北京:今週、中国はパレスチナの敵対勢力間の交渉を仲介し、ウクライナの外務大臣を歓待した。
ハマスとファタハの和解合意が成功するかどうかは不透明で、ウクライナの和平に向けた具体的な進展はほとんど見られないが、中国は単なる経済大国としてだけでなく、グローバルな舞台における重要な外交勢力としての影響力をみせつけた。
中国とアメリカが世界中で影響力を競い合うなか、中国はこれまでアメリカやロシアといった大国任せだった役割を担うようになってきている。西側諸国は中国の最近の動向を憂慮し、トラブルメーカーと称した。しかし、今週の一連の出来事、そして昨年中国が仲介したイランとサウジアラビアの関係回復の合意は、世界の主要な国々が中国の支援を求めており、侮ることのできない外交勢力として認識されていることを示している。
米国平和研究所の中国上級研究員であるカーラ・フリーマン氏は、「中国は今、世界の舞台で仲介役としての地位を確立しつつあり、各国はそれに応えつつあります」と語る。「国際的な影響力を持ち、外交上の成果を高める役割を果たせると示す、つまり中国が強く求めているのは、承認されることです」と同氏は語った。
火曜日、パレスチナのハマスとファタハは統一政権樹立に向け基本合意した。イスラエルとの戦争後、ガザの将来に立ちはだかる長年の対立を解決するための直近の試みである。戦略国際問題研究所の上級副会長兼中東プログラムの責任者を務める、ジョン・アルターマン氏は、「中国は『誰もできなかったこと、誰も可能だと思わなかったことを成し遂げた』と言うでしょう。ただそれだけで、中国にとっては勝利なのです」と同氏は述べた。
アジア・ソサエティ政策研究所のダニエル・ラッセル副所長(国際安全保障・外交担当)は、「中国は、統一政権樹立の実施時期や再建のための資金など、具体的な手段を公には提示しませんでしたが、今回の合意は、中東で影響力を持っている事を示唆した、あらたな証しであり、米国にはない駆け引きの可能性を感じさせるものです」と語った。
ハマス関係者は、敵であるイスラエルの強固な同盟国であるアメリカに対抗しうる存在が、中国である、と見ているという。
ラッセル氏は、宿敵同士であるイランとサウジアラビアの和解を指して、「中東の主要国に対するアメリカの影響力は依然として大きいですが、イランとサウジアラビアは、中国の仲介によって2023年に和解し、これは飛躍的な前進だと広く評価されています。イランやハマスと交渉することをいとわない、新しいプレーヤーがこのゲームに参加しだしたのです」と続けた。
その間、アメリカでは、ガザ戦争に対する姿勢や、今週イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相を首都に招いたことで、国内での反発に悩まされている。大統領選が近づくにつれ、同盟国でさえアメリカの外交政策への取り組みに疑念を抱いている。一方、中国側は喜びに沸いた。
中国の王毅外相は火曜日、ハマスとファタハのトップと記念写真を撮り、自信をのぞかせた。中国国営メディアの大衆紙「環球時報」は、パレスチナの和解合意には 「超越的な意義 」があると称賛した。
その1日後、ウクライナのドミトロ・クレバ外相も王外相と記念撮影し、中国には和平のために果たすべき役割があると述べた。
中国外務省の毛寧報道官は2日、今回の和解合意は「パレスチナの人々に希望と未来をもたらし、またその問題を解決し、中東における平和と安定を達成するための重要な一歩となる」と述べた。
西安市にある西北大学でイスラエル研究を専門とする中国人学者、Wang Jin氏は、非西洋勢力の関与はイスラエル・パレスチナ紛争の解決に「新風」を吹き込む可能性があると述べた。
ワシントンでは、国務省のマット・ミラー報道官は、この和解合意自体についてのコメントは避けたが、アメリカは一般的に中国に対し「中東地域の国々、特にアメリカが影響力を持たない国で、中国が影響力を持つ国に対し、紛争の激化抑制に尽力するよう働きかけてきました」と述べた。
中国は長い間、グローバルな舞台でより強力な影響力を求めてきたが、近代国家として世界にその名を轟かせた北京オリンピックの開催を成功させた2009年頃から、ますます積極的な姿勢を見せるようになった。それは、かつての指導者であった鄧小平氏が、中国の外交政策を「控えめ」と表現していたのとは対照的であった。
2012年に政権に就いた習近平国家主席のもとで、より自信に満ちた、時には大胆なアプローチが台頭してきた。中国は同主席の下で、外交官たちに「中国の特色を生かした主要国外交」を追求するよう促してきた。
これは、世界第2位の経済大国が発展途上国に融資を行うという、その取り組みから既に10年が経過した「一帯一路構想」のような画期的な構想や、世界最大の安全保障問題に中国のビジョンを導入するという「グローバル安全保障イニシアティブ」のような新構想を指している。
パレスチナの新政府樹立における和解合意は、中東での中国の新たな影響力の象徴であるが、ウクライナ外相の訪問は、アメリカ大統領選挙がウクライナ情勢にもたらす不透明感や、中国がアメリカ、EUと並ぶ世界の3大主要国のひとつであるという認識と結びついているのかもしれない。
「私は、ウクライナの平和は中国の戦略的利益であり、また平和を追求できる世界的影響力を持つ中国の役割は重要であると確信しています」と、2022年のロシアの全面侵攻以来、中国を訪問したウクライナ最高位の高官であるクレバ外相は、中国訪問中の水曜日に語った。
中国はロシアの最大の同盟国であり、ロシアに軍事援助はしていないと主張しているが、紛争を通じて隣国との強い貿易関係を維持してきた。その中には、ロシアの兵器に使われる技術も含まれている。しかし、中国がロシアと戦略的パートナーシップを結んでいること、そしてロシア軍の勢力が徐々に優勢になっていることを考えると、有利になるような停戦協定は、後ろ盾がなければ実現しない可能性が高いことをウクライナは認識している。今回の同外相の訪問はまさに打算的なものだった。両国の関係を深めることは、ウクライナの利益につながるだけでなく、中国が世界の舞台で重要な役割を果たすことになると、説得したのだ。
シンガポールにある南洋理工大学、国防・戦略研究所のジェームズ・チャー研究員は、「今後、平和が実現するためには、中国を蚊帳の外に置くことはできない、とウクライナ側は認識しています」と語った。
米シンクタンク、ランド研究所のシニアアナリスト、デレク・グロスマン氏によると、北京の影響力は増しているものの、米国に比べればはるかに慎重なアプローチをとっていると指摘する。今のところ、それが中国の台頭を遅らせているという。同氏は「この12年間で、中国は世界の大国となりました。しかし、世界のいたるところで影響力を強めたい、と考えている一方で、それによる負担は望んでいないのです 」と続けた。
AP