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ルーブル・アブダビは中東芸術艦隊の旗艦であると館長は言う

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30 Dec 2019 12:12:49 GMT9
30 Dec 2019 12:12:49 GMT9

フランク・ケイン

ルーブル・アブダビのマニュエル・ラバテ館長が中東で活気を増す文化的生態系について語る

ルーブル・アブダビがオープンしてから2年もの間このおそらく中東で最も有名な美術館への訪問を延ばし延ばしにしてきた私は、実際ここまで延ばすべきではなかったと思うのだが、マニュエル・ラバテ館長とそのチームのおもてなしのおかげで、待っただけの価値が十分にあった。

同美術館は2017年11月にオープンした。世界的な鳴り物入りでの、また若干の物議を醸してのオープンだった。この事業は、アラビア湾で進行中の文化的ルネサンスに対するUAE最大の貢献であり、パリのパートナーでありその名を与えたルーブル美術館をはじめ、ロンドンの大英博物館、ニューヨークのメトロポリタン美術館といった美術館によっても例証された、ユニバーサルミュージアムの伝統をしっかりと念頭に置いたものである。

ラバテ館長は、12年前の発足以来ほぼずっと継続して同美術館プロジェクトに関わっている。館長は、自ら呼ぶところの中東の「繁栄する文化的生態系」、そして芸術、文化、ビジネスにおけるフランスとアラブ首長国連邦(UAE)の「特別な関係」に対する、熱狂的かつ雄弁な擁護者だ。

「私はルーブル・アブダビを中東における文化的生態系艦隊の旗艦と見ています」と館長は語った。その背景には、文化に貪欲な子どもたち専用のセクションで興奮しながらおしゃべりする子どもたちの姿があった。

館長は、湾岸地域における文化事業の開花の証しとして、アブダビ、ドバイ、リヤド、ジェッダで進行中の大規模な芸術的・文化的イニシアチブのリストをすらすらと挙げてみせ、ルーヴル「プロジェクト」における自らの役割を説明した。「ただもはやプロジェクトではなく、全館が一般公開された世界クラスの美術館ですが」

確かにそうだ。 12月の比較的客入りの遅い火曜日、美術館— サーディヤット島の文化地区から湾を見下ろす「浮かぶドーム構造」として建てられている — の中央ギャラリーは、各ギャラリーや展示ホールをゆっくり見て歩く外国人来館者で賑わっていた。

美術館にはオープン後2年間で約200万人が訪れ、ラバテ館長は来館者の人口構成に大いに満足している。

2年目の来館者の約70%がUAEを訪れる観光客で、その数は1年目よりわずかに多く、残り約30%がUAEの国民と外国人居住者で構成される。

リピーターの最大の単一カテゴリを構成しているのはUAEの市民である、とラバテ館長は満足したかのように語り、従業員も50%がUAE出身者だとした。

「当館は現在、観光客のすべての流れにうまく統合されています」と館長は付け加えた。外国からの訪問者の中で最大の国籍はインド人と中国人で、サウジアラビア人も「非常に重要なセグメント」だという。

ラバテ館長は、サウジアラビアで同時に進行中の文化ルネッサンスを十分に意識している。館長はサウジアラビア観光・国家遺産委員会と頻繁に連絡を取り合っている。同委員会は「Vision 2030」戦略の一環としての、サウジ王国を芸術的および文化的観光地の中心にするという取り組みを監督している。

ラバテ館長は、サウジアラビアの芸術的および文化的野心における特に重要な例として、ミスク財団、Ithra(キングアブドゥルアズィーズ世界文化センター)、アート・ジャミール(ジェッダ、リヤド、ドバイでも活動あり)といった団体の仕事を挙げた。このほか、ルーヴル・アブダビにはサウジアラビアの文化遺物も数多く展示されているという。

同館では最近、「アラビアの道」展を開催し、サウジ王国の考古学的宝物の数々を紹介した。

「当館は常にサウジ王国の関係者と協力し、作品の交換を行っています。私がサウジ王国に助言すると言うのは謙虚さに欠けるでしょう。 サウジ王国は我々の助言など必要としません。サウジ王国は当館のパートナーなのです」とラバテ館長は言った。

ルーブル・アブダビは、芸術的および文化的成果を通じて人類の物語を伝えることを目的とした、人類学的アプローチの強い百科事典型美術館(encyclopaedic museum)として設計されている。

