
ジュマナ・カミス
ドバイ: コロナ禍との戦いで世界が一歩前進したと確信していた矢先、より感染力が強く、ワクチン耐性のある新型コロナウイルスに約3,000人の患者が感染したという南アフリカの医師からの報告によって、正常な状態に戻るという世界の希望が打ち砕かれた。
先月、B.1.1.529株が出現し、世界保健機関 (WHO) がギリシャ語のアルファベットにちなんでオミクロンと命名したことで、クリスマスや年末年始の忙しい旅行シーズンが始まる数週間前に各国政府は大騒ぎになった。
多くの国では、マスク着用、社会的な距離の取り方、大量の検体検査、在宅勤務などの制限が再徹底され、オミクロン株が存在する国からの旅行者には各国政府が国境を閉鎖した。
迅速な対応にもかかわらず、オミクロン株はすでにほぼすべての大陸で足場を固めており、以前から懸念されていたデルタ株と呼ばれる変異株に代わる株になると予想されている。
ヴェスタ・ケア社のシニア・サイエンティフィック・アドバイザーであるエマニュエル・コウヴォージス氏は、世界的にワクチン接種率を高めるために各国が統一した行動計画を立てない限り、コロナウイルスが優位に立ち続けるだろうという考えを示している。
「予測できるとすれば、このウイルスは流行開始から少なくとも5年間は生き続けるだろう」とコウヴォージス氏はアラブニュースに語っている。またオミクロン株が新型コロナウイルスの最後の変異である可能性は低く、コロナ禍が本当に終わるまでに少なくとも2種の優勢な株が予想されると告げた。
12月1日までに南アフリカでオミクロン株に感染した人は2倍以上の8,561人となった。その後、少なくとも11のEU諸国でオミクロン株の症例が報告されており、英国の保健当局は年末までに100万人もの症例が発生すると予想している。
また湾岸協力国では、サウジアラビア、UAE、バーレーン、クウェート、オマーンがオミクロンの初症例を報告している。さらにイスラエル、日本、モロッコは、外国人旅行者に対して国境を完全に閉鎖している。
インテリジェント・ケア・グループのディレクター兼医療部門責任者であるコンスタンティノス・ディミトラコポロス氏によると、多くの人がワクチンの効果について誤った情報を得ており、一度接種すれば完全に免疫があると誤解していることが世界的なコロナ禍の悪化の要因の一つであるという。
またディミトラコポロス氏は、「ワクチンはウイルスの感染を防ぐものではありません。またウイルスを広めるのを防ぐものでもありません。ワクチンは、死亡する可能性や重篤な症状が出る可能性を減少させるだけです」とアラブニュースに語っている。
「ワクチンが究極の道具であるためには、瞬時に何十億人もの人々に一斉にワクチンを接種しなければならない 」とのことであるが、それはもちろん不可能である。
またワクチン接種の1回目の時期と2回目の時期との間に「大きな遅れ」が生じていることも問題で、急速に変異するウイルスへの対策が弱くなっている。
「国際社会は、ウイルスの理解から、ウイルスの検出、ワクチンの開発、そして生産制限による自然な時間の遅れを伴って人々にワクチンを接種したのです」とディミトラコポロス氏は述べる。
ウイルスが再び変異する前に打開する努力を妨げているいくつかの要因の一つは、世界各国の資源や資金力の格差である。
12月初旬の時点で、全世界で84億本以上のワクチンが投与されているにもかかわらず、低所得国では平均7.1%の人々が少なくとも1回のワクチン接種を受けているに過ぎなかった。
「必要な規模でワクチンを製造し、短時間で同時に配布・投与できる工場は、現時点では世界にはないのです」とディミトラコポロス氏は述べた。
しかしその一方でアフリカやアジアの貧しい国にワクチンを大量に送り、接種率を高めようとするだけでは、問題は解決しない。
また「誰がラストワンマイルを乗り越えて、すべての村や地域にワクチンを持って行き、投与するのかという疑問が常にあります」とディミトラコポロス氏は言う。
また世界が相互につながっており、ウイルスの検体について世界的に統一された方針がないことも感染拡大の要因の一つである。「世界各国の国境が開いている限り、ウイルスは無限に広がっていく」とディミトラコポロス氏は付け加えた。
