

カリーン・マレク アブダビ
温室効果ガス放出による地球温暖化問題に取り組むにあたって人類が直面する最も困難な課題の一つが、クリーンで再生可能なエネルギーを必要な所に必要な時に競争に耐えるコストで供給するにはどうすればよいか、という問題である。
再生可能な形態のエネルギー、太陽光エネルギーは昼間にしか産出されないが、幸いなことにこのようなエネルギーも今ではノンストップで供給可能な電力に変換することができる。少なくとも理論的には、これにより地球のいわゆるサンシャインベルト上の国々の12億人の人に無限のエネルギーを供給する可能性が開かれる。
最先端のエネルギー貯蔵システムと太陽光や風力などの再生可能エネルギーを組み合わせることにより実現する再生可能エネルギーの効率的活用によって、多くの国において従来不可能だった方法で日常生活に必要なエネルギーを賄えるだけでなく、化石燃料への依存を減らすことができる。
最近中東において小さいが重要なステップが刻まれた。スウェーデンの太陽光エネルギー企業アゼリオがアブダビフューチャーエネルギー社 (マスダールシティ)及びカリファ科学技術大学と提携契約を結び、エネルギー貯蔵の新技術を評価するパイロット・プロジェクトを実施することになったのである。
「エネルギーは成長と富をもたらしますが、それにアクセスするにはテクノロジーが重要になってきます」と同社のCEOヨナス・エクリンド氏は述べる。
「電気がなければ現代社会の一員になることはできません。電気がなく、中央集権的な解決を待っていたら、電気が使えるようになるまでにおそらく40~50年はかかるでしょう。当社のソリューションを利用すれば来週からでも電気が使えます」
アブダビのチームは、太陽光・風力エネルギーを利用するプロジェクト及びオフグリッドソリューションを提供するプロジェクトのためにアゼリオのエンジンシステム「スターリング (Stirling)」と「統合的熱エネルギー貯蔵」ソリューションを検証・実証しようとしている。
検証によって現在及び将来のエネルギープロジェクトにこの技術が利用できるかどうかが明らかになる。
エクリンド氏は語る。「私たちが取り組んでいるのは広い意味での再生可能エネルギー、つまりその源が限定されないあらゆるタイプの再生可能エネルギーを対象とする貯蔵技術です」
「当社の技術は大量のエネルギーを貯蔵し次にそれをオンデマンドで電気に変換します。そして消費者は使いたい時に電気を手に入れます」
アゼリオによれば、この「送電量ベースのロード」は消費者の近くに配置される小規模ユニットを通じて行うことができ、これにより複雑な国単位のグリッドシステムは不要になる。同社によると、スターリングエンジンに貯蔵関連の独創的イノベーションを組み合わせることにより再生可能エネルギーから産出された電力は24時間いつでも使えるようになる。
「例えば一つの工場、一つの村、一つのホテルあるいは一つの海水処理ユニットだけに対象を限定して必要な時に24時間いつでも電力を供給できるローカルなシステムを作ることも可能です。当社がこの技術に取り組み始めてすでに数年が経っており、実証段階はすでに超えています。スウェーデンにはユニットもあります」とエクリンド氏は語っている。
数字で見る
- 12億人- 世界中で電気のない生活を送っている人々
- 24 億人 - 十分な供給能力のない電力網を利用せざるを得ない人々
- 27.3 ギガワット- サウジアラビアが2024年までに実現を目指している太陽光・風力エネルギーによる発電量
- 40% -サウジの電力のうち石油の燃焼により得られた電力の割合(2016年)
- 400 メガワット - サウジアラビア、そして中東最大の風力発電プラント デュマト・アル・ジャンダルの発電能力
「当社は世界中の辺鄙な場所にある数えきれないほど多くの企業に信頼できる方法でエネルギーを提供しており、それにより最も純粋な形の再生可能電力が必要な時にいつでも使えるようになっています。持続可能な成長のチャンスはかつてないほど大きくなっています」
