• ヨルダン川西岸地区の保健省は前回、犠牲者数を1万3300人と報告したが、21日には理由を示さずに独自の集計の発表を中止した
• ネタニヤフ首相は、内閣が厳しい決断を迫られていることを認めたが、停戦を支持することが正しい行動だと述べた

エルサレム：イスラエルとハマスは21日、ガザ地区で拘束されている人質のうち数十人をイスラエルの刑務所に収監されているパレスチナ人らと引き換えに解放するため、6週間に及んでいる壊滅的な戦争を一時的に停止する合意に近づいたとみられる。

しかし、採決のために内閣を招集したイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、この停戦が終わり次第ハマスに対する攻撃を再開すると宣言した。

「我々は戦争中であり、戦争を続ける」と同首相は述べた。「全ての目標を達成するまでだ」

イスラエル内閣は、ハマスに拘束されている240人の人質のうち約50人の解放と引き換えにイスラエルによるガザ地区における攻撃を数日間停止させるという計画を採決したものとみられる。イスラエルは、ハマスの軍事能力を破壊し人質全員を帰還させるまで戦争を続けると宣言している。閣議は22日未明まで続いた。

ハマスは21日、「数時間以内に」カタールの仲介による合意が成立する可能性があるとの予測を示した。

ネタニヤフ首相は、内閣が厳しい決断を迫られていることを認めたが、停戦を支持することが正しい行動だと述べた。一部の強硬派閣僚の反対にもかかわらず、同首相はこの措置を可決するのに十分な支持を得たようだ。

同首相は、一時停戦の間にも軍が次の戦闘段階に備えることができるよう情報活動は維持されるとしたうえで、「ガザがイスラエルにとって脅威ではなくなる」まで戦闘は続くと述べた。

この発表は、イスラエル軍がガザ地区北部の都市難民キャンプや、患者や避難民で溢れかえる病院周辺でパレスチナの戦闘員と戦っている中で行われた。

予想される停戦合意の詳細は発表されなかった。イスラエルメディアの報道によると、イスラエルによるガザ地区における攻撃を5日間停止すること、およびイスラエルが拘束している約150人のパレスチナ人囚人と引き換えにハマスが拘束している50人の人質を解放することが合意内容に含まれる。

イスラエルのテレビ局「チャンネル12」によると、最初の解放は23日か24日に行われ、数日間続くことになる。

交渉はこれまで繰り返し行き詰まってきた。しかし、たとえ合意に達したとしても、10月7日にハマス戦闘員らがイスラエル南部に対し越境攻撃を仕掛けたことで勃発した戦争が終わるわけではない。ハマスはこの攻撃で少なくとも1200人（その大半が民間人）を殺害し、約240人を拉致した。

ガザの犠牲者数

ガザ保健省によると、イスラエル軍による数週間に及ぶ空爆と地上侵攻で1万1000人以上のパレスチナ人が死亡し、その3分の2は女性と未成年である。医療部門の崩壊により、同省は犠牲者数を11月11日以降更新することができていないという。

ガザ地区の保健当局者らによると、それ以降犠牲者は急増している。病院からは連日の攻撃による死者が報告され続けており、一回の攻撃で数十人が死亡したとの報告もしばしばだという。

ヨルダン川西岸地区の保健省は前回、犠牲者数を1万3300人と報告したが、21日には理由を示さずに独自の集計の発表を中止した。そのことと、同省の担当者が11月11日以降の死者数の集計方法についての詳細な説明を拒否したことを理由に、AP通信は同省の集計の今後報道しないことを決定した。

同省の犠牲者数は民間人と戦闘員を区別していない。イスラエルは数千人のハマス戦闘員を殺害したとしているが、その根拠は示していない。

ヒズボラ系の汎アラブテレビ局アル・マヤディーンとレバノン当局によると、レバノン南部でイスラエルの攻撃により同テレビ局の記者2人が死亡した。現時点では同軍からのコメントはない。あるパレスチナ政府関係者とレバノン治安当局者によると、同軍によるレバノンでの別のドローン攻撃ではハマス構成員4人が死亡した。

イスラエル軍は戦争開始以降、レバノンとの国境を挟んでヒズボラやパレスチナ武装組織と連日のように攻撃を交わしている。

人質交渉

イスラエル、米国、ハマスを仲介しているカタールは、一時停戦およびさらなる援助搬入と対になる人質解放に向けて数週間にわたって交渉を行ってきた。　

ワシントンでは21日、ジョー・バイデン大統領がホワイトハウスで、人質の一部の解放についての合意は「非常に近い」と語った。

「何人かの人質をすぐにでも家に帰すことができるだろう」

カタール外務省のマジド・アル・アンサリ報道官は記者団に対し、「我々は合意に向けて、これまでで最も近いところまで来ている」と楽観的な見方を示したうえで、交渉は「重要かつ最終的な段階」にあるとした。

