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エジプトなどのアラブ諸国がガザ地区からの難民受け入れに消極的な理由

エジプトへの入国を待つパレスチナ人ら。2023年10月16日、ガザ地区のラファ国境検問所。(AP)
エジプトへの入国を待つパレスチナ人ら。2023年10月16日、ガザ地区のラファ国境検問所。(AP)
エジプトへの入国を待つパレスチナ人ら。2023年10月16日、ガザ地区のラファ国境検問所。(AP)
エジプトへの入国を待つパレスチナ人ら。2023年10月16日、ガザ地区のラファ国境検問所。(AP)
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19 Oct 2023 08:10:21 GMT9
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カイロ:ハマスによる10月7日の残忍な攻撃に対するイスラエルによる容赦のない報復空爆のもと、封鎖されたガザ地区で絶望的な状況にあるパレスチナ人らが何とかして避難しようとしている中、隣国のヨルダンとエジプトがなぜ自分たちを受け入れてくれないのかと問う人もいる。

イスラエルを挟んで反対側に位置し、それぞれガザ地区および占領下のヨルダン川西岸地区と境界を接している両国は、難民受け入れを断固拒否している。ヨルダンは既に大量のパレスチナ難民を受け入れている。

エジプトのアブドゥルファッターハ・エルシーシ大統領は18日、これまで最も強硬な発言をした。現在の戦争はガザ地区を支配するハマスとの戦いを目的とするだけでなく、「同地区に住む市民をエジプトへと追いやる試みでもある」と言ったのだ。さらに、それが地域の平和を破壊しかねないと警告した。

ヨルダンのアブドッラー2世国王もその前日に、「ヨルダンへの難民もエジプトへの難民もあってはならない」という同様のメッセージを発した。

両者の拒否の根底には、イスラエルはパレスチナ人を永久的にエジプトやヨルダンへと追い出し、彼らの国家樹立の要求を無効にしようとしているのではないかという不安がある。エルシーシ大統領は、集団移住によって過激派がエジプトのシナイ半島に入り込み、そこからイスラエルに対する攻撃を行うことで両国の40年にわたる平和条約を危険に晒す恐れがあるとも述べた。

エジプトとヨルダンの立場を動機づけている要因を以下で見てみよう。

強制移住の歴史

強制移住はパレスチナ人の歴史における主要テーマであり続けてきた。イスラエル建国をめぐる1948年の戦争では、推定70万人のパレスチナ人が、現在イスラエルとなっている土地から追い出されたり避難したりした。パレスチナ人はこの出来事を、アラビア語で「大災厄」を意味する「ナクバ」と呼んでいる

イスラエルがヨルダン川西岸地区とガザ地区を占領した1967年の中東戦争では、さらに30万人のパレスチナ人が主にヨルダンへと避難した。

パレスチナ難民とその子孫の数は現在約600万人に上り、そのほとんどがヨルダン川西岸地区、ガザ地区、レバノン、シリア、ヨルダンの難民キャンプやコミュニティーで暮らしている。ディアスポラはさらに拡散しており、多くの難民が湾岸アラブ諸国や欧米諸国で生活を築いている。

1948年の戦争が停止した後、イスラエルは難民の帰還を認めなかった。同国はそれ以来、和平合意の一環として難民の帰還を求めるパレスチナ人の要求を、国内の多数派であるユダヤ人を脅かすことになるとして拒否してきた。

エジプトは、歴史が繰り返され、ガザ地区から来る大量のパレスチナ難民が永久的に留まることになることを恐れている。

帰還の保証がない

それは、この戦争の終結についての明確なシナリオが存在しないからでもある。

イスラエルは、同国南部の複数の町を襲撃し人々を殺戮したハマスを壊滅させるつもりだとしながらも、その後はどうなるのか、また誰がガザ地区を統治するのかについては何も示していない。そのため、イスラエルが一定期間同地区を再占領することになり、さらなる紛争が助長されるのではとの懸念が高まっている。