現在でも電気のない生活をしている人が世界には12億人もいて、十分な供給能力のない電力網を利用せざるを得ない人もおよそ24億人にのぼる。このような状況下でのアゼリオとマスダールシティ、カリファ科学技術大学との提携は非常にタイムリーなものと言えよう。
エクリンド氏は言う。「これらの人々は誰かが国単位の電力供給網を作ってくれるのを35年も待つ必要はありません。当社がベースとなるロードシステムを供給するソリューションを提供することができます」
現状では、安定した電力供給網を使えないコミュニティは発電機を使うことを余儀なくされている。発電機はディーゼルを燃やして発電する。
多くの場合、ディーセル燃焼を伴う設備に替えてアゼリオの提案するシステムを利用することが可能でそれは気候や環境にとって望ましいことである。しかもアゼリオによると新しいシステムの価格は従来のそれの半分以下ですむ。
アゼリオは今年末までに操業開始が予定されているモロッコの国営企業のためにこの技術を検証するプロジェクトを実施した。アブダビでのプロジェクトはアゼリオにとって2例目の海外プロジェクトである。
マスダールシティのサステナブル不動産を扱う企業で役員を務めるユセフ・バゼライブは語る。「マスダールシティはサステナブルな都市の開発とクリーンテクノロジーにおけるイノベーションの舞台として建設された都市です。私たちはアゼリオやカリファ大学と協力してこのプロジェクトの産業的実行可能性を検証することができることを嬉しく思います」
パイロットプロジェクトはカリファ大学マスダールシティキャンパスにあるサステナブル・バイオエネルギー・リサーチ・コンソーシアムで実施される。プロジェクトで産出されたエネルギーはプロジェクトの事務所とエネルギー貯蔵ユニットのエアコンディショニングに利用される。
「本プロジェクトはアゼリオのテクノロジーの一般的検証ですが、マスダールは同シティのプロジェクトにこのテクノロジーが組み込めるかどうかも検証したいと考えています。その意味でこのプロジェクトは特別な意味を持っています。マスダールでは多くの再生可能エネルギープロジェクトが実施されており、そのためのエネルギー、特に太陽光エネルギーが必要とされています。ところが太陽光エネルギーは通常夜には得られません。私たちは当社の技術を用いて真夜中でも太陽光エネルギーを供給することができます」とエクリンド氏は語った。
カリファ大学はテスト期間2期にわたって研究面での支援と専門性の提供を行う。研究者らによって収集されるデータは既存の「(太陽光や風力とは違って) 供給が途切れない (ディスパッチャブルな)エネルギーに関連する技術」について得られている知見と比較される。
「カリファ大学は研究を集中的に行う研究機関なので、新しい技術やソリューション、特にクリーンエネルギーの分野のそれらを検証し実証する場にはうってつけです」と同大学副学長アリフ・スルタン・アル=ハマディは語る。
エクリンド氏は北欧先進国でも風力・太陽光発電によるローカルな電力供給網は様々な問題に直面していると言う。
人々は昼間、自身のソーラーパネルで発電し、発電のない夜間に車を充電して電力を使い切ってしまう。「夜間の電力需要は大変大きくなります」とエクリンド氏は語り、現行のグリッドシステムはこのようなタイプの需要変動に対応するようには設計されていない、と述べる。
同氏によれば、これに対しアゼリオの技術による電力供給網は安定した電力供給を可能にし、新たに浮上してくる問題にも対応し得るものである。
アゼリオとの提携についてアル = ハマディ氏はこう語った。「カリファ大学のマスダール・インスティテュートは今後もエネルギー貯蔵、バイオ燃料、再生可能エネルギーマッピング、先進エネルギー、原子力エネルギーなどクリーンエネルギー関連分野における先駆的・先端的科学研究のための場であり続けるでしょう」
「同インスティテュートは研究機関としてこれからもクリーンエネルギー、先端的サステナブルテクノロジー分野における新たなソリューションを見出しつつ新しい道しるべを提示していくでしょう」