ハマス高官のイザット・リシュク氏は21日、ハマスが人質を解放しイスラエルがパレスチナ人囚人を解放するという合意が「数時間以内に」成立する可能性があると述べた。亡命中のハマス指導者イスマイル・ハニヤ氏も、合意に近づいていると発言した。

イスラエルのテレビ局「チャンネル12」は、匿名のイスラエル政府関係者らの話を引用して、人質がさらに解放されれば、停戦が延長され、パレスチナ人囚人がさらに解放される可能性があると伝えた。

ジャバリヤと病院周辺での戦闘

ガザ地区内では、戦争の最前線はジャバリヤ難民キャンプに移った。同キャンプはガザ市近郊にあるコンクリート造りの建物が密集した区域で、1948年のイスラエル建国をめぐる戦争で避難してきた人々とその子孫が住んでいる。イスラエル軍はこの場所を数週間にわたって爆撃している。同軍は、ガザ市の大部分から追い出されたハマス戦闘員らは同キャンプと他の東部区域で再編成を行ったと主張している。

ジャバリヤでの戦闘は近隣の2つの病院にも影響を与え、数百人の患者や避難民が病院内に閉じ込められている。そのうちの一つであるアル・アウダ病院が21日に攻撃され、3人の医師を含む4人が死亡したと、同病院のアフメド・ムハンナ院長がテレビ局「アルジャジーラ」に語った。同院長はこの攻撃はイスラエルによるものだと主張したが、AP通信はその主張を独自に確認することはできなかった。医療援助団体「国境なき医師団」は、死亡した医師のうち2人が同団体のために働いていたと発表した。

ジャバリヤの住民らによると、イスラエル軍が空爆の援護のもとで前進を試み、激しい戦闘が発生したという。大学生のハムザ・アブ・マンスールさんは、「彼らは激しい抵抗に直面しています」と語った。

イスラエル軍は、戦闘員が隠れていた3つのトンネルを攻撃し、ロケットランチャーを破壊したと発表した。同軍が公開した映像には、銃撃音が周囲に響き渡る中、兵士らが徒歩でパトロールする様子が映っている。

この戦闘の詳細を独自に確認することはできなかった。

ガザ地区北部に残っているパレスチナ民間人の人数は不明だが、国連パレスチナ難民救済事業機関（UNRWA）の推計では、まだ約16万人が北部にあるUNRWAの避難所にいる。同機関はもはやサービスを提供できないにもかかわらずだ。

ここ数週間で多くの人々が南部に退避したものの、北部のいくつかの病院にはまだ数千人以上の避難民がいる。

病院の大半はもはや機能していない。世界保健機関（WHO）高官のマイケル・ライアン氏は20日、ガザ地区の病院の状況は「壊滅的」だと述べた。

同じくジャバリヤの近くにあるインドネシア病院の中で、保健省高官ムニル・アル・ブルシュ氏はアルジャジーラに対し、同病院はイスラエル軍に包囲されているため、職員は50人の遺体を病院の中庭に埋葬しなければならなかったと語った。

ガザ保健省によると、同病院には負傷者最大600人と避難民約2000人が足止めされたままだという。

ガザ地区最大の病院であるシファ病院でも、同じような膠着状態がここ何日か続いた。同病院では、31人の未熟児の避難が完了した後、250人以上の患者と医療従事者が立ち往生している。

イスラエルはここ数日、シファ病院に戦闘員がいた証拠を提示している。しかし、同病院の地下にハマスの主要な司令部があるという主張はまだ立証できていない。ハマスと同病院の職員はそれを否定している。

北部と南部の悲惨な状況

ガザ地区の人口230万人の大半が押し寄せている同地区南部ではイスラエルによる攻撃が続いているうえ、同軍はこの地域に地上侵攻を拡大するつもりだと言っている。南部では多くの人々が国連が運営する学校やその他の施設にすし詰めになったり、（海岸沿いの同地区ではここ数日冬の雨が降っているにもかかわらず）路上で寝泊まりしたりしている。

ガザ地区全域で食料、水、発電機用の燃料が不足しており、中央の電気は1ヶ月以上止まっている。

病院関係者らによると、ガザ地区中部のヌッセイラート難民キャンプでは、前日夜からの空爆で住宅が崩壊し、少なくとも20人が死亡した。現場で撮影された動画には、ある家の倒壊したコンクリート床版の下から5人の少年の足が突き出ている様子が映っている。

イスラエルはガザ地区全域でハマスのものとされる標的を攻撃し続けており、しばしば女性や子供を殺害している。同国はハマスが民間人を人間の盾として利用していると非難している。

AP