イスラエル軍は、同軍の指示に従ってガザ地区北部から南部に避難したパレスチナ人は戦争終結後に帰還が認められると述べた。

しかし、エジプトは安心していない。

エルシーシ大統領は、イスラエルが過激派を十分に壊滅させていないと主張すれば戦闘が何年も続く可能性があると述べた。そして、イスラエルが軍事作戦を終了するまでガザ地区に隣接する同国のネゲヴ砂漠にパレスチナ人を受け入れることを提案した。

国際危機グループの北アフリカプロジェクト責任者であるリカルド・ファビアーニ氏は、「イスラエルがガザ地区での意図や住民の避難について明確に説明していないこと自体に問題がある」と指摘する。「その混乱が地区内で不安を煽っている」

エジプトはイスラエルに対し、ガザ地区への人道援助を受け入れるよう求めている。イスラエルは18日、許可する意向を明らかにしたが、その時期は示さなかった。国連によると、深刻化する経済危機に見舞われているエジプトは既に約900万人の難民・移民を受け入れている。その中には、今年勃発した母国の内戦から逃れてきた約30万人のスーダン人も含まれる。

しかし、アラブ諸国と多くのパレスチナ人は、イスラエルがこの機会を利用して人口構成の永久的な変化を強制的に引き起こし、ガザ地区、ヨルダン川西岸地区、(同じく1967年にイスラエルによって占領された)東エルサレムに国家を樹立するというパレスチナ人の要求を潰してしまうかもしれないとも疑っている。

エルシーシ大統領は18日、ガザ地区からの集団移住は「地域において最も重要な大義であるパレスチナの大義を抹殺する」ことを意図したものであるとの警告を繰り返した。また、もしずっと前に交渉によって非武装化されたパレスチナ国家が樹立されていれば、現在の戦争は起こっていなかっただろうと主張した。

カーネギー国際平和基金のシニアアソシエイトフェローであるH・A・ヘリヤー氏は、「歴史的な前例は全て、パレスチナ人がパレスチナの土地を去ることを強いられた時には帰還を許されないという事実を示している」と指摘する。「エジプトはガザ地区における民族浄化に加担したくないのだ」

アラブ諸国の不安は、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相のもとで、パレスチナ人の排除を肯定的に語る極右政党が台頭していることによって掻き立てられるばかりである。ハマスの攻撃以降そのレトリックのタガが外れており、右派政治家やメディアコメンテーターの中には軍に対しガザ地区を破壊し住民を追い出すよう求める者もいる。ある議員は、イスラエルは同地区に対し「新たなナクバ」を行うべきだと述べた。

ハマスをめぐる懸念

一方エジプトは、ガザ地区からの集団移住となればハマスやその他のパレスチナ過激派が同国領内に入り込むことになると主張している。それによってシナイ半島が不安定化する可能性があるというのだ。エジプト軍は長年、同半島でイスラム過激派と戦い、ハマスが彼らを支援していると非難したこともあった。

2007年にハマスがガザ地区を掌握して以来、エジプトはイスラエルによる同地区の封鎖を支援し、物資の持ち込みや民間人の行き来を厳しく規制してきた。また、ハマスなどのパレスチナ組織が同地区に物資を持ち込むのに使用する境界地下のトンネル網の破壊も行った。

シナイ半島の反乱は概ね鎮圧されたため、「エジプトはこの問題の多い地域において新たな治安問題を抱えたくない」のだと、ファビアーニ氏は指摘する。

エルシーシ大統領は、状況がより一層不安定化するシナリオに対し警告を発した。すなわち、1979年に結ばれたエジプトとイスラエルの平和条約の破綻である。同大統領は、シナイ半島にパレスチナ過激派が存在することになれば「イスラエルに対する攻撃拠点となる。イスラエルは自衛の権利を得て(…)エジプト領内に対し攻撃を行うだろう」と述べた。

「我々が実現した和平が手元から消えてしまう」と同大統領は言った。「それは全て、パレスチナの大義を抹殺するという考えのためだ」

AP

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