さらに、フランスのものとしてすぐに分かる特色も備えている。展示作品の約50%がパリのルーブル美術館やその他のフランスの美術館から借用されたもので、残りは増加中のルーブル・アブダビ収蔵作品や地域の他の美術館からの借用作品だ。

このような文化的基準の混在がいくつかの問題を引き起こすことも予想される。文化的・芸術的基準は普遍的に適用できるものではなく、セーヌ川のほとりで称賛を受けるかもしれないものがアラビア湾岸では不適切とされる場合もあるかもしれない。

しかしラバテ館長は、自身はこの点でこれまで深刻な問題を経験したことがないし、展示許可において妥協の必要性を感じたこともないと述べた。

「当館が達成できたことには、大変好意的に感心させられてきました。私は挑発を探してきたのではなく、むしろ協力できる分野を探してきたのです」と館長は語った。

その寛容と包摂の精神は、美術館そのもののあちこちに現れている。たとえば伝統的なコーランがスポットライトで照らされたキリスト教の聖書やトーラー、ヒンドゥー教や仏教の宗教作品と並んで展示されているのだ。

パリではもちろん、來館者のすべてがレオナルド・ダヴィンチの「モナリザ」に直行する。ヨーロッパの芸術の旅ではこれが必見とされているからだ。

ラバテ館長は、アブダビはオープンして間もないため、これといった目玉の展示作品を育てる時間がまだないと述べた。

「アイコンについてお話しするのにはまだちょっと早すぎます」と館長は付け加えた。

しかしながら館長は、イスラムとアラビア色の強い12世紀イタリアの見事なブロンズ彫刻「マリ・チャ・ライオン」や、トルコ人画家オスマン・ハムディ・ベイ作による19世紀絵画「Young Emir Studying」が、ルーブル・アブダビ最大の目玉となる可能性が高いと考えている。

その他の大ヒット作品として、アメリカ人アーティストのジェームズ・ホイッスラーによる「画家の母の肖像」やレンブラントの「キリストの頭部」といった借用作品がある。

私は個人的には、展示ホールの角を曲がったところでジャック=ルイ・ダヴィッドの絵画「ベルナール峠からアルプスを越えるボナパルト」を目にして驚嘆した。

同館はまた、UAEおよび中東広域の社会的、教育的、道徳的な生活において役割を果たすようにも設計されている、と館長はサーディヤット島の複合施設内こども美術館の壁を飾るアメリカ人障害者作家ヘレン・ケラーの格言を指差しながら付け加えた。「教育の主要な成果は寛容性です」

障害者が建物を利用できるようにすることは、設計の上で最優先事項だった。さらに同館は最近、入館料無料のオファーをアブダビ市の低賃金タクシー運転手にも拡げた。

「当館は、あらゆる年齢の来館者がアクセスできる美術館づくりに大きく重点を置いており、トレーニングプログラムや雇用の機会を通じて、新世代の文化的リーダーを築こうとしています」とラバテ館長は語った。

活気にあふれたこども美術館は、館長言うところの、この「教育および実験の戦略」の不可欠な部分である。

子ども来館者には、自分が文字通り絵画内部に入り込むバーチャルリアリティ技術を通して、アートの世界に親しんでもらう。

「これはゲーミフィケーションですが、当館ではテクノロジーとコンピューターを使用することで子どもたちが芸術作品に戻ってくれればと常に望んでいます」とラバテ館長は言った。

ルーブル・アブダビという壮麗な美学のなかで、財政について尋ねるのはほとんど俗物的なことのように思える。

複合施設の建設費用と作品借用に関するフランスとの契約費用については、アブダビ政府が負担した。

だが、ビジネスと金融分野の実務を学んだ後に美術館運営へ移行したラバテ館長は、最終的には採算を合わせることを視野に入れて運営を務めなければならなくなるのだろうか?

「これが投資であるのは確かです。メンテナンスコストが高いですから、財政的に可能な限り持続可能でなければなりません。ですが、利益を上げるとか、収支トントンに近づく、といったことではありません」と館長は語った。

入館料の大半は企業パートナーとのスポンサー契約によって補足される。スポンサーの「パトロンサークル」はまもなく公開される予定だ。

飲食店や必見のミュージアムショップも、収入獲得の機会となる。

「パリであれ、ロンドン、ニューヨークであれ、同種類の機関で利益を上げているところはありません。当館は文化大使なのであり、アラビアを含む世界中の物語を語るためにやって来たのです」

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