー・スピーキングの司会者ケイティ・ジェンセン(左)。
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)のフランチェスコ・ラ・カメラ事務局長にインタビューする、フランクリー・スピーキングの司会者ケイティ・ジェンセン(左)。
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13 Mar 2023 08:03:33 GMT9
13 Mar 2023 08:03:33 GMT9
  • 国際再生可能エネルギー機関(IRENA)事務局長は、UAEで開催されるCOP28は「歴史的なものになるだろう」と言う
  • ラ・カメラ事務局長は、有数のグリーン水素輸出国になるという「サウジアラビアの野心には疑いを持っていない」と語る

アラブニュース

ドバイ:世界が既存の供給ラインを混乱させることなくグリーンエネルギーへと移行するためには、化石燃料からの脱却は段階的なプロセスでなければならない。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)のフランチェスコ・ラ・カメラ事務局長がアラブニュースに対し語った。

ラ・カメラ事務局長は、アラブニュースの番組「フランクリー・スピーキング」の司会者ケイティ・ジェンセンに対し次のように語る。「集中的で化石燃料に基づいた古いシステムをすぐにはやめられないことを理解しなければならない」

「石油や天然ガスはゆっくりとやめていくことになる。石油や天然ガスからの円滑な脱却を維持するためには、引き続き石油や天然ガスにある程度の投資をする必要がある。そうしなければ混乱が生じるだろう」

化石燃料から太陽光、風力、水素、地熱などの再生可能エネルギーへの着実な移行は、先進国への安定したエネルギー供給の維持に貢献するとともに、途上国のエネルギー需要を満たすこともできると、ラ・カメラ事務局長は言う。

「あらゆることのバランスを取る必要がある。開発のために必要なエネルギーの需要があることを理解しなければならない。その需要は特にアフリカや東南アジアで増していくだろう」

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)のフランチェスコ・ラ・カメラ事務局長にインタビューする、フランクリー・スピーキングの司会者ケイティ・ジェンセン(左)。

エネルギー転換のための政府間組織であるIRENAは、各国のエネルギー移行の支援や、技術、イノベーション、政策、金融、投資などに関するデータや分析の提供を行っている。

2019年4月からIRENA事務局長を務めているラ・カメラ氏は、より行動指向的なアプローチを実施するために、国連開発計画(UNDP)、国連気候変動枠組条約事務局(UNFCCC)、緑の気候基金などの国連機関との一連の戦略パートナーシップの形成に貢献してきた。

しかし、イタリアの外交官である同氏は、エネルギー移行のペースについては現実的な見通しを示す。特に、ウクライナ戦争という背景のもとではそうせざるを得ないという。この戦争によりエネルギー価格が世界的に高騰したため、安価だがクリーンではない石炭などのエネルギー源の再導入に追い込まれた国もいくつかある。

環境保護主義者は、大半の国が化石燃料を段階的に削減している中で欧州諸国やイギリスが最近になって炭鉱を再開する動きを見せていることを受け、先進国の偽善を非難している。

「ごく短期的には、各国はエネルギー供給の崩壊や混乱を避けるためにできることをやろうとしている」とラ・カメラ事務局長は言う。「それは場合よっては炭鉱の再開であったりもするが、私が知る限りでは新しい炭鉱への投資は行われていない」

しかし、それらはロシアの石油・天然ガスに対する欧米の制裁によって引き起こされたエネルギー価格高騰に対応するために実施されている短期的な措置に過ぎないとラ・カメラ事務局長は見る。グリーンな再生可能エネルギーに向けた長期的な道筋は「止められない」という。

「我々がウクライナ危機という時代を生きていることを理解しなければならない。各国はロシア産天然ガスの欠如に対応する必要があるのだ。ごく短期的な対応と中長期的な対応は常に区別しなければならない」

「短期的には、各国は国民が必要な暖房・冷房を奪われる事態を避けるためにできることをやろうとしている(…)ロシア産天然ガス不足の救済策を見出そうとしているのだ。しかし中長期的な政策は非常に明確だ。我々は後退しているわけではない」

「昨年は再生可能エネルギーへの投資にとって記録的な年だった。再生可能エネルギーの新規設置容量において新記録が更新されたのだ。新規設置容量に占める再生可能エネルギーの割合は現在81%に達している」

「このプロセスは止められない。現在の唯一の問題は向かうべき方向ではない。それは明確であり変えることはできない。問題はこの転換のスピードと規模だ。パリ協定の目標と国連の持続可能な開発目標を実現できるペースになっていないからだ」

パリ協定は2015年に採択された国際気候条約で、気候変動に関する緩和、適応、資金などを対象としている。この協定の最重要目標は、世界の平均気温の上昇を産業革命前の水準から2℃未満にするとともに、1.5℃に抑制するよう努力することだ。

「我々はパリ協定の目標に沿うことができていない」とラ・カメラ事務局長は言う。「非常に明確に言えるのは、2030年までにエネルギー移行に57兆ドルを投資する必要があるということだ。今のところ全くそれに達していない。2030年までに再生可能エネルギーの設置容量を3倍にする必要があるが、このままでは実現しそうにない」

「その資金をどこから持ってくるのか。それについて我々は明確な考えを持っている。市場には多くの流動性がある。我々の観点では、グリーン水素などに対する需要を活性化するための適切な政策が現在実施されていないことが問題だ」