実際、世界の人口のほとんどは、厳格な検査手順に従い、自己隔離を強制することで迅速に対応し、ウイルスに対する治療や予防接種を提供する医療システムに十分に含まれていない。
また流通の妨げになっているのは、途上国での物流上の問題だけではない。一握りの大手製薬会社がワクチンを知的財産として独占していることも、生産を制限しているとコウヴォージス氏は述べる。
そして小規模な「ジェネリック企業」が、ワクチンの生産方法を入手できないため、生産量を増やしたり、貧困国での販売を拡大したりすることができないという。
その中でも特に懸念を起こしているのは、予防接種に対する世間の懐疑的な見方が広まっていることである。誤った情報や教育の不足により、多くの人々が社会的距離や衛生対策を怠ったり、ワクチンを受けることを強固に拒んだりしている。
そしてこれらの要因が相まって、ウイルスが再び紛れ込んでしまったのである。「世界規模で警告を鳴らすのが遅れていたのです」とコウヴォージス氏は語る。
そして「何も恐れず、何でもできると思っていた医療界としての傲慢さが原因で、勢いを失ってしまいました」と語った。また「統計は今、別のことを示唆しています」と付け加えた。
米国のジョンズ・ホプキンス大学によると、新型コロナウイルスによる死亡者数は全世界で520万人を超えている。
ディミトラコポロス氏は、世界が自己満足に陥っていることに同意し、コロナ禍の前や最中に、初期発生や新たな変異株の出現に備えて、もっと多くのことができたはずだと述べている。
「私たちの緊急計画は一度も試されたことがありません」とディミトラコポロス氏は述べ、「最初に試されるはずだったが、非効率であることがわかった。その後すべてはコロナ禍の発生に合わせて、その場しのぎで決まったのです」と付け加えた。
コロナ禍が発生したときに、よりよい準備ができていた国もあれば、新たな変異株が出現したときに、それを封じ込めるためにうまく適応した国もある。
成功例として、アラブ首長国連邦では、人口の100%がワクチンの初回接種を受け、90%以上が完全に接種されている。
「(2020年2月に) ウイルスが発生したとき、UAE市場でPCR検査を行う1日の能力は約5,000検体でした」とディミトラコポロス氏は振り返る。現在、UAEでは1日に50万件以上の検査を行い、サンプルを処理し、ウイルスの発生源を追跡する能力が備わっている。
その一方で、科学界はオミクロン変異株の感染性と致死性を解明しようと躍起になっている。
ニューヨーク州ロチェスターにあるメイヨー・クリニックの臨床ウイルス学部長であるマシュー・ビニッカー博士は、「データの収集と分析には時間がかかりますが、12月末までには、オミクロン株がデルタ株と同等の感染力を持つのか、あるいはより高い感染力を持つのか、より良い結果が得られるはずです」とアラブニュースに語っている。
WHOによると、「新しい変異株は、必ずしも状況が悪化することを意味しないが、より不確実性が高くなることを意味する 」とのことである。
またビニッカー博士は、「突然変異の発生を防ぐためには、感染者の数を減らすことが一番の近道です。ウイルスが誰かに感染できなければ、ゲノムを複製する機会がなくなり、突然変異の発生を防ぐことができるのです」と付け加えた。
予備的な研究によると、ブースター接種と呼ばれる3回目のワクチン接種は、2回目のワクチン接種に比べて中和抗体の体内における濃度が25倍に増加し、2回目のワクチン接種だけでもオミクロン変異株に対して少なくとも70%の防御効果があることがわかっている。
ビニッカー氏は、「感染者数を大幅に減少させるためには、(ワクチンや自然免疫による) 世界的な免疫率を少なくとも80%以上にする必要があるでしょう」と述べている。そして「世界の人口に早くワクチンを接種することができれば、感染率を下げ、新しい変異株の出現を防ぐことができます」と付け加えた。
これを実現するために、医学界の多くの人々がワクチン接種の義務化に賛成しているが、これは政治的には不人気な提案である。そのため、ディミトラコポロス氏は、この決定を政治家の手を離れたものにしたいと考えている。
「義務的な予防接種をめぐる世界的な政治問題に取り組むためには、政府や政治家ではなく、WHOやCDC (米国疾病管理予防センター) などの保健当局から指令が出されるべきです」とディミトラコポロス氏は語った。