
アレクサンドラ・ドレイコット、アマンダ・エンゲレンドガイ
ドバイ:万博の歴史は長く、輝かしいものだ。その中でも都市の発展や世界最先端の建築物の構築に貢献したことは有名である。パリのエッフェル塔やシカゴの観覧車、フェリス・ホイールなどはその代表的な例といえるだろう。
このような永続的な貢献があるにもかかわらず、博覧会はほとんどが一時的なイベントである。世界各地の国を代表する精巧なパビリオンは期間限定で設置され、イベントが終われば無情にも撤去となる。
シカゴは1893年に開催された博覧会のために、ネオクラシック様式の壮大な、そして一時的な都市全体をつくりあげた。この有名な「ホワイト・シティ」は、将来の発展のための青写真となったが、建築された多くの建物自体は残されなかった。
これは万博においては珍しいことではない。パビリオンのための建築物は結局使われなかったり、解体されたりする。
しかし、ドバイではそうではない。2020年ドバイ万博においては、各国の専用パビリオンに加え、他の参加団体のパビリオンも、万博終了後もそこに長く残り続けることを前提に設計されている。
その斬新なコンセプトにより、コート・ダジュールに位置する都市国家、モナコの約2倍の広さの敷地に、200以上のパビリオンが設置されている。
会場は、イベントのサブテーマを反映した「オポチュニティ(機会)」「サステナビリティ(持続性)」「モビリティ(流動性)」の3つの「テーマエリア」に分かれている。
パビリオンの中には、参加国が設計・建設し、自国の建築物やデザインを紹介するものもあれば、開催国が組み立てた規格品の建物を利用するものもある。
多くのアラブ諸国は自国のパビリオンを建設し、その開発に多大な資源と労力を費やしている。場合により、UAEはその支援をしている。
湾岸協力理事会(GCC)の加盟国はもちろん、モロッコ、アルジェリア、レバノン、パレスチナ、エジプトなど多くの国が自前でパビリオンを建設している。
これらの多くは「オポチュニティ」エリアにあり、UAEとサウジアラビアのパビリオンに近い一等地に位置している。
中東の国が主催する初めての博覧会ということもあり、アラブ諸国はこの博覧会に全力を尽くしている。
敷地内の建築物は伝統的なアラビアのデザインを多く取り入れている。ただ、全体的な印象としては、シカゴのホワイト・シティのような、視覚的なまとまりは感じられない。
2020年ドバイ万博に参加する各国は、独自のデザインを自由に取り入れることができた。格子、中庭、日陰を演出する構造など、各地域の特色を生かしたデザインが施されている。
その結果、来場者の興味を引く、個性豊かなパビリオンがいくつも誕生した。
アラブのパビリオンデザインとそれに関連する建築は、大きく分けて2つの陣営に分類される。それは、歴史や文化を強調した「伝統的でありながら、革新的なもの」と、抽象的で実験的なものを重視した「表現的で独創的なもの」だ。
アルジェリアのパビリオンは、首都アルジェのカスバ(城塞)をモチーフにしている。これは前者のカテゴリーに属するといえる。
開催地ドバイにちなんで、アルジェを象徴する青と白の色調は、砂漠の色調に置き換えられている。
パビリオンのデザインは、アルジェリアの伝統的なスタイルを取り入れており、内部には中庭を設け、空気の流れを最大限に利用した設計となっている。
パビリオン内の中庭は静かで守られた空間となっているが、ファサードは伝統的なベルベル人の刺青を模したデザインでドラマチックに演出されている。
また「伝統的でありながら革新的でもある」例のひとつ、クウェートのパビリオンは、「サステナビリティ」エリアに設置された人目を引く金色の構造物である。湾岸の王国としては、これまでで最も野心的な博覧会への貢献といえるだろう。
ラクダや砂丘の映像が外部の大型スクリーンに映し出され、砂漠の生態をイメージさせるデザインとなっている。
