
トランプ米大統領による世界保健機関(WHO)脱退表明をめぐり、日本政府が沈黙を続けている。直ちに再考を求めた欧州連合(EU)とは対照的。米国の動きの背景に中国との対立激化があることもあり、トランプ氏を刺激しかねない批判的な発信は得策でないと判断している。
菅義偉官房長官は2日の記者会見でトランプ氏の発言への見解を問われ、「日本政府としてコメントは控えたい」と論評を避け、EUの動向に関しても言及を回避。「新型コロナウイルスが世界的に拡大する中、国際社会が一体となって対策を進める必要がある」とだけ語った。
新型コロナの初動対応をめぐり米中が角を突き合わせる中、日本政府はWHO重視の立場からEUと歩調を合わせて国際社会の結束維持に腐心してきた。5月中旬のWHO年次総会に「公平で独立した包括的な検証」を共同提案。参加国の全会一致の合意を取り付けた。
だが、5月29日のトランプ氏の脱退表明後、日欧の対応は分かれた。EUは翌30日、「米国に再考を促す」とするフォンデアライエン欧州委員長らの声明を発表。一方の日本政府は「トランプ氏は性急すぎる」(高官)と受け止めながらも表立った発信を控えている。
トランプ氏の発言に対しては、米国内の反中感情に訴える「秋の大統領選にらみの動き」(外務省幹部)とする見方が政府内に強い。米国の国内法上、実際のWHO脱退まで一定の時間がかかることもあり、当面はトランプ氏がEUにどう反応するか様子見の構えだ。ある政府関係者は「下手にたしなめれば日米間に亀裂が生じる」と語った
JIJI Press