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日本のデザインの細部に見られるシンプルさと複雑さ

NOIZ設計事務所による渋谷HYPER CASTの未来ビジョン(上空から)
NOIZ設計事務所による渋谷HYPER CASTの未来ビジョン(上空から)
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09 Mar 2022 10:03:26 GMT9
09 Mar 2022 10:03:26 GMT9

ナダル・サモーリ

大阪: ただ手ごろな価格にするためにシンプルに何かをつくるのではなく、シンプルでありながら洗練されたものをつくるために、細部の無駄を削っていくのは大変な仕事だ。

芦沢啓治さんは、この真実をよくわかっている。建物の外装、内装、家具などをデザインする彼の仕事ではよく、マクロからミクロへ、ミクロからマクロへの飛躍が必要とされるからだ。芦沢さんは建築家であり、シンプルでオリジナルなデザインとそれぞれの空間に合わせたカスタムメイドの多機能家具を制作する工房、石巻工房の代表でもある。

「家具のディテールは、私にとっては建築の場合と同じように構造の一部です。デザインをする時は、建築と内装、家具を区別しないようにしています。すべての要素がその空間や風景を通して、質感やディテールを通して、つながり合っていると思うから」と、芦沢さんは語る。

細部までこだわりを感じさせる複雑なシンプルさ。地産の杉を使った宮城県仙台の東北スタンダードマーケットの内装―石巻工房設計(写真:Takumi Ota)

ディテールとは、床と壁が接する角の見た目、マグカップの取っ手の形、バルコニーとダイニングルームがどうつながっているか、手すりと欄干の接合部はどうなっているか、などを指す。

「ディテールは、空間と空間をつなぐ言葉です。私は日本の伝統的な文化や建築を高く評価しているので、常にディテールを過剰に意識してしまう」と、芦沢さんは言う。

芦沢さんは、細部へのこだわりは、主に、物がそれ自体の持つ要素の中で、そして置かれた空間との関係性の中でどのように見えるべきかについての意識を高めるような体験から生まれると考えている。

だが、建築という分野の周辺では、テクノロジーや生物学、その他様々な分野での取り組みが増えており、建築の一部となることが強く望まれるような流れがある。異なる専門分野の取り組みは、互いに融合していくのだろうか。それとも、我々が気づく前から、常にそのような状態だったのだろうか。

建築、テクノロジー、自然が重なり合うところから生まれる豊田啓介さんの作品は、まさにこのテーマにスポットライトをあてている。一般の人には複雑に感じられる概念をシンプルにし、CGでヴィジュアルとして見せることで具現化するのだ。豊田さんは多くの人に影響を与えてきた日本の建築家で、NOIZの共同設立者でもある。2025年に開催される大阪万博の招致活動では、コンセプトデザインとディレクションを担当した。

「渋谷 HYPER CASTプロジェクトは垂直版スマートシティで、近い将来により先進的な何かを実現するための勇気ある一歩を踏み出していくための理解を視覚化した普遍的なコンセプトです」と、豊田さんは渋谷HYPER CASTをどう視覚化したかについて説明した。同プロジェクトは、自然とのつながりを深めながらテクノロジーと融合する未来の建物の姿を構想したものだ。

豊田さんは、コンピュテーショナルデザインと建築情報学を駆使し、デジタル技術を活用して想像上のスマートシティを創り上げ、データ技術が建築設計にどのように貢献できるかを問いかけている。

NOIZ設計事務所による渋谷HYPER CASTの未来ビジョン(人の目に見える風景)

「スマートフォンというデバイスは単なるインターフェースではなく、空間そのものをユーザー・インターフェースとするインタースペースになりつつある。次のスマートフォンは車かもしれないし、その次は、様々な部屋や機能を持つ家かもしれない。現在のスマートフォンは物理的な世界とデジタルの世界をつなぐ窓であり、私たちはそこに飛び込むようになる、というか、スクリーンが私たちの現実の世界に飛び込んでくるかもしれない」と、豊田さんはアラブニュース・ジャパンに語った。

豊田さんは、建築デザインの範疇を超えた多くの要素が絡まり合う、ともすれば複雑になり得るアウトプットを、より高度な思考の視点から捉えることでシンプルなものにしようとしている。また、スマートフォンは多くの人に非常に洗練されていると思われているかもしれないが、未来に実現し得るスマートな環境、インタースペースに比べればとても原始的だと考えている。

「過去には、情報は物理的な物や道具に閉じ込められていた。たとえば、時計や、紙のカレンダーといったように。技術に限界があったため、選択肢も限られていた。でも、今では都市中がしっかりと統合されている」と、豊田さんは語る。

コンピュテーションを突き詰めていけばいくほど、物理的な現実それ自体が、膨大な情報量を持つ素晴らしいコンピュータのようなものだということが分かってくると豊田さんは感じている。

「デジタルデータとして抽出、編集できる情報の範囲は限られている。物理的な現実には抽出、再現ができないものがたくさんある」と、豊田さんは説明する。

豊田さんは、テクノロジーのイノベーションによって拡張された現実を創造することが可能だと考える。だが、人々の日々の暮らしの中で真の価値を生み出すのは何かを認識し、慎重にイノベーションとのバランスを考慮することが重要だと指摘する。そして、「コモン・グラウンド(共通基盤)」と彼が呼ぶものを見つけることを奨励している。

「たとえば、バーチャルリアリティでは現実にはできない多くのアクティビティを行うことができる。でも、それで完全な満足感は得られるだろうか?私は、限界があると思う」と豊田さんは語る。

だが、それでは、シンプルさと複雑さの間の適切なバランスはどう見つければいいのだろうか?

豊田さんは、単線的な生き方をすることができれば、それこそが究極の贅沢かもしれないと説明した。とはいえ、社会の現実は多面的だ。

「私はある意味、複雑性を愛している。それこそが自然界の豊かさの源であると感じていて、そこの部分を取り入れながら探求していきたいと思っている」と、豊田さんは話す。

分野を超えた総合的な視点を持つ豊田さんは、今では建築雑誌よりも数学や生化学の雑誌を読み、一見、デザインとはかけ離れているように見えるが実はそうではない様々な取り組みに目を向けている。広い一般知識があるからこそ、自然物の背後に存在するロジックを理解し、新しい関係性やトポロジー構成を結びつけることができるのだ。

今では専門分野や職業、国は互いに融合し、境界線は常にその形を変えている。

芦沢さんは、クウェート文化と日本文化の融合がいかに美しいかを例に挙げ、こう語る。

「クウェートの店舗をデザインするためのリサーチをしていた時、日本の湿潤な地理的特性とは大きく異なる、海に近い乾いたオアシスという地形を探求し始めた。結果として、現地では見られない庭園のあるシンプルな日本的デザインが生まれた。この日本文化とクウェート文化の融合は素晴らしく、印象深かった」

複雑なシンプルさとシンプルな複雑性は、デザインだけにおけるものではなく、収束と発散、深さと広さの絶え間ない葛藤を意味する。どちらが勝つのだろうか?それとも、中間のグレーゾーンを目指すべきなのだろうか?だとしたら、グレーゾーンのどのあたりが理想的なのだろうか?

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