ゴールドのテクスチャで埋められた外壁のパネルは、その砂漠の地形をモダンに表現している。パビリオンの中央には、資源保護のために地元で使われている給水塔が再現された。
もう一つの「伝統の表現者」であるモロッコは、風光明媚な「土の村」からパビリオンのインスピレーションを得た。
高さ34メートル、7階建てのパビリオンは、万博で最も高い建物の一つである。
ファサードは、モロッコで一般的なラメド・アース(版築)工法で作られており、厚い土の壁が室内の空気を冷たく保つため、本質的に持続可能なものとなっている。
各区域は中庭を囲むように配置されており、空中庭園など、モロッコの地域や生態系にちなんだ仕掛けが施されている。
オマーンのパビリオンでは、ドファール地方に自生する古代のフランキンセンス(香木の一種)を中心に、その伝統的なルーツへの敬意を表現している。
外観は、この博覧会のためフランキンセンスの木の独特な曲線をイメージして、2〜3年かけて構築された。
エントランスにはフランキンセンスの香りの除菌ミストを設置、また、フォトエリアでは床のパネルからほのかな香りがするミストが突然噴出し、来場者の驚きをカメラに収めるなど、最もクリエイティブな来場者体験を提供している。
バーレーンのパビリオンは、今回の博覧会で最も印象的で実験的なものだ。クリスチャン・ケレツ・チューリヒ社が設計したこのパビリオンは、外から見ると窓のない金属製の箱で、長い金属棒が張り巡らされており、入口も出口も見当たらないようになっている。
その代わり、来場者は長いランプを降りて地下深くへと導かれる。地下は空気が冷たく、地上の世界の音が消えていく。
建築家はこの道を「パビリオンの外の世界と内の世界をつなぐもの」と表現している。
パビリオンの中に入ると、洞窟のような天井と明るい光が訪問者を迎え入れる。
外側に見えた金属の棒は、床から天井まである柱の森の一部であることが、ここでわかる。
このパビリオンのデザインは、世界的な都市の人口密度の増加、そしてバーレーンの職人による、高密度に織り上げた布地にちなんで、密度の概念を追求している。
UAE館に次ぐ第二の規模を誇り、観客の人気を集めているサウジアラビアのパビリオンも、そのデザインで限界に挑戦している。
空に向かって傾斜したスロープ状の構造は、王国の大志を暗示すると共に、一種の窓としての役割もはたしている。
パビリオンへ続くスロープの床には世界最大のLEDディスプレイが設置されており、サウジアラビアの壮大な自然の風景が映し出されている。来場者はこれまで見たことのないサウジアラビアの姿を目にすることができる。
このパビリオンは、サウジアラビアが持続可能な建設資材を使用し、建設過程で廃棄物をリサイクルするという取り組みが評価され、「エネルギーと環境に配慮したデザインにおけるリーダーシップ」のプラチナ認証を取得している。
これまでの博覧会とは大きく異なり、各国のパビリオンはドバイのこの地の景観として、永続的に残ることになる。
一部のパビリオンは2020年ドバイ万博のための博物館として再利用される。そして他のパビリオンは文化交流の場としてその国とのつながりを保つことになる。
2010年、UAEは上海万博後にそのパビリオンを(2万4,000個の鉄の塊として)自国に移設した史上初の国となった。また、2015年には同じく、ミラノからパビリオンを本国に戻した。
そして今、UAEはこの持続可能な再利用の伝統を、はるかに大きな規模で続けている。万博開催後には、会場の建物の約80%を受け継ぎ、「District 2020」と名付けられた住宅・商業施設のコミュニティへと発展する。
それまでの間、何百万人もの2020年ドバイ万博の来場者は、新しいアイデアや文化的な体験、エンターテインメントにあふれたグローバルな環境に触れることができる。バラエティに富んだ建築物は、畏敬の念とインスピレーションの源となっている。
また、計画者の先見性により、万博は半年間の開催期間が終了しても消滅することなく、今後何十年にもわたって持続可能なコミュニティとして存続していくだろう。