
ハゼム・バルーシャ
ガザ市: 「コロナによる死でも餓死でも、死ぬのは同じです」。ヤヒヤ・カドルはこのわずかな言葉で、コロナウイルスが大流行しているイスラエルに残って働くことを選んだ自身の状況と、数千人のパレスチナ人について総括した。
約2ヶ月前に当局の呼びかけに応じ、感染を避けるためヨルダン川西岸の自宅に帰っていたカドルや同じような事情の他の人たちは、パレスチナ自治政府とイスラエルの間の協定に従い今週初め、働くためにイスラエルに戻ってきた。
しかし約50,000人のパレスチナ人は生活状況が厳しいことと、ヨルダン川西岸地域には仕事がないことから、パンデミックにもかかわらずイスラエルに滞在し続けた。そして仕事に戻り、今月下旬にラマダンが終わるまでは家族の元へ帰らないことに同意した。
「その決意は簡単ではなく、毎日感染の恐怖の中、過酷な環境で働いています。でも家族を支えるためにはリスクを取って働くしかないのです」と、彼はアラブニュースに語った。
カドルはヘブロンのタルキーミヤ村の出身で、建築作業場で働いている。夜になると職場がその場しのぎの家に変わり、10人の同僚たちと寝泊まりしている。「イスラエルの建築請負業者が作業場の使われていない部屋に、ベッドと毛布をいくつか提供してくれました。キッチンやバスルームはありません…屈辱にまみれた生活です」
公式な数字によれば、イスラエルとヨルダン川西岸に点在する植民地で働くパレスチナ人労働者の数は約135,000人いる。そのうちの90%が建設業に携わっており、残りは農業や他の分野で働いている。
労働者たちの賃金は、ヨルダン川西岸の経済にとって最も重要な収入源の1つである。パレスチナの推定によれば、イスラエルで働く労働者の日給は100~150ドルで、パレスチナ領地の中で働く人の日給よりもずっと高い。
5月6日、パレスチナのマフムード・アッバース大統領は、コロナウイルスの大流行に立ち向かう措置の一環として、非常事態を1ヶ月間延長した。延長はこれで3度目となる。
しかし非常事態下におけるパレスチナ自治政府の厳しい措置も、数千人のパレスチナ人が正式な許可を得ずにヨルダン川西岸に沿って立てられた壁の迂回路や隙間を通って仕事に戻ることを防ぐには不十分だった。
労働者の中には、ヨルダン川西岸に戻るようにラマダン開始前に呼びかけたパレスチナのムハンマド・シュタイエ首相の要請に応じた者もいるが、数千人は14日間の隔離を受けずに済むようにイスラエル内にとどまることを決意した。
「10人の家族を食べさせています。もし働かず、彼らに必要なものを与えられなくても、誰も助けてはくれません」と、イスラエルで働く鍛冶工のハッサン・タニナはアラブニュースに語った。
「社会の健康は重要で、パレスチナ自治政府の手続きは必要なことですが、家族の生活が第一です。14日も隔離されれば仕事に戻ることができず失業し、生活を支える収入源がなくなってしまいます」
パレスチナ労働組合総連合事務総局のサヘル・サルソーによれば、労働者がイスラエルで働くことを止めたとしても、パレスチナ自治政府が彼らに対し得られなかった賃金を補償することはできないという。
「ヨルダン川西岸の状況は厳しく、雇用機会もないため、労働者は家族との生活を守るために非人道的な条件で寝泊まりして働くことを受け入れています」と、彼はアラブニュースに語った。
パレスチナ自治政府はジレンマに直面していると、サルソーは説明する。もし制限を擁護し、労働者がイスラエルへ働きに行くことを阻止したならば、彼らに別の生活の手段を提供しなくてはならなかった。しかしこの選択肢は使うことができなかった。なぜなら、米国の圧力と「パキスタンの税収に対するイスラエルの海賊行為」が原因で財政危機に陥っているためだと、彼は付け加えた。
パレスチナ自治政府はイスラエルに続くゲートや検問所を完全には制御できておらず、労働者たちに政府の決定を徹底的に課すことができなかったと、サルソーは言う。そのため、イスラエルとの間で協定を結ぶことが可能性のある最良の結果であり、この協定によってウイルスの拡散を防ぐための統制の形がもたらされた。
パレスチナ政府広報官のイブラヒム・メルヘムは、2国間の新たな協定は「労働者たちの秩序だった入国と帰国、および出国時と帰国時の健康状態のチェックを規定していると説明した。
彼はアラブニュースに対し、イスラエル国内に働きに行くことが許されている労働者は建設分野で働き、誰とも接触しないため、その場にいない人に感染する可能性はないと語った。
メルヘムはそれらの労働者に対する地元経済のニーズや、年間数十億ドルと推定される彼らの財政的な貢献については軽視しなかった。