
人との距離が広がった新型コロナウイルス禍での新しい生活。出産後の母親の「産後うつ」のリスクが2倍に増えていることが、筑波大の調査で分かった。専門家はコロナの影響を推測し、「早めの対応で重症化を防いでほしい」と訴える。
同大の松島みどり准教授(公共政策)が10月に民間のスマホアプリと連携し、国際的に使われている質問票で調査を実施。回答があった1歳未満の乳児の母親2132人のうち、約24%に産後うつの可能性があることが判明した。産後うつは出産後の母親の約10%が発症するとされ、リスクが高まっている恐れがある。
また、0カ月から11カ月まで子どもの月齢ごとに母親を調査したところ、軒並み高い水準のうつ傾向が明らかになった。通常、産後一定期間が過ぎればうつ状態は軽減されるが、産後うつが長期化していることが考えられるという。
「母親の孤立感が高まっている」。産後の母親に家庭訪問事業などで支援をしている中央健康サポートセンター(東京都江戸川区)の武藤真佐美所長は「コロナ禍で里帰り出産や、地方にいる親に来てもらうことができず、うつになる要因が増えている」と説明した。
出産まで家族の立ち会いや面会が制限されるほか、病院による乳児の沐浴(もくよく)方法の指導が省略される場合もあるという。30年近く保健師として産後支援している武藤さんは「これまでにない不安定な状態なのに、母親は義務感で我慢しがちだ」と産後うつの増加を心配し、「すぐに支援を求めてほしい」と呼び掛けた。
日本周産期メンタルヘルス学会の鈴木利人理事長は「質問票の結果で直ちにうつと診断されるわけではないが、妊娠中から母親のストレスが増しているのは確かだ。早期発見、早期治療が一番大事なのに、コロナで病院が遠ざかっている」と危惧する。不眠や、自然と涙が出るなどの場合は要注意だといい、「重症化すれば自殺の恐れすらある」と話した。
JIJI Press