
韓国・ソウル:北朝鮮指導者の金正恩氏は、同国初の軍事偵察衛星の開発が完了したと述べ、関係者に打ち上げ計画を進めることを命じたと、19日に国営メディアが伝えた。打ち上げ日は明らかにされていない。
宇宙からの監視システムの確立は、金氏にとって軍事力強化の重要目標の1つになっている。金氏は軍事力強化を通じて、同氏が敵対的政策と呼ぶ米国の政策、すなわち同盟国である韓国との軍事演習や北朝鮮に対する国際的な経済制裁など、を放棄させるべく圧力をかけることを目指している。
これまでのミサイルやロケットの発射実験を通じて、北朝鮮に人工衛星を宇宙に運ぶ能力があることは証明されている。だが、専門家の多くは、過去の発射後に公表された画像が低解像度のものに限定されていたため、人工衛星からの偵察活動に利用できる高性能カメラを保有しているかどうか疑問視している。
18日に同国の航空宇宙局を視察した金氏は、北朝鮮が戦争抑止力を効果的に活用するには、軍事偵察衛星を持ち、運用することが重要であると語った。国営朝鮮中央通信によると、金氏は、米国と韓国が今年行った「最も敵対的なレトリックと明確な行動」によって引き起こされた深刻な安全保障上の脅威とするものについて言及した。
金氏は、4月の時点で「軍事偵察衛星1号」は建造済みであると述べ、予定されている打ち上げ日に向けて最終準備を加速させるよう命じた。打ち上げ予定日は明らかにされていない。朝鮮中央通信によると、金氏は、確固たる情報収集能力の確立に向け、北朝鮮は数基の人工衛星を打ち上げる必要があると語った。
北朝鮮は、先週実施された、米本土を攻撃できるように設計された固体燃料式の大陸間弾道ミサイルの初めて発射実験など、猛烈な勢いで進めている兵器実験について、米国とその地域同盟国である韓国・日本との合同軍事演習への応答であると表明している。
昨年初め以来、北朝鮮はミサイル発射実験を約100回実施しており、うち約30回は今年に入ってからだ。
米韓両国の軍隊は、増大しつつある北朝鮮の核の脅威に対する抑止力を強化するため、合同軍事演習を拡大している。今週、両国は軍用機約110機が参加する12日間の航空演習を開始し、日本との間でも海上ミサイル防衛演習を1日の日程で実施した。
偵察衛星は、固体燃料式ICBM、原子力潜水艦、極超音速ミサイル、多弾頭ミサイルとともに、金氏が開発を誓っている主要な武器体系の一つに数えられる。以来、北朝鮮はこれらの兵器の実験を行っているが、運用可能な水準にどの程度近づいているかは不明だ。
昨年12月、北朝鮮は、撮影・データ伝送システムを評価するために試験衛星を打ち上げた際に、韓国の複数の都市を宇宙から撮影した白黒写真を公表した。
当時、韓国の複数の民間専門家は、それらの写真は粗すぎて監視目的での使用には適さず、海上の軍艦や地上の軍事施設など、大きな目標しか認識できない可能性が高いと指摘していた。
金氏の妹で北朝鮮高官の金与正氏は、こうした評価をすぐさまはねつけ、1回きりのテストに高価な高解像度カメラを使用する理由はなく、試験衛星には市販のカメラが搭載されていたと語った。
外部アナリストの多くは、北朝鮮は、ミサイルの先端に搭載する小型弾頭の製造や、大気圏再突入時の弾頭の保護など、機能する核ミサイルの獲得に向けた残りの最後の技術的ハードルを克服できていないと評価している。
金正恩氏は、偵察衛星の目的の一つは、「状況に応じて先制軍事攻撃を行う」能力を獲得することだと発言した。これは、偵察衛星を、先制核攻撃を認め、エスカレートにつながる北朝鮮の核ドクトリンと結び付けようとする同氏の意図を示している。
18日の朝鮮中央通信の配信は、この数カ月間に韓国に展開した空母や長距離爆撃機などの米軍兵力に焦点を当てており、米本土の攻撃目標についての言及はなかった。これは、北朝鮮が偵察衛星を使用して、米軍基地を含む韓国国内の重要目標を特定し、短距離ミサイルで攻撃する可能性を示唆している。
ソウルにある北韓大学院大学校のキム・ドンヨプ教授によると、北朝鮮は、軍事偵察衛星はミサイルやその他の核兵器が攻撃目標を正確に攻撃できるように、位置や動きの精確な情報をリアルタイムで得ることを目的にしていると伝えている。同氏は、北朝鮮は5月から9月にかけてのどこかで、具体的な発射計画を国際海事・通信機関に通知する可能性が高いとも述べた。
偵察衛星を軌道に投入するには、長距離ロケットが必要になる。だが、国連は、北朝鮮による長距離ロケットの発射を長距離弾道ミサイルの技術テストの隠れ蓑とみなしており、これを禁じている。
北朝鮮は2012年と2016年に地球観測衛星の1号機と2号機を軌道に投入したが、外国の専門家は、そのどちらも北朝鮮に画像を送信しなかったとしている。これらの発射を巡って、国連制裁が発動された。
北朝鮮は、2022年と今年に実施された弾道ミサイル発射実験に対する新たな国連制裁を回避している。国連安全保障理事会常任理事国のロシアと中国が、米国などの制裁強化の試みを支持しないためだ。
AP