「新たなエネルギーシステムの構築を支えるのに必要なインフラに対する注目もまだ十分ではない。インフラというのは、物理的、法的、制度的キャパシティや専門的技能のキャリアのことだ」

サウジアラビアは2060年までに二酸化炭素排出量実質ゼロを達成すると宣言しており、「サウジ・グリーン・イニシアティブ(SGI)」の一環として気候変動対策に10億ドルを投資することを約束している。SGIは、よりグリーンな未来を作るための取り組みの一環として、二酸化炭素回収・貯留のための地域センター、嵐の早期警報のためのセンター、クラウドシーディング(人工降雨)プログラムなどの設立を目指している。

ムハンマド・ビン・サルマン皇太子殿下は、2030年までに4億5000万本の植樹と800万ヘクタールの荒廃した土地の再生を行うことで二酸化炭素排出量を2億トン削減する計画を発表した。今後数年間で追加のイニシアティブも発表されるという。

また、2030年までに国内の電力需要の50%を再生可能エネルギーで、残り50%を天然ガスでまかなうという目標も発表されている。

サウジアラビアは、太陽光や風力などの自然エネルギーのポテンシャルを活用する大規模な再生可能エネルギープロジェクトをいくつか立ち上げている。実用規模の太陽光発電プロジェクトとしては国内初のサカカ太陽光発電所や、実用規模の風力発電プロジェクトとしてやはり初のデュマト・アル・ジャンダルなどだ。

それに加え、サウジアラビアは世界有数の水素生産・輸出国になることを目指している。サウジアラムコとSABICは2020年、日本エネルギー経済研究所とパートナーシップを結び、サウジアラビアから日本に向けて世界初のブルーアンモニア輸送を行うと発表した。

紅海沿岸に具体化しつつあるサウジアラビアのスマートシティ・ギガプロジェクトNEOMも、世界最大級のグリーン水素プラントの建設計画を発表している。

「彼ら(サウジアラビア)はグリーン水素に関する野心を持っている」とラ・カメラ事務局長は言う。「石油や天然ガスではなくグリーン水素を売るための契約を結ぶ用意ができているのだ。問題はまだ需要がないということだ。だから、需要を持ったパートナーというのが実現のために考慮すべき要素の一つであるはずだ」

それでは、水素を現実的な代替エネルギー源にするべく水素製品への需要が高まるよう促すために何ができるだろうか。

「第一には産業政策だ」とラ・カメラ事務局長は言う。「先進国やその他の国は、化石燃料の代わりにグリーン水素に対する需要を優遇する産業政策を行うことができる。これは非常に重要なことで、法的環境が決定的に重要だということだ」

「一方、生産するグリーン水素を市場に持っていくためのインフラも必要だ。北アフリカにはパイプラインが5本あるが、天然ガスではなく水素を輸送するために転用できる可能性がある。アンモニアを運ぶための船舶を増やすこともできるかもしれない。各国が効率的にエネルギーをやり取りできる電力ダクトを考えてもいい」

「こういったあらゆる措置が包括的なパッケージの要素として、うまくいけば各国の対応を加速するかもしれない。繰り返すが、サウジアラビアの野心には疑いを持っていない。UAEの野心にもだ。他の湾岸諸国もこのトレンドに乗って迅速に動いている」

国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)は今年の11月30日から12月12日までUAEで開催される。アラブ世界での開催は、エジプトが議長国を務めた昨年に続いてまだ2回目だ。

ラ・カメラ事務局長は、今年の会議への参加国は宣言や約束だけでなく、温室効果ガス排出量削減や再生可能エネルギーへの移行のための協調的な行動を取らなければならないと考える。

「全員に議論に加わってもらう必要がある。石油・天然ガス企業、政府、経済的な観点から天然ガスを重視している国々、彼らが議論に加わらなければならない」

「UAEとサウジアラビアは既に再生可能エネルギーへの移行に大きな野心を示している。これはより低いコストで発電できる方法だ。また、湾岸諸国は独自の水素戦略を打ち出して二酸化炭素排出量実質ゼロに向けて取り組んでいる」

「初めてのことだが、UAEで開かれるCOPは我々が軌道に乗っていないことを証明するだろう。今回のCOPは現在地とこれから向かうべき場所の間のギャップを埋める方法を考え出さなければならない。IRENAはCOP28を越えてこのようなストーリーを作り上げることで、他の全ての国を資金調達の妥協案に導くうえで議長国が土台とすることができるものを提供しようと努めている」

「今回のCOP28は歴史的なものになると我々は確信している」

多くの方面で悲観論が広がっていることを考えると、再生可能エネルギーへの移行やアラブ湾岸産油諸国が果たす積極的な役割についてのラ・カメラ事務局長の楽観論は心強い。

しかし、同事務局長は現状に満足しているわけではなく、クリーンエネルギーのより迅速で野心的な導入をCOP28やその先で推進し続けるつもりだ。

「再生可能エネルギーは中心的な役割を果たしており、今後も果たすだろう」とラ・カメラ事務局長は言う。「我々は、再生可能エネルギーが中心となりグリーン水素をはじめとする水素やバイオマスの持続可能な使用が補う新しいエネルギーシステムに向かって進んでいる」

「このプロセスを止めることはできない。問題は、いかにしてこのプロセスが必要なスピードと規模で進むよう維持するかだ」

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