ナーシリーヤ:ここ10年、ナーセル・ジャバーさんは子どもたちと、イラク南部の貧困街に灰色のコンクリートブロックで建てられたぼろぼろの家に住んでいる。
10人の子どもの父親で、地方で牧畜と農業を営んでいたが、干ばつで土地を追われ、仕事がない、都市部の貧困の生活を続けている。
「私たちは土地を失い、水も失いました」。伝統的な白い服を着た40代の父親が語る。
ジャバーさんはジーカール県の県都ナーシリーヤの外れにある自宅で、AFPの取材に応じた。
ジャバーさんが暮らす近隣地域は、イラクの南部と中部で気候変動によって避難せざるを得なかった人々が直面する極貧状態が典型的な地域である。
イラクは雨量の減少により、4年連続で干ばつに見舞われている。
ジャバーさんが暮らす貧困街では、瓦礫とゴミの山が並ぶひび割れた通りが、住民によってありあわせの資材で作られた家々の間を縫うように、くねくねと続く。
ぼろぼろの建物に囲まれた空き地では、下水が空き地に流れ出していた。近くの低い壁の影に牛が休んでいた。
ジャバーさんのように、ここに暮らす避難してきた人の多くが、農業での生活を諦めて村を捨てた人たちだ。
ジャバーさんがかつて暮らしたジーカール県の村ガテイアでは、兄弟といっしょに5ヘクタールの農地を耕していた。
冬には大麦を収穫し、夏には野菜を栽培した。
ジャバーさんは最後に農地を離れることになるまで、4年間、どんどん厳しくなる気候変動の進行と闘うために、できる限りのことをした。
井戸を掘ったが、「少しずつ水が減り」、50頭のヤギを1頭ずつ売り払わねばならなかった。
都市にやってきて、レンガを運んだりコンクリートを混ぜたりする建設現場の仕事を見つけが、腰を痛めて仕事をやめざるを得なかった。
「ここ3年、働いていません」とジャバーさんは言った。
現在、17歳と18歳の2人の子どもが市場に商品を運び、1日4ドルに満たない稼ぎで家族を支えている。
イラクは石油が豊富にある国であるにもかかわらず、貧困が広く浸透している。
イラク当局は干ばつに加え、数千年にわたりイラクの土地を灌漑してきたチグリス・ユーフラテス川の水位が劇的に低下したのは、イラクの強力な隣国イランとトルコが上流にダムを建設したせいだと非難している。
国際移住機関(IOM)の報告によると、9月中旬までにイラクの中部と南部の「12県の2万1798世帯(13万788人)が、干ばつのために避難生活を続けている」という。
IOMによると、気候難民の74%が都市部に再定住している。
ジーカール県の計画を担当するガッサン・アル・カファジ副知事は、水不足が原因で同県では「相当数の国内避難者」が生まれていると指摘した。
干ばつに襲われたイラク南部の有名な湿地から住民が流出した結果、5年間でナーシリーヤの「市郊外に3200戸の住宅が建設された」という。
これらの住宅には「2万人から2万5千人」が住んでいるとカファジ氏は付け加えた。
「我が国の若者はすでに深刻な失業状態に苦しんでいるにもかかわらず、このような国内避難により、雇用にはさらなる圧力がかかっている」
イラクは数十年にわたる紛争で荒廃し、汚職が行政を蝕んでいる。都市の中心部も地方同様、暮らし向きは全然よくない。
ノルウェー難民問題評議会の気候と水の専門家、トーマス・ウィルソン氏はAFPに対し、都市は「限られた老朽化した資金不足のインフラのため、既存の住民に基本的サービスを提供する能力にもすでに限界が生じている」と語った。
「住民が地方から都市部へ移動する傾向により、機能不全のインフラにさらなる負担がかかっている」と述べた。
同氏は、「強制避難を削減・緩和する政策」の枠組みの中で、避難民が発生している地域を優先した「資源管理計画、効果的なガバナンス、投資」を推奨した。
人口4300万人のイラクにおいて、ほぼ5人に1人が水不足に苦しむ地域に暮らす。
4月に国連が発行した報告書には、気候要因による「社会不安」のリスクについての言及がある。
報告書によると、「人口が密集する都市部では若者の経済的機会が限られており、疎外感、社会的排斥、不正義の感情をさらに強める危険性がある」
「このため、異なる民族宗教の集団の間で緊張が高まったり、国家機関に対する不満が溜まったりするかもしれない」と続く。
ナーセルさんの47歳の兄、カーセム・ジャバーさんも3年前、ナーシリーヤにいるナーセルさんに加わった。
カーセムさんも「こちらに来てから働いていません」と話した。腰の手術後、装具をつけており、寄付をしてくれる人の助けがあって、ようやく手術代を支払うことができたという。
ナーセルさんの子ども10人のうち、学校に通っているのは2人だけだ。どうすれば、子ども全員の学費を賄うことができるというのか